
残業しないと生活が成り立たないから、副業せざるを得ない――。「働き方改革」として長時間労働是正のために残業削減が進む中、このような状況が生じているという。
残業削減で副業に流れるのはなぜなのか
残業が減ったことで副業へと流れる人が出ている現状について、残業削減・組織活性化コンサルタントの春日康伸さんは、そもそも「残業によって減った賃金の補てんのために副業が必要になるような体制」に問題があるという。
「本来長時間労働の是正は、過重労働による健康への悪影響に配慮しつつ、業務量の削減や効率化による生産性の向上、ビジネスモデルの変革によって行われるべきものです。効率化することにより、結果として賃金が減ってしまうことは、長時間労働を削減する本来の目的をゆがめてしまいます」
春日さんによれば、賃金が減ってしまうために副業せざるを得ない原因としては、次の二つが考えられるという。
1.労働時間は減ったものの「付加価値労働生産性」が向上していない
「ただ労働時間を減らしても、付加価値労働生産性が向上しなければ、賃金が減少してしまいます。
付加価値労働生産性とは、労働者1人当たり、どれだけの付加価値を生み出したかを示します。付加価値とは、売上高から外部調達費(原材料費や外注費など)を差し引いた自社の利益のことです。
賃金を減らさないためには、労働時間が減少しても、その限られた時間内で、労働者は減少前と同じ付加価値を生み出す必要があります。ただ、そのためには労働者個人のスキルアップと共に、会社全体で行う作業の見直しやシステム・機械の導入など、多方面からのアプローチが必要になってきます。
問題は、IT化や経済のグローバル化に対するビジネスモデルの変革の遅れ、教育・能力開発コストの抑制による社員のスキル・能力不足にあると考えます」
2.向上した付加価値に見合った賃金体系の見直しがなされていない
「もし労働者が生み出す付加価値が向上したとしても、公正な人事評価に基づく適正な賃金配分がなされていなければ、賃金に不満が出てきてしまいます。この場合、経営上および人事制度上の問題になってきます」
副業で会社と社員が「WIN-WIN」の関係になれる可能性も

春日さんによれば、残業削減により副業が増えることは、必ずしもマイナスになるとは限らないという。
「副業は、会社と社員がお互いに『WIN-WIN』になれる可能性があると考えています。
副業を解禁した会社は、労働力不足とそれに伴う生産性低下が懸念されます。
しかし副業がさかんに行われることで、労働時間そのものが残業削減前と変わらなければ「働き過ぎ防止」対策にはなっていない。
「副業解禁による長時間労働を抑制するためには、副業に従事する社員について、フレックスタイム制度を導入するなどの働き方改革も必要になるでしょう」
中小企業は兼業を認める傾向、大企業は時期尚早
2016年2月、ロート製薬が兼業を認める制度を打ち出した。今後、このような「副業解禁」は他企業でも増えていくだろうか。
「すでに、就業規則で副業・兼業の『許可制』を導入している会社は多くみられます。禁止できる副業は、会社の企業秩序を乱したり、業務遂行に支障をきたしたりするものに限られます。
ただ、いまは人手不足の影響で、『副業を認めてでも人手を確保したい』という会社も出てきています。また、経済のグローバル化の影響で、多様な働き方を認められない会社は、優秀な人材を集めにくくなってくることも予想されることから『副業解禁』に踏み切る会社も増えてくるのではないでしょうか。
弊社クライアントでは、副業解禁について『時期尚早派』と『副業OK派』の両方の意見が出ています。しかし『時期尚早派』は比較的大企業やそのグループ企業が多く、規模の小さい中小零細企業では、『自社業務に影響を与えない範囲であれば副業OK』としているケースが多いようです」
(石原亜香利)
取材協力
残業削減・組織活性化コンサルタント 春日康伸さん
株式会社HNC 代表取締役
「協力する組織づくり」をモットーに、ワークショップを活用した社内コミュニケーションの活性化による残業削減を支援。クライアントの生産性向上とワークライフバランスの両立に向けて精力的に活動中。
http://www.hnc-inc.co.jp/