時代によって、社会に吹き行く風潮や流れはまるで異なる。例えば、つい10年前に放送されたバラエティを視聴すると、今だったら完全にアウトであろうギャグを芸人が露骨に連発しており、現代とのギャップに驚いてしまう。

特にデリケートなのは、ジェンダー周辺のいじくり。そう考えると、この数年間はかなり急激なスピードで社会は変容していったように思う。

もう一つ、現代においてかなりデンジャラスなトピックになっているのは「不倫」だ。そんなご時世にもかかわらず、10月7日深夜から新ドラマ『フリンジマン~愛人の作り方教えます~』(テレビ東京系)がスタートしている。
「フリンジマン」は不倫報道白熱への問題提起ドラマか「愛人にするのは好きな人ではない、都合のいい女だ」
原作1巻

このドラマの主人公は、「愛人教授(ラマン・プロフェッサー)」の異名を持つ井伏真澄(板尾創路)。21歳で結婚し、22歳の時に“初愛人”をもうけ、最高同時愛人数の記録は11人。一度は当時の妻に愛人の存在がバレて離婚するもすぐに再婚し、今もマルチな活動を続けている手練である。

同作の第1話は、井伏のモノローグからスタートする。
「ニーチェは言った。男が本当に好きな物は二つ。危険と遊びである。なぜ、男が不倫するのか。
それは、不倫が最も危険な遊びに他ならないから。だが、遊びの時間は必ず終わる。あとに残るのは、甘美な地獄か、退屈な日常か、それとも……」

スレスレなチャレンジだ。局そのものの器量が試されると言っても過言ではない内容。今日び、こんなドラマを放送する意図はどこにあるのだろう? このドラマのプロデューサーであるテレビ東京の松本拓は、『フリンジマン』ホームページにて決意表明している。
「昨今の不倫報道にも、そろそろ飽きてきているだろうこの世の中に、起爆剤を投げ込みます。単刀直入に言うと、『愛人を作るためのHow toドラマ』です」

「愛人を作る」という任務を遂行するために、マシンになれ


ある日、都会の片隅にある雀荘に集まったのは、田斉治(大東駿介)、満島由紀夫(淵上泰史)、坂田安吾(森田甘路)の冴えない男子3人。その中で、ここ3年間は嫁とセックスしていないと嘆く田斉が「やっぱり作るしかないな、愛人!」と口火を切る。しかしこの3人、合コン開始20分で女子全員に帰られた経験があり、愛人を持つほどのスキルも器量もない。
そこで満島が呼び寄せたのが、同じ職場で働く井伏だった。

井伏は語る。
「愛人にするのは、“好きな人”ではありません。“都合のいい女”です。
喩えるなら、10分だけ会って帰っても文句を言わない女です。愛人関係は、割り切った大人の関係です。感情を捨てなければ任務は遂行できません。マシンになるのです」
すると、坂田が物申す。
「なに、ガチになってんだか。たかが、愛人を作るだけじゃねえか! 任務とかマシンだとか、リーアム・ニーソンの映画じゃないんだから」
井伏は語る。
「テレビや雑誌をご覧ください。愛人づくりは、一歩間違えれば人生を大きく踏み外す。国によっては死刑もあり得る。伊達や酔狂ではないのです!」

圧倒的な知見と経験値により、井伏は愛人づくりに夢見る3人の教祖的存在となっていった。そして4人は「愛人同盟」を結成。“教祖”井伏は、3人にある掟を課す。

「愛人を愛することも、愛人に愛されることも禁ずる。愛人に愛は必要ありません」

『フリンジマン』は元々、週刊ヤングマガジンで連載(2013~2014年)されていたマンガが原作だ。そして現在発売中の同誌(2017年10月23日号)にて、主演を務める板尾創路のインタビューが掲載されている。

──本作への出演を決めた理由とは?
板尾 原作が面白かったんですよ。(中略)なにより「全体的な世界観がバカ」っていうところ。男達が集まって、全員で間違った方向に、真剣に突っ走っているわけじゃないですか。それを外から見るのって、面白いですよね。「ここが」とかじゃなく、「すべてが」間違ってる。例えば井伏が、愛人同盟の連中に対して一番最初に「愛することも愛されることも禁ずる」とか言ってますよね。間違ってるじゃないですか、絶対(笑)。

