瑞希「私のせいですか? 私が切迫早産だったからですか? もっと安静にして、シャワーの回数を減らしていれば良かったですか?」
サクラ「違います。西山さんのせいではありません」
瑞希「じゃあ、なんで赤ちゃん死んじゃったんですか……?」

2017年11月10日放送の金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)第5話。
切迫早産の可能性があり緊急入院していた妊婦が、原因不明の死産を経験する。
「コウノドリ」産婦人科医の力が及ばない現実、死産…改めて「出産は奇跡」5話
金曜ドラマ『コウノドリ』主題歌 Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

第5話 あらすじ


妊娠27週を迎えた妊婦・西山瑞希(篠原ゆき子)は、切迫早産の可能性があると診断され、緊急入院することになった。同じく切迫早産で入院していた同室の七村ひかる(矢沢心)と意気投合。お互いに励まし合いながら正産期を待つ。
しかし、ある日鴻鳥サクラ(綾野剛)がエコーを確認すると、瑞希の赤ちゃんはお腹の中で亡くなっていた。

出産は奇跡、だから人ができないこともある


サクラ「僕も昨日から、ずっと考えています。なんでだろう、なんでだろうって。でも、わからないんです」

四宮「死産の四分の一は原因不明なんだ。俺たちにだってわからないことがある。できないことだってある。俺なら絶対に頭を下げない。次の出産に向けて、綿密な計画を練るだけだ」

苦難を乗り越えて赤ちゃんが誕生する奇跡を見せてきてくれた『コウノドリ』。5話では、産婦人科医であっても力が及ばないことがある現実を「原因不明の死産」をもって描いた。

「早産」とは、妊娠37週0日~41週6日までの正産期と呼ばれる期間以前の出生のこと。
日本では、妊娠22週0日~36週6日までの出産を早産と呼んでいる。
その早産になりかかっている状態を「切迫早産」といい、子宮口が開かないように子宮収縮抑制剤を使用する治療が必要だ。切迫早産になる確率は、妊娠している女性の15%ほどだという。
瑞希とひかるも、子宮収縮抑制剤の点滴をしている。ひかるは、何度も針を交換するせいで腕の皮膚がカチカチに硬くなってしまったと笑っていた。

妊婦の15%ほどが切迫早産になる可能性がある。
そして、四宮(星野源)の言うとおり、死産の原因の25%ほどは不明。これは原因として最も多い「常位胎盤早期剥離」の17%よりも多い割合だ(2008「日本の死産の疫学」日本産科婦人科学会 周産期登録データベースより)。

こうして確率や事実を示されても、死産を告げられた母親や家族は簡単には納得できない。
赤ちゃんが亡くなっていても、死産の場合は分娩をしなければいけない。その直前に、瑞希は「私のせいですか?」とサクラに問いただしていた。
いつも明るく笑っていた瑞希が、大きな目に涙をにじませて唇を震わせる。
原因がわからなく、何を責めたらいいかもわからないまま、産声が聞こえない出産に臨まなければいけないのだ。過酷としか言えない。

出産後、瑞希は小松(吉田羊)から「お腹の中で亡くなってしまった赤ちゃんは、西山さんの戸籍に残してあげられない」という現実を知らされる。
「あかり」と名付ける予定だった赤ちゃんのために「してあげたいと思うことがあったら、うちら(助産師)はなんでも協力する」と言う小松。死産を受け止めきれない瑞希の側で「2人でお風呂入れてやってもいいですか」と提案する強面の夫・寛太(深水元基)。
悲しい現実の原因がどうしても見つけられないとき、小松や寛太のように、事実とともにただ瑞希の側にいてくれる人がいる。それは、無理に原因を探そうとしたり自分を責めたりすることへの、一時的なストッパーになり得る。

Twitterでは、瑞希と同じく死産を経験した母親、父親が、当時の思いや経験をツイートで語る様子が見られた。「西山さんのせいではありません」というサクラのセリフで、やっと自分を責めなくても良いと思えたという女性もいた。
『コウノドリ』がずっと「出産は奇跡」と伝え続けているように、お産には人の力ではどうしようもないことがある。すぐには受け入れられない現実があり自分を責めてしまっている女性たちの周りに、小松や寛太のような側にいてくれる人がいますようにと願う。

原作漫画とあわせて深みが増す回


「コウノドリ」産婦人科医の力が及ばない現実、死産…改めて「出産は奇跡」5話
第5話のベースとなった原作漫画・鈴ノ木ユウ『コウノドリ』10巻(モーニングKC)

瑞希「ひかるさん、げんっきな赤ちゃん産んでね!」

同じ切迫早産で入院していたひかるは、死産を知らずに「あかりちゃん、元気?」と聞いてしまう。
瑞希はあかりの死を隠し「可愛いよ」と答える。それは嘘ではない。
去り際、涙をこらえて笑い、ひかるを応援した瑞希。あかりの死を整理できていないのか、自分の死産が悔しいのか、出産を控えたひかるを不安にさせないための配慮か、はっきりとはわからない表情だった。感情がぐちゃぐちゃに混ざっている。それを、数秒の笑顔や呼吸の変化で表現できる篠原ゆき子という俳優。すごい、泣いてしまった。

このドラマ第5話は、原作漫画の10巻11巻に収録されている「長期入院〈前編〉/〈後編〉」がベースのお話だ。瑞希には、ドラマには入らなかった後日譚がある。
西山夫婦が営んでいる洋菓子店に、ベビーカーを押したお母さんが来店。見送ったあと、瑞希は堪えきれず泣いてしまう。ドラマと同じように、無言で瑞希を抱き寄せる寛太が素敵だ。


瑞希は半年が経っても死産を引きずっているが、ドラマにも登場した西山洋菓子店のプリンの名前を「AKARIのぷりん」と改めている。戸籍に残らないあかりの名前を、夫婦で毎日作っている自慢のプリンに残した。
あかりを忘れたくない気持ちと、死産の悲しみから前に進みたい気持ちで、瑞希は悩み続ける。彼女が「私のせいですか」と考えなくても良い日が少しでも早く訪れてほしい。

また、原作では、ひかるや夫の(平原テツ)の事情についても詳しく描かれている。
こども2人を抱えて一時的にシングルファザー状態になった保の葛藤を読むと、ドラマ版ではちょっと存在感が薄かった彼が、かなり気になる存在になってきます。

第6話では、心肺停止で緊急搬送される妊婦の役で福田麻由子が登場。今夜、11月17日(金)よる10時から放送予定だ。
第5話は、TBSオンデマンドAmazonビデオTVerで配信中。

(むらたえりか)

金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
編集部おすすめ