昨秋放送された『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』は、出版社の校閲部という題材の地味さにもかかわらず、平均12.4%という好視聴率を記録。
ファッション誌の編集者に憧れた出版社に就職したオシャレ好きの主人公・河野悦子(通称・コウエツ)が、希望とは異なる地味な校閲部に配属されて、仕事や恋に奮闘するというのが基本ストーリー。異常にハイテンションかつ校正能力が高い主人公を石原さとみが演じきった。悦子が恋する若手作家の幸人役に菅田将暉のほか、本田翼、青木崇高、岸谷五朗らが脇を固める。

「好きなことで生きていく」でいいの?
今回のスペシャルドラマは、悦子が憧れのファッション雑誌『Lassy』に配属されてから1年後のお話。『Lassy』に凄腕の新編集長(木村佳乃)がやってくるが、ベテランスタッフをクビにするなど、冷酷なやり方に悦子は猛反発。校閲の存在をバカにされ、悦子は編集部を追い出されてしまう。さらに幸人の新しい担当編集者(佐野ひなこ)が若くてエロくて可愛いとパニックに! 仕事と恋でピンチに陥った悦子が選んだ道とは……!?
『地味にスゴイ!』の全体を貫くテーマは、「夢を追うことと現実との折り合いの付け方」だ。悦子の夢はファッション雑誌の編集者だったが、明らかに校閲が天職だ。「夢」「現実」「得意なこと」「好きなこと」が混線して悩んでいる人は少なくないだろう。若い人だけじゃなく、けっこうな年齢の人にも多いと思う。だから、「好きなことで生きていく」なんてキャッチコピーに弱い。
石原さとみは今回のスペシャルドラマについて、「『天職って何だろう?』『夢って何だろう?』『好きな事って何だろう?』って色々考えさせられて……悦子の最後の選択にはすごくスッキリさせられました」とコメントしている(公式サイト)。
栄養ドリンクのような『地味にスゴイ!』
とはいえ、暗くならないのが『地味にスゴイ!』というドラマのいいところだ。ドラマの構造もメッセージも非常にシンプルで、「仕事で疲れている視聴者を元気づける」という機能に特化している。実際、ドラマ放送中は「元気になる!」という視聴者の声が非常に多かった。仕事疲れに効く、栄養ドリンクのようなドラマである。
スタッフ・キャストのチームワークの良さがうかがえるのも、「元気」がもらえるポイントの一つだろう。スペシャルドラマの放送が決定した頃から更新を再開した番組公式インスタグラムでは、撮影の裏側ほか、『24時間テレビ』でパーソナリティーを務めた石原さとみをスタッフとキャスト(江口のりこ&和田正人)が応援していたというエピソードも。『24時間テレビ』の「ダーツの旅」で石原さとみに突然声をかけられた若者がうらやましかった……。
「徹底的に」「正確に」……いつも心に校閲を
最後に少しまじめな話。ドラマのタイトルどおり、校閲という仕事は「地味」なものだが、昨今はあらためて注目が集まっている。
校閲とは「文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること」(デジタル大辞泉より)。誤字脱字だけでなく、ファクトチェック(事実確認)も校閲の重要な仕事だ。
ファクトチェックの手が及ばないのが、昨今流行りの「フェイクニュース」だ。昨年、DeNAの医療系キュレーションサイト「WELQ」が虚偽の情報を拡散して問題になった。このように校閲が機能していない、あるいは最初からコスト面、手間などの理由で「不要」だと決めつけているメディアは少なくない。
ただし、インターネットメディアがダメで、書籍や雑誌などの紙メディアが良いと一概に言うこともできない。インターネットにも校閲が存在しているメディアはあるし、紙メディアでも校閲を経ていないものは増えてきている。また、コスト面で校閲を通すことができなくても、「校閲は必要」と感じている編集者がいればチェックは厳しくなるし、そういう意識をもたない編集者なら必然的にチェックは甘くなる。
アリゾナ州立大学でデジタルメディア・リテラシーの教鞭をとるジャーナリスト、ダン・ギルモア氏が提唱する「メディアづくりのルール」は以下のようなものだ(平和博「偽ニュースの見分け方… ポスト・トゥルース時代は、まだ来ていない」より)。
1・徹底的に
2・正確に
3・公平に礼儀正しく
4・独立して考える
5・透明性を保つ
この全部を担っているのが校閲という仕事である。最初からフェイクニュースを飛ばしてやろうという考えの人は、校閲なんて眼中にない。ドラマの本筋とはたぶんまったく関係ないが、こんなことを少し頭の片隅に置いておいても悪くはないと思う。
(大山くまお)