近年「過労死」や「働き方改革」が話題になり、日本人がこれまで正しいと信じていた働き方に対して、疑問を投げかける声が大きくなってきました。

そこで今回は、従来の常識とは違った働き方をしている人物として、ニートが1時間1000円で一緒に遊ぶ「レンタルニート」の活動で有名になった、NEET株式会社の仲陽介さんにお話を伺ってきました。


レンタルニートから見た「働き方改革」 世間体のために働くことに違和感

思わぬ形で話題になったレンタルニート


――そもそもNEET株式会社とはどんな会社なのでしょうか?

「NEET株式会社は、簡単にいうと、ニートたちが集まって起業しようということで、今から約3年半前、2013年の11月にできた会社です。特徴としては雇用された従業員がおらず、全員が取締約だというところですね。そもそもニート(NEET)という言葉は『Not in education, employment, or training』の略なので、雇用されてしまうとニートではなくなってしまうんです」

――仲さんが注目を集めるキッカケになったレンタルニートとは?

「NEET株式会社は、どんな事業をしてどういうお金の稼ぎ方をしようということを全く決めないまま設立した会社だったのですが、レンタルニートについては事業のひとつとして、2014年の5月末に僕ひとりで始めました。最初期の活動としては段ボールに紙を貼り付けただけの簡素な看板を持って町中に立っていただけです。看板には『ニートが1時間1000円で一緒に遊びます』ということ、利用例としてポケモンやモンハン、カードゲーム、ネタとしてメンコやベーゴマなんかもできるよというようなことを記載していました。

当初の思惑としては、町でそういう面白い行動を続けていれば数ヶ月後にSNSにやまとめサイトに掲載され、注目されれば良いなという気持ちがあったんです。けれど実際にやってみたら、自分でTwitterにアップした看板の画像が、思っていた以上にリツイートされて話題になりました。
するとテレビ番組の、ネットで話題のネタを扱っているようなコーナーから取材の依頼があり、結局開始から2週間でテレビに出るという結果になりました」
レンタルニートから見た「働き方改革」 世間体のために働くことに違和感


儲からなくてもレンタルニートは続けられる


――開始から3年経ち、レンタルニートの現状はいかがですか?

「頻度としては週に1度、依頼があるかどうかというところですが、継続しています。細々ではあっても継続していることで、『今もまだやっているなら利用してみようかな』という利用者の方にも対応できていますし、Twitterのフォロワーも初めの頃にくらべるとずいぶん増えたので、別の用事で都内に来たフォロワーさんがついでに利用してくれたり、時間が空いた時に『今日はここに居るよ』ということをツイートしておくと、それを見た方が声を掛けてくれることも結構あるんです。普通の企業であれば儲からない事業は打ち切ってしまいますが、儲からなくても自分のこだわりで続けていけるところが気に入っていますね」

――今どんな生活をされているんですか?

「レンタルニート以外では、これもNEET株式会社の事業としてやっているプラモデルの制作代行が主な収入源になっています。現在はNEET株式会社のメンバーでやっているシェアハウスで暮らしていて、月々の家賃は3万円。支払いが遅れることもあれば、光熱費を滞納してしまうこともあって、迷惑を掛けてしまうこともあるんですが、生活のためにアルバイトをやったり、やりたくない仕事をすることはなく暮らしています」


収入は少なくてもニートで自由に暮らせる前例に


「NEET株式会社という社名が特徴的なこともあって、国内のメディアでは面白ネタ、イロモノとして取り上げられることが多いですが、労働問題・雇用問題に対する問題提起として取り組んでいる側面もあります。僕自身は大学を卒業した後、就職をせずにNEET株式会社に参加しましたが、友人をはじめ周囲の若者の声を聞くと『生活のために好きではない仕事を仕方なくやっている。しかも収入は増えない。生活は苦しい』という話を多く耳にします。
そういった、ある意味不本意な働き方をせずに、収入は少なくてもニートのまま自由に暮らしていき、『こんな生き方も選べるんだ』という前例を作っていきたいですね」

――海外のメディアから取材を受けたことも。

「海外のメディアからは労働問題・雇用問題についての意見を求められることが多いです。例えば韓国では財閥の影響が強く、日本以上に若者の起業が難しいといわれているんですが、そんな中、『日本にはこういう活動をしている人が居ますよ』ということでNEET株式会社のことを取り上げてもらいました。ドイツのラジオ局から取材を受けた時は『アベノミクスで景気は上向いているそうですが、実際の生活はどうですか?』というようなことを聞かれて、僕自身はニートなのでともかく、周囲を見る限りは給料が上がったとか景気のいい話はあまり聞かず、富裕層は儲かっているのかもしれないけど、一般人の生活にはあまり変化がないと思う、ということでお話をしました。ちなみにドイツでは大学を卒業してもすぐに就職しない人が珍しくないので、そういう人を指す『ニート』のような特別な呼び名はないらしいですよ」

レンタルニートから見た「働き方改革」 世間体のために働くことに違和感

ニートから見た「働き方改革」


――「働き方改革」が話題ですが、現代人の働き方はニートの目にどう映っていますか?

「今は便利な時代で『安くて良いもの』がすごく増えました。けれど一方で、それは提供する側にとっての負担にもなります。製造業や販売店、サービス業に求められる能力は上がっている一方で、給料の方はあまり上がっていない。
より質の高いものを提供しても給料が上がらないという現状は、望ましくないように思います」

――本来、人は生きていくために仕事をするものですが、その仕事が原因で自殺をするという事件も増えており、働く理由が見えにくい世の中になっていると思います。

「NEET株式会社での活動に対して『こんな働き方では食べていけないよ』と言われることは多くあるんですが、この『食べていく』という表現に違和感を感じるんですね。文字通り食べるものがなくて餓死してしまうようなことは、今の時代にそうそう起こらない。彼らのいう『食べていく』という言葉は、世間体というか、仕事をしている体を保つことを指しているように僕には思えますし、そういうものに縛られすぎて見返りの得られない残業を当たり前のようにやらされたり、自殺するほど辛い思いをしてまで働き続けるのは本末転倒です。それに気づいてもっと楽な働き方をする人が増えれば良いなと思いますね」


批判を浴びても発信することで仲間が増えていく


――注目を浴びたことで、ニート株式会社やレンタルニートの活動にも色々な声があったと思います。必ずしも応援の声ばかりではなかったと思いますが、どう向き合ってきましたか?

「世間の声については、ずっと晒されてきたのでよく分かっています。
けれど活動や発信を続けていくことで、応援してくれる人や共感してくれる人も集まってくるんですね。世の中に対する不平不満を言える場所、言って受け容れてもらえる場所というのは意外と少ないので、本音を隠したまま『みんな我慢しているのだから』と悪い条件の中で働いてしまったりする人は多いですが、同じように今の労働環境に納得していない人や、変えられるものなら現状を変えたいと思っている人も実はたくさんいますし、声を出し続けることでそれに気付きます。なので今後も、気力が続く限り活動を継続していきたいですね」

(辺川 銀)