
日本で一番多い姓は「佐藤」さん、人口の1.5%に当たるそうです。
しかし、これが国が変わるとパーセンテージの桁まで変わる訳で…。
ベトナムのグエンさんは4割!渡る世間は同姓ばかり
ベトナムの「Nguyen(グエン)」という姓。1802年から1945年までこの国を統治していた王朝にちなむこの名前を名乗る人は、9000万人以上いる国民の、なんと40%以上にものぼると言われております!佐藤さんが18倍に増えてそろそろ届くくらい。日本の姓で「山」や「田」が多い背景には農業に従事している人が多かったためとも言われますが、ベトナムでは王朝にあやかる人が相当数いたようです。
それにしても、これは40人のクラスだったら16人もいるという計算。当のグエンさんたちも周りの人たちも混乱しないのでしょうか?
そんな「グエンさんあるある」を友人のグエンさんにたずねてみたところ…やはり!あるようです。ご覧ください。
「眼鏡のグエンさん」「頭の良いグエンさん」「太っているグエンさん」と特徴で呼び分ける
「確かにみんなグエンですが、ベトナム人は下の名前かフルネームで呼び合う傾向がありますね」(グエンさん・26歳・男性)
「特徴で呼ぶこともあります、男の~、眼鏡の~、細い方の~、というように」(グエンさん・28歳・女性)
そりゃそうだろうなといったところですが、このように「グエンさん」とだけ呼ぶことは珍しいようです。フルネームなら、日本だと「佐藤健さん」「佐藤浩市さん」と呼ぶ感覚ですね。しかし、その下の名前までもがグエンさんだったりする場合もあるそうで(つまり「グエン・グエン」ということになる)、名字ほどではないにしろそちらも被るケースがあり、すると特徴づけて呼ばれる。眼鏡を掛けていたら「眼鏡のグエンさん」、頭が良ければ「頭の良いグエンさん」、太っていれば「太っているグエンさん」…って、いやいや、それひどくない!?と聞いたところ、「ベトナムではよくあること」だそうです。
近年になって都市部や若い世代を中心に変わりつつありますが、戦争によって満足にご飯を食べられなかった時代が長かったベトナムでは、太っている=裕福という発想になる人も多く、「太っているグエンさん」は決して悪口にはならなかったのかもしれません。だとしても、「頭の良いグエンさん」がいる一方で「頭の悪いグエンさん」もいるそうで、それはさすがに…というより、社会主義的思想からちょっと離れているのでは!?いずれにせよ、グエンさんが「グエンさん」と名字だけで呼ばれることはかなり珍しいとのことでした。
先祖が地域に馴染むために改名したという話も
「先祖はもともと違う名字でしたが、昔移住先に受け入れてもらうためグエンに改名したと聞きました」(グエンさん・28歳・女性)
こちらのグエンさんは、もともとひいおじいさんの代までは少数民族由来の違う名字だったものの、移住先の土地に馴染むために改名したというお話。ベトナムはキン族という民族が85%近くを占めるものの、実は多民族国家で54もの民族が暮らしています。以前、キン族ではないベトナム人の友人の名前もほかに聞いたことのないイントネーションではなかったことからも、キン族に馴染もうとして多数派であるグエン姓を名乗ることは当然の成り行きかもしれません。
少し余談になりますが、「Nguyen」の「Ng」は欧米ではあまり読み慣れないそうで(日本人にとってもそうですよね)、ベトナム人以外の友人に呼ばれるときには「ヌーエン」「ニューエン」とまばらになりおもしろい、と友人は話してくれました。簡単に言うと、喉を締めながらの「グ」。また、ベトナムでは「Tran」という名前があり、これは「トラン」ではなく実は「チャン」。しかし、英語読みでは「トラン」になるため、日本語を話すベトナム人の友人が持つ名刺では、読み仮名が「トラン」と振られている様子をよく目にします。
日本での「グエンあるある」も教えてもらいました
「居酒屋で席待ちしているとき、店員さんに『四名様でお待ちのグエン様』と呼ばれたときに別のベトナム人と同時に『はい』と応えた経験があります」(グエンさん・24歳・男性)
これはおもしろいですね!ベトナムだと「グエンさんはたくさんいる」という認識があるけど、日本ではそれが知られていない上に、そもそも同じお店の席待ちでベトナム人が二人以上いるという状況が滅多にないので、その場にいる全員が驚いたことでしょう。店員さんが一番奇跡的だと思っているかもしれませんが、実はそうでもない。日本にそれだけベトナム人の方が増えたということなんでしょう。
名字と名前のどちらもがグエンの場合もある
前述の通り、名字もグエン、名前もグエン、つまり「グエン・グエン」の場合もあります。日本でいうところの「佐藤・佐藤」。もう何が何だか訳が分かりませんが、これはベトナムにおいてはハッキリと声調(イントネーション)が異なる別の言葉として認識されるため、決して不思議なことではありません。
最後に、この記事を書こうと思ったきっかけは、先日公務執行妨害でそのまま逃亡したベトナム人(のちに逮捕)が「グエン」という名前で、テレビやネットのニュースで「グエンだグエンだ」と報道されていることに違和感を覚えたからでした。友人もそれで日本人の友人からいじられたと話していましたが、グエンさんは3600万人、世界で四番目に多い名字だからな!と声を大にしてお伝えして本稿を締めたいと思います。
(ネルソン水嶋)