今、再びの相撲ブーム。稀勢の里が19年ぶりの日本出身横綱になったことで、ブームは加熱している印象だ。


あの「若貴フィーバー」を彷彿とさせる熱気だが、そのブーム全盛期の92年、おそらく少年ジャンプ初の相撲漫画の連載が始まっている。
ただし、ジャンルはギャグ漫画、その名も『大相撲刑事』。荒削りなタッチと暴走ギャグで駆け抜けた怪作である。

『珍遊記』の後を受け、ギャグ漫画の新連載が続々スタート


この頃のギャグ漫画枠を支えたのは『珍遊記』。漫☆画太郎先生の狂気のセンスで、常識破りの展開が繰り広げられるナンセンスギャグ作品だ。

その連載が終了した翌週に、まずは『大相撲刑事』の読み切りが掲載。その年の内に連載が始まったのだから、編集部の期待は高かったと思われる。
作者はガチョン太朗。漫☆画太郎先生を意識していたと思われる、人を食ったペンネームである。

当時のジャンプでは、「GAGキング」と言う漫画賞レースを毎年展開していた。その栄えある第1回キングが漫☆画太郎先生だ。
第2の“ギャグマンガ界の鬼才”を育てるべく、編集部はギャグ枠の新連載に力を入れる。

同じように、読み切り発表から同年に連載開始のスタイルで、つの丸先生の『モンモンモン』がひと足早くスタート。
さらに、『大相撲刑事』連載開始の翌々週には『究極!!変態仮面』も読み切りを経て連載が始まっている。

興味深いのは、つの丸先生の読み切りが相撲を題材にしていたこと。『モンモンの相撲遊戯』と題し、ジャンプオールスターズが相撲をすると言う、新人とは思えないパロディ作品になっている。
この作品以前にも読み切り掲載も回数をこなしており、編集部の本命は明らかにつの丸先生だった。その対抗馬として期待されたガチョン先生だったが……。

ジャンプ作家No,1の速筆……単に絵が雑なだけ!?


1日8~10時間は寝ないと体調が悪くなるらしいガチョン先生。連載前には、他の先生方が3時間の睡眠で1年通したなんて話を聞いて、相当にビビったそうだ。

しかし、絵を描くのも話を考えるのも物凄く早いそうで、連載中も余裕で1日12時間寝れていたと語る。
もしかしたら、筆の速さで言えば『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生をしのいで、ジャンプ連載作家でNo,1かも知れない。もっとも、クオリティには圧倒的な差があるわけだが。

ネームはともかく、確かに絵は早そうなのを実感せざるを得ない大胆にも程がある荒削りなタッチ。スクリーントーンも一切使っていないし、おそらくアシスタントも皆無と思われる。
書き込みが足りない東陽片岡先生のような画風と言うか、親しみが一切わかないアクの強すぎるキャラクターぞろいだった。


ジャンプ打ち切り漫画史に残る絶大なインパクト


肝心の内容も荒削り。大銀杏に回し一丁の姿の主人公「大関」は、何事も相撲重視で考えるため、常識が一切通用しない超破天荒キャラ。その理不尽極まりない大関に関わった悪党が悲惨な目に合うのが毎回のストーリーだ。

全編に渡って、相撲に絡めたギャグが散りばめられているが、濃い絵柄に反してギャグ自体は弱火の印象。悪党に対して無茶な枚数&テーマのレポートを課すお約束ギャグも、お題が「木工用ボンドと登校拒否について」や「エレキギターと鼻毛切り」など、シュールを狙って滑った感が強かった。

それでも独特すぎる画風、タイトル、作者のペンネームとインパクトは絶大。たった10週で打ち切られてしまったこと、その後、早々に漫画家を廃業してしまったことも含め、星の数ほどあるジャンプの打ち切り漫画の中ではかなりの知名度を誇っていると思われる。

ちなみに、少年ジャンプで若貴兄弟の実録漫画『力人伝説 鬼を継ぐもの』の連載がスタートしたのは、『大相撲刑事』連載終了から3週後のこと。兄弟の原寸大の手形ポスターを付録にするなど、本腰を入れて相撲ブームに乗っかっている。
『大相撲刑事』は露払い的役割をまっとうした……のだろうか?
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