その『北斗の拳』以後、原作ありきの時代劇作品が続いていた原哲夫先生が満を持して臨んだ現代物ストーリーの超大作『猛き龍星』をご存知だろうか?
もっとも、正式には超大作「予定だった」になるのだが……。
『ドラゴンボール』終了後のジャンプの看板作品を目指せ!
『猛き龍星』の連載スタートは95年21・22合併号。
ジャンプはこの年の3・4合併号で653万部と言う驚異の発行部数でギネス記録を樹立(記事はこちら)。イケイケな時期ではあったが、人気の牽引役だった『ドラゴンボール』は連載終了目前。読者離れが始まるのは目に見えていた。
そこで、編集部が期待を掛けたのが原先生によるこの作品。当時のジャンプは堀江信彦編集長時代。『北斗の拳』連載時の敏腕編集者である。懇意の仲であり、後に「週刊コミックバンチ」を共に創刊する盟友だ。
前作『影武者 徳川家康』連載終了から2ヶ月足らずでの新連載と言うことからも、期待の大きさが伺える。
ジャンプ初期の名作の原哲夫版として始まったが……
ジャンプ創成期を支えた『男一匹ガキ大将』のリメイクを目指していたそうで、連載開始時のジャンプではその作者であり、漫画界のレジェンドでもある本宮ひろし先生と原先生の対談記事まで組まれるほど。両者顔写真ありの、今思えばかなり貴重なショットを披露している。
『男一匹ガキ大将』は、男気あふれるガキ大将がケンカを通じて次々に仲間を増やしていき、ついには日本を動かす男となる立身出世ストーリー。
あの『聖闘士星矢』の車田正美先生も大いに影響を受け、オマージュ的な位置付けで80年代中期に『男坂』を連載。しかし、半年ほどで打ち切りとなった経緯があった。
『男一匹ガキ大将』自体が60年代末から70年代初頭にヒットした作品であり、『男坂』の時点でもすでに時代遅れ感が否めなかった。
これを原先生のアレンジで90年代風にアレンジしたのだが……。
連載中に作者が「しっくりこない」とボヤくほど迷走!?
『猛き龍星』は、「天佑」と言う単なるツキを超越した「天にも佑(たす)けられる運の強さ」を持つ男、花藤龍星の成り上がりストーリー。
ヤクザとの抗争を経て、舞台は日本から香港(返還前)に。日本人のための日本人による新しい国家を香港に作ろうと奔走するのがとりあえずの目的となる。
壮大なスケールの話になることが予想されたが、コミックス2巻の作者コメントで「これがなかなか、ガキ大将にならない。描いていくと一向にかみ合わないようで、どうにもしっくりこない。おっかしいなぁ、などとブツブツ言いながら描いてた訳です。まぁ途中で気づいたんですけど遅かった」と原先生がボヤくほどに人気は低迷。
掲載順位は巻末が定位置となり、大風呂敷広げた設定をほぼ未消化のままに全3巻で打ち切りとなってしまった。
伏線の回収は一切なし! あまりに唐突に終わったラスト
やたらと「漢(おとこ)」の文字が飛び交う、濃くて暑苦しい作風は、ポップカルチャー全盛の90年代中期の空気にはイレギュラーだったのは事実。
『北斗の拳』のように極端すぎる強さの描写があるわけでもなく、中途半端にリアリティを求めたため、どっちつかずな印象だったのも少年漫画としては致命的だったのかも知れない。
今回あらためて最終の3巻を読み直しても、4巻があるんじゃないか? とさえ思える微妙すぎるラスト。ラスト2話で、当初から予定していたと思われる第3のメインキャラクターが駆け込みで登場しているのが切ないのである……。
これも作者コメントによると「残り3、4回でちんまりまとめるくらいなら、途中でもまだ続きがあるようにしたかった」とのこと。
伏線を回収することなく、完全にぶん投げてしまった原先生もまた「漢(おとこ)」なのである。