2017年3月にBSスカパー!でのアニメ化が発表された漫画「グラゼニ」。プロ野球選手のシビアな年俸事情など、球界の舞台裏を描いたこの作品は、プロ野球ファンのみならず多くのファンを獲得。
そのアニメ化には大きな期待が寄せられていた。そんな中、先月同アニメに関する新情報が世間をザワつかせた。その原因は主人公・凡田夏之介を演じるボイスキャストが………。彼だったからである。
(彼の破天荒な来歴を知らない方は軽くググっていただくとして)2015年4月より青二プロダクションのジュニア所属として声優デビュー。さまざまなアニメ、映画の吹き替え、ナレーションなどで腕を磨いてきた彼だが、3年目で主人公役というのは異例の大抜擢。今、ノリノリで凡田のユニホーム姿を再現している彼に何が起こっているのか……。我々は緊急インタビューを慣行した。
――初の主人公役ということで、大出世ですね。
「僕も主人公のお話をいただくなんて思ってなかったです(苦笑)。最初、『グラゼニのオーディションです』って連絡をもらって、多分ピッチングコーチとかの役だろうと思ってたら、凡田って言われて『凡田って……凡田夏之介ですか!?』って。それから原稿をもらって、もうずーっと緊張しっぱなしでしたね。
オーディションの時は吐きそうでした」
――オーディションを受けたんですか?
「もちろんですよ! 僕が何か名前付きの役をもらうと、世間の方々には『オーディションやらずに入ってるだろ』って思われがちなんですよ。これまでに参加させていただいたアニメも、最近はネットの一部界隈では“福嗣アニメ”って呼ばれていじられたりしてて……。でも、そんな方々に伝えたいのは『そうじゃないよ!ちゃんとオーディションで吐きそうなくらい緊張しながら、お仕事をもらってるんだよ!』ってこと。これは是非、皆様に知っていただきたいですね」
――今回のオーディションには、特にプレッシャーが?
「そうですね、普段のオーディションではけっこう地でさらっと臨むんですけど、今回は凄く構えちゃってました。
この『グラゼニ』の凡田夏之介に関しては、主人公ってこととは別に、自分も凄く好きな漫画だというのもあったので」
――そのプレッシャーはどうやって乗り切ったんですか?
「妻が助け舟を出してくれましたね。自宅で原稿を読んでいたら『あんたオーディションで、今までで一番緊張してるじゃん。どうしたの?』って、事情を聞いてくれて。
それで『じゃぁ、原稿を置いて座って。帽子被ってごらん』って言われたんですよ。で、被ったらまず『(夏之介と顔が)似てるね』って(笑)。ちょうどその時に伸ばしていた髭の感じも似てたし、同じような顔で骨格も似てるってことだから、そのまま喋ったら多分イメージ通りの声が出るよって言われて、肩の力が少し抜けました。まぁ、それでもオーディション当日はめっちゃ緊張したんですけどね(笑)」
――福嗣さんの声はナレーションなどの仕事で、「爽やか」と評判になっていましたね。
本当はイケメンの声の方が得意なのでは?
「いやいや。僕、アニメ作品とか外国映画とかに関しては三枚目が多いですよ。外国映画はおじさんとか黒人のガタイのいい低い声の人とか……俺、地声は高いので、現場で『思ってたより声高いね』って言われて、それで次からは陽気な人をやらせてもらったりとかしていますが、イケメンをやったことはあんまりないです」
――では、主人公・凡田の少し3枚目っぽいキャラクターは相性が良かった?
「そうですね。オーディション原稿とか漫画を見た時に、何か(演じる役の)共通点や性格の似ているところの端っこを捕まえたり、そっから自分がこの人のこういうところ嫌いだなって思うところも引き込んで、キャラクターにアプローチしていくんです。
でも、今回ばかりは、夏之介の方から僕のほうに近付いて来てくれたってイメージ。最終的なオーディションの時に、自然体ですっと入れたので、凡田とはすごい仲良くなれたかなと思っています。僕が“イケボ”だったら多分こうはならなかったかと(笑)」
――そもそも漫画「グラゼニ」が好きだったとのことですが、福嗣さんから見た原作の魅力とは?
