
希望の党の国政進出と民進党の解党によって混乱を極めていた衆議院選挙ですが、(1)自民・公明、(2)希望(+民進保守)・維新、(3)立憲民主・社民・共産、という3つの勢力に収斂したことで、いよいよ本格的に選挙戦がスタートしそうです。
ただし、勢力が3つだけなのであって、自民・公明と希望・維新では消費増税凍結以外は自民・公明と大きな違いが見えません。
テレビが報じるのは選挙ではなくお祭り
ところが、そのような「まずは政策ありき」という視点で選挙を見る人は、残念ながらほとんどいません。まるでお祭りか対戦ゲームのように「どこが勝つか」「誰が勝つか」で盛り上がっているだけ。テレビに出ている政治コメンテーターですら、その多くはまるで競馬の予想をしているようです。
そして喧嘩の傍観が大好きなテレビや有権者の野次馬根性を見事に突いて操っているのが小池氏です。単純接触効果(繰り返し接すると好意度が高まる効果)を狙って画面に出続ける小池氏のテレビジャック作戦で強引に「風」を作り出すことで、希望の党は支持を一定程度獲得しています。一部の良識あるコメンテーターが孤軍奮闘して小池氏に操られるメディアのあり方を批判していますが、焼け石に水状態です。
日本国民の「劇場」を作り出す手法はまるでアジテーターのようで、冷静に見れば警戒心が高まると思うのですが、残念ながら「好感」を頂く有権者は少なくないようです。爆笑問題の太田光氏は自身の番組「サンデー・ジャポン」(TBS系)で、「(小池氏は)日本人全員バカだと思ってるんじゃないかな!」と批判したようですが、残念ながら日本人の有権者の多くはその程度なのだと思います。
テレビに振り回されずに投票する方法
では、テレビ等のメディアに流されず、政策ベースで投票先の政党や候補者を選ぼうという時、私たちはどのようにすれば良いのでしょうか? もちろんそれはそれぞれの政権公約や候補者個人の公約等を確認することですが、実はその前に絶対にやっておかなければならないことがあります。
それは、「自分の政権公約」を作ることです。確かにインターネット上で自分の政治的信条に最も近い政党はどこかを調べるツールがたくさん出てくるようになりましたが、あの質問はその時その時の争点ばかりなのが問題です。争点の多くは政党やメディアによって設定されているものが多いため、結局振り回されていることには変わりありません。
それ以前に、自分がどのような社会像(目標)を理想としているか、つまり自分は何主義なのかを知る必要があります。
自分の政権公約を作ってみよう
とりあえず分かりやすいように、私の例でお話します。私の政治的信念は「進歩主義(社会の矛盾・不合理を知識と道徳によって変革していこうとする思想)」と「社会民主主義(民主主義のもとで福祉がくまなく行きわたる社会制度を目指す思想)」です。カナダ自由党やスウェーデン社会民主労働党等が最も近い考えだと思っています。
もちろん、それらに日本の特異な状況を加味して修正を加えています。たとえば、繰り返し指摘してきたことですが、日本は「法治より人治」という傾向にあるため、法治を徹底するために犯罪に対してはややラディカルな対策が必要というスタンスです。あくまで一部にしか過ぎませんが、これらの思想を実現するための手段として、私なりの政権公約を書き出してみました。
~2050年に老衰以外の死亡者ゼロ~
・予防医療の徹底
・自殺者ゼロ
・殺人ゼロ
・交通事故ゼロ
~共謀罪に代わる具体的な治安対策~
・厳罰化(罰金10倍・刑期3倍)
・泣き寝入りゼロ社会の実現
・性暴力ゼロ&性の商品化に対する規制強化
・屋内全面禁煙&受動喫煙の刑罰化
・差別やトラブルを招く偏見や「認知の歪み」の一掃
・公共空間全てに防犯カメラの設置
・迷惑行為の刑罰化(ポイ捨てや路上ナンパ等)
・ネットヘイトの一掃
・加害者更生プログラムの推進
~国際・安全保障~
・安全保障を目的としたEUのような経済統合をアジア・太平洋地域で実現
・アジア版シェンゲン協定
・中国の軍縮・民主化を応援する経済外交政策
~ジェンダー~
・政治と企業に「パリテ」を強制
・婚姻改革(夫婦別姓、日本版PACS、同性婚合法化)
・戸籍制度から個人登録制度へ移行
・共同親権、離婚後の養育費強制徴収等
・男性の家事育児分担率50%
~教育~
・自己肯定感の育成を第一に置く教育への転換
・保育園と高等学校の義務教育化
・いじめゼロ(人権教育の徹底、刑法の厳格な適用、防犯マイクの導入、隠蔽学校への制裁)
・部活動の廃止(地域クラブ)
・子供の自主性を損ねる校則と制服(学校統一服)の廃止
・習熟度別クラスの徹底導入
~経済~
・一人当たりGDPを50,000ドル超え
・「富裕層―相対的貧困層」の差から「富裕層―普通」の差へボトムアップ
・キャッシュレス社会の実現
・ロボット・IoT・AI社会の徹底的な推進
・規制をゼロベースで見直して常に最適な状態に保つ
・「ポスト原発時代」を見据えた未来志向の脱原発
~税制~
・所得への課税から資産への課税へ(固定資産税強化等)
・大幅なタバコ増税で価格世界一