朝の挨拶の法則


「愛人を作るためのHow toドラマ」を謳っているだけに、筆者もそのつもりで今作を視聴していた。すると、1話目からいきなり役に立ちそうな情報が飛び出してきたから、メモを取る手が思わず止まらない。
“都合のいい女”を見つけ方として有効なのは、「朝の挨拶の法則」だそうだ。

「挨拶を丁寧に言う女性はいませんか? 挨拶の後に名前を呼ぶ女性は、わずかでも貴方のことを意識しているはず。私のデータによれば、およそ23%の確率で愛人関係が成立しています。『おはようございます』の後に名前を呼ぶ女性は、間違いなく“愛人の原石”です」(井伏)

田斉が勤務先へ出社した朝、ある女性社員が「おはようございます、田斉主任!」と声を掛けてきた。彼女の名は、山口詠美(筧美和子)。独身の男性社員のほとんどが狙っている、入社2年目の25歳だ。

他にも、こんなHow toが登場した。二人きりの空間で世間話をし、相手と良好な雰囲気になる「疑似不倫体験の法則」。これを実践し、良好な雰囲気を作り上げられれば、32%(井伏調べ)の確率で愛人関係が成立する。
田斉は会社の飲み会でしどろもどろになりながら、勇気を振り絞り、唐突に「昨日の『お宝鑑定団』観た?」と、素っ頓狂な話題で山口と世間話しようとする。すると、偶然にも骨董品マニアだった彼女から好リアクションが返ってきた! そこからはトントン拍子。終電を逃し泥酔する山口にタクシーの同乗を頼まれ、密室空間で“愛人の原石”と二人きりになる千載一遇のチャンスをゲットする。

思わず、明日からでも試したい情報が連発されたが、ここで主演・板尾創路からのアドバイスもご紹介しよう。

板尾 井伏が言ってることは、別に正解ではないじゃないですか。男の勝手な思い込みと言うか、女性からしたら「別にそういう意味じゃないわ」って言われることでしょうから。

───では、「この作品で不倫のテクニックを学べるんだ!」というようなことは……。
板尾 それはない(笑)。結局は男の身勝手な思い込みであり、それが正しいって思い込んでるところが、バカで可愛らしいところのような気がします。

3年前より今の方が面白いし、数年後にはもうできないドラマ


昨今、テレビやネットでは芸能界の不倫報道を毎日のように目にしてしまう。不倫で下手を打った芸能人には、社会的な“死”が待ち受けていると言っても言い過ぎではない。

「『このご時世に、なんでこんな企画を? テレ東はふざけてるのか?』と多数のクレームが予想されますが、最後まで見て頂ければ、その理由が分かると思います」(『フリンジマン』ホームページから松本拓プロデューサーコメント)

また、ヤンマガでのインタビューにて板尾は以下のように持論を展開している。
――不倫のニュースが報道されない日はない、このご時世にチャレンジングな企画だと思います。
板尾 不倫は倫理的にどうだとか、なんやかんや風当たりが厳しくなっている時期だからこそ、いいんじゃないですかね。「不倫は絶対にしちゃいけない」とか「不謹慎だ」ってなってるほうが、コメディとしては笑いやすいですから。

───原作マンガの連載完結から3年以上経ってドラマ化される、それは何故だろうと不思議だったんですが、そこに理由があったんですね。

板尾 当時から面白かったと思いますけど、3年後の今の方が絶対に面白く感じられるはずですよ。ひょっとしたらね、もう数年したらテレビ東京さんでもできなかったかもしれないですし。

「男が愛人を作るために努力する」という内容には女性陣からの反発を招く危険性を孕みかねないが、基本的に今作はバカドラマ。なんとか、お目こぼしいただけないだろうか。
それでいて、男性陣の純真無垢な部分をくすぐりまくる内容でもある。『フリンジマン』はいい大人がピュアな幼少期に戻って愛人探しの旅に出る、言わば、現代のスタンド・バイ・ミーだ。
(寺西ジャジューカ)
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