
そりゃ断れねえよなあ……な雰囲気で彼女の実家へ
主人公はニューヨークに住むフォトグラファーの黒人青年、クリス。付き合って4ヶ月になる恋人のローズは白人だけど相性はよくて、週末には彼女の実家に招待されている。
荷物をまとめ、ローズの実家に向けて車を飛ばす2人。道中で鹿を撥ねるトラブルに見舞われるも、無事に実家にたどり着く。ローズの実家であるアーミテージ家は湖畔に建つ大きな屋敷で、人の良さそうな父ディーンと母ミッシーは2人を大歓迎する。しかし、屋敷にいる2人の使用人は揃って黒人の男女。微妙な違和感を覚えるクリスだったが、先代の世話をさせるために雇った使用人であることを聞いて納得する。
とにかく「付き合って4ヶ月」「初めて恋人の実家に挨拶に行く」というシチュエーション設計の妙味がすごい。付き合って4ヶ月といえばなんせ一番楽しい時期。相手が何をやっても可愛く見え「このまま結婚しちゃうかもしれん」という考えが脳裏をよぎる。そのタイミングで可愛い恋人に「今週末実家に来てくれない?」と言われて無下に断ることができる人間がどれほどいるであろうか。そりゃ着いていっちゃうよなあ、クリス……。
また、実家に行くまでにクリスが自分の人種を気にしていることが描写されるのもうまい。クリスは友達のロッド(空港の警備員。
こういう導入の映画なので、いかに説得力のある「理想の彼女感」を演出するかは重要だ。その点でローズを演じたアリソン・ウィリアムズは完璧である。飾り気のない気さくな美人で、愛嬌もあって頭の回転も早そうで冗談も通じそう。「ああ……こんな彼女がいたらさぞかし毎日楽しかろう……」という説得力がある。しかし、『ゲット・アウト』の本番はここからであり、この映画はそうヌルい展開では終わらないのである。
細かい違和感の蓄積から、驚愕の結末へ!
ローズの実家に到着して以降、観客とクリスは細かい違和感によって、じわじわと息苦しい緊張を味わうことになる。やたらニヤニヤしている黒人の使用人や、部屋を出ている間になぜか外れている携帯の充電器。やたら「催眠術が使える」というアピールを繰り返してくる母親に、「鹿は嫌いだ!どんどん轢け!」と屈託のない笑顔で話す父親。和やかな空気ながらぼんやりとした不気味さが漂うパーティー。
この細かい違和感を積み重ねる過程がとにかく丁寧なのが『ゲット・アウト』の大きな特徴だ。なんせ可愛い彼女の実家である。当の彼女に向かって「この人たちおかしくない?」と家族のことをおおっぴらに聞くのは難しい。また、クリスには人種的なひけめもある。違和感を感じるのは自分がニューヨークの黒人だからなんじゃないのか……田舎の白人家庭というのはこういうものなのか……。そんな疑問が湧く中、ちょっとした旅行程度で終わるはずだった帰省は、急転直下の展開を迎える!
本作で監督・脚本を務めたジョーダン・ピールは、アメリカではよく知られた黒人コメディアン。人種ネタの盛り込み方は、おそらく本人の経験も踏まえたものであろう。また、ギャグすれすれの恐怖シーン(笑っていいんだか怖いんだかマジで迷う)が連発されるのも、コメディアンとしての力量を感じさせる。とにかく『ゲット・アウト』の後半の展開は、前半のネタ振りがすべて生きてくる圧倒的なものだ。
クリスの身に何が起きるかは、是非とも本編を見て確認してほしい。閉じられたコミュニティの滑稽さと不気味さ、人種差別に関する現代的な問題提起、なによりホラー映画としてのドライブ感。『ゲット・アウト』はその全てを備えた作品なのだ。
【作品データ】
「ゲット・アウト」公式サイト
監督 ジョーダン・ピール
出演 ダニエル・カルーヤ アリソン・ウィリアムズ ブラッドリー・ウィットフォード ケイレブ・ランドリー・ジョーンズほか
10月27日より全国ロードショー
STORY
ニューヨークに住むクリスは、恋人のローズとともにローズの実家であるアーミテージ家へと帰省することになった。アーミテージ一家から歓迎されるクリスだが、黒人の使用人たちの態度や屋敷の中の様子に違和感を覚える。