「『グラゼニ』はフィクションでありながらノンフィクションな作品ですよね。登場人物はフィクションなんだけど、野球界で常日頃舞台裏で起こっていること……トレード、FA、契約更改、ケガ、日々の練習、プロ野球選手って家でどういう風に過ごしているのかってこととか。それらが多角的な方面からしっかり捉えられていて、そんな所が凄く好きです。そもそも野球漫画は好きで、いろいろな作品を読んでいるんですけど、大抵主人公ってスターというかヒーローなんですよね。
だから、そのヒーローが故障したり、挫折したりっていう時も、故障したことによって何が起こるのか、その分ヒーローが成長して…みたいな流れになる。でも、『グラゼニ』は主人公にだけフォーカスが当たるのではなくて、この人が故障した、では周りはどう補強しようかと動いて……というところにまで目がいく作品なんです」
――主人公や登場人物たちがヒーローじゃないところがいいと?
「ええ。
僕は30年間、プロ野球選手(落合博満)の息子として生きてきたので、プロ野球に関わる人たちのキツいこととか、大変な所を見てきているんですよね。
一般の方が思うプロ野球のイメージって“夢のある世界”だと思うんです。プロ野球選手は夢を与える職業だってよく言われるし。でも、選手本人たちは何のためにやっているかというと、夢を与える仕事をしているという認識よりは、来年、来月、明日をどうやって生活していこうっていう……これは他の仕事をしている人たちと同じ価値観だと思います」
――プロ野球は夢の舞台ではない?
「確かに年収1800万円の選手とかって聞くと、僕たちからすると凄いなって思う訳です。でも、次の年にはバサッと首切られたりするし、プロ野球をやめてしまったら年収が100万とかになってしまう世界なんです。そんな中で前年分の凄い税金が来たりしますしね。だからプロ野球選手は、大金をもらえる夢のある職業じゃなくて、現実的な職業。単価が違うだけで、やっていることは日々汗水たらして働いているみなさんと同じなんです。そういった価値観が伝わるところが、世間で『グラゼニ』がウケているところ。他の作品にはない魅力なんだと思います」
――そんなアニメ「グラゼニ」での主人公役決定、周囲の反応はいかがですか?
「(インタビューをした日は情報解禁前だったため)まだ、分かりません。僕、今回のことは妻と両親以外には一切言ってないんです。この世界は、守秘義務の世界なので(笑)。
自分の子どもにも言ってないんです。子どもに言うと、幼稚園で言っちゃうんですよ。『あのね~、パパ、おじゃる丸出てたー』とか(笑)。父にもサラッと『主役やることになりました』としか言ってなくて。特にリアクションはないですね。詳しい作品とかの話は、多分うちの母親から聞いてると思うんですけど。そもそも、僕、父からはこの仕事に関して口を出されることがないんですよ。専門学校時代は凄い言われてたんですよ。『噛んでるぞ』とか『滑舌が甘いぞ』とか、『最近よくありがちなアニメのしゃべり方だな』…とか。
でも、プロダクションに入って、プロになった途端に一切言われなくなったんです。それとなく母親に理由を聞いたんですけど、父は『プロになった人間に対して、(その分野の)プロじゃない人間がダメ出しをすることは失礼にあたる。プロに対して、それはやっちゃいけないことなんだから、俺は何も言わない』って言いながら僕が吹き替えで参加した外国映画を見てたらしいです。
こっそりチェックする派なので、この作品もこっそりチェックしてくれているんじゃないですかね?。スカパー!も契約してるし(笑)」
――では最後に意気込みの程を伺いたいのですが……どうでしょう、いまさらですが初主人公役に気負いはありますか?
「意気込みはあります。気負いはないです(笑)。もうオーディションのときに気負い過ぎたので。アニメ史上初めてプロ野球界の裏側を描くんじゃないかなと思うこの作品に携われたことに感謝ですし、凡田は本当に自分の好きなキャラクターなので、自分の出せる一番いい凡田夏之介、プロ野球の裏側を伝えられればと。毎回毎回スタジオで周りの役者さんや音響さん、スタッフの方にはご迷惑お掛けすると思ういますが、精一杯やって、見ていただいた方に『プロ野球ってこういう世界なんだ』って、『プロ野球選手がこんなに頑張っているんだったら、俺も頑張ろう』って思ってもらえたらいいなと思っています」
【PROFILE】
おちあいふくし
8月20日生まれ、愛知県出身。'15年に声優デビューし、アニメや洋画の声優、バライティー番組のナレーションなどを勤めている。
■グラゼニ
森高夕次原作・アダチケイジ作画の人気コミックをアニメ化。中継ぎ投手として1軍にいるプロ野球選手・凡田夏之介を主人公に、成果主義のプロ野球界を「ゼニ」の側面から描き出すストーリー。「グラゼニ」は“グラウンドには銭が埋まっている―”の略。
(提供:ヨムミル!Online)
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