・欧州福祉先進国並みの消費税率と社会保障給付
・紙の申告から電子申告へ全面移行
~労働~
・ブラック企業全滅
・法人減税と労働分配率向上
・男女賃金格差の完全なる解消
・ハラスメントの刑罰化
・ロボット・AI社会に対応できる労働力の育成
・HRテック推進による歪んだ人事評価の一掃
・労働生産性向上推進(決裁権限の分権推進によるホウレンソウの大幅削減等)
・終身雇用制度の完全なる終焉
・飲みニケーションの一掃
~社会保障~
・家族保障から個人保障への完全なる転換
・年金制度における賦課方式の段階的廃止
・こどもの社会保障を欧州福祉先進国並みに引き上げ
・高齢者間における年金給付の格差解消
~政治~
・社会保障・治安・人権では大きな政府推進、経済では小さな政府推進
・条件付き外国人参政権付与
・有権者教育の徹底
・コンパクトシティの徹底&選択と集中による地方壊滅の回避
安保への賛否二元論と化した日本の保守とリベラル
今回、この中でピックアップしたいのは、安全保障政策やエネルギー政策です。良いか悪いかは別として、日本における保守・リベラルという区分は欧米のそれとは異なり、「安倍政権の安保政策に賛成か反対か」「憲法9条改正に賛成か反対か」「原子力発電を今後も続けることに賛成か反対か」で分けられていることが大半です。
確かに私も二者択一で言えば3つともに「反対」の意見なのですが、「改憲反対(護憲)」「安保法制反対」「原発反対」を唱えるいわゆる日本的な「リベラル」勢力のスタンスに対しても違和感を覚えていました。それを上記のように政策を書き出すことで、ハッキリと違いが分かったのです。
私は「日本の平和」ではなく、「地球の平和」に力点を置いていることや、「現在の平和」ではなく「現在から未来へ続く平和」に力点を置いているというところ、そしてその目標から逆算して「今は何をするべきか」ということをリアリズム的に考える点が、「リベラル派」の意見とは若干異なるということが分かりました。
経済統合こそ安全保障の本丸だ
その最大のポイントは「経済統合」と「広域アイデンティティーの確立」です。フランスとドイツの関係は大変良好ですが、それは第二次世界大戦の反省から、ECを設立し、経済統合を進め、「ヨーロッパ人」という意識の醸成をした点が非常に大きいでしょう。EUの成功から考えれば、安全保障として経済統合と広域アイデンティティーの確立が最も有効であり、日本も安全保障としてそれらを推進するべきだと思うのです。
弥生時代は村と村が争っていました。戦国時代は大名と大名が争っていました。ですが、今の時代、そんなことは起こる可能性は極めてゼロに等しい。それは経済の統合が進み、同じ日本人という広域アイデンティティーの確立がなしえたからでしょう。その歩みを地球規模で進めて、日本人も中国人も韓国人も「文化は違えど同じ地球人」という意識を醸成するべきだと思います。
また、一人当たりGDPが20,000ドル以上で民主主義が確立されている韓国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドで、「アジア版シェンゲン協定」を作り、分かちがたいコミュニティを形成するべきでしょう。そして経済発展と民主化を進めた国をどんどん巻き込むべきです。統一通貨も検討に値するでしょう。円には歴史があるのかもしれないですが、大切なのは伝統を守ることよりも平和を守ることだと思います。
日本のリベラルに感じる違和感
ところが、日本のリベラル派は経済統合に対してやや慎重な立場な人も少なくありません。確かに経済統合により職を失うケースや農家が廃業に追い込まれるケースは出てくるでしょう。
また、太田光氏が10年ほど前に『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)という本を出版していますが、不戦の誓いは決して遺産なんかにするものではなく、「グローバルスタンダード」にするべきものです。このような点がいわゆるリベラルの護憲的憲法観とは「意識が違う」と感じる点なのです。
これは原発に関しても同様です。私が「脱原発」ではなく、あえて「ポスト原発時代を見据えた未来志向の脱原発」という書き方をしたのも、あくまで「進歩主義」の観点から、次世代は原発に依存しない社会が理想であるというところが出発点だからです。
それを実現するための具体的な手段としては、効率的な代替エネルギーの研究開発に莫大な予算を投じることのほうが大事だと思っているのですが、世論はどうも再稼働への賛成か反対かという目先の問題に目が行きがちです。これも、いわゆるリベラルの脱原発とは「意識が違う」と感じる点なのです。
まとめ
長くなってしまいましたが、このように政党や候補者の情報収集をする前にまずは自分についてしっかりと知ることが大事です。大学生が就職活動をする際には、企業の情報収集の前に自己分析から始めますが、それと同じ。どうか情報に踊らされないよう、自分の政治的信条は何なのか調べて、自分の政権公約を作ってみてください。
(勝部元気)