
日本では日本人シェフによる、おいしいフレンチもイタリアンもたくさんある。でも「すし」に関しては日本人シェフ(板前)の世界だというイメージがあったりしないだろうか? 日本人以外のすし屋に行った、または行きたいと思ったことはあるだろうか?
すし激戦区であるニューヨークに多くのすし愛好家をとりこにしている店がある。

「ガイジン」という店名を選んだ意味
――まず、お店の名前が気になります。店名の由来を教えてください。
自分が「ガイジン」というのが最初の理由です。でも、この言葉に込めたのはこのお店に対する自分の挑戦です。私は20年近くすしを握り続けていますが、出身地でないニューヨークに(記者注:マークさんはシカゴ出身)日本人でない自分がすし屋を開くということは、並み以上の努力が必要で大きな挑戦でした。その思いがガイジンという言葉に込められています。
――20年近くも、すしに携わっているのですね。どのようなキャリアを積まれてきたのですか?
私の出身地・シカゴにあるすし屋で修業をしていた時に、尊敬するすし職人(シェフ・カゼ氏)に出会いました。彼のすしにほれ込んでしまい、彼の元で修業をさせてもらえるようにお願いしました。
ゲストを飽きさせないマーク流「おまかせ」
――ガイジンの「おまかせ」メニューは、スープ(取材時はキノコと海老の土瓶蒸しを提供)を前菜とした後に、すしのおまかせがコースにより9貫から15貫、その後に手巻きとデザートが付くのですね。
すしについては、魚にすごく詳しい訳ではないお客様でも違いが分かるように、魚の個性を見た目や味付けで分かるような工夫もしています。カワハギのすしは肝も一緒に食べていただいたり。(記者注:欧米では生の肝を食べる文化は少ない)それぞれの魚に合う日本酒のペアリングコースも、現地のお客様に好評ですね。

――おまかせメニューは、シャリの作り方や魚のさばき方自体はすしの基本に忠実なように見えますが、その後の調理方法や味付け、見た目がとても個性的ですね。それでいて食べると多彩な味わいが口内に広がる。どのようにメニューを考えてすしを握っているのですか?
完璧な状態のシャリと、ベストな状態の魚を用意することは常に前提としています。そのうえで、こういったメニューにたどり着くのは常に自分の好奇心から始まっています。それぞれの魚にはどんな食べ方ができるか。どんなフレーバーを合わせたら口の中で最高の組み合わせが生まれるか。自分の中での興味は尽きず、お店をオープンしてから1年ですが、おまかせの中身は6回ほど変わりました。
――すしの一品一品が宝石のようです。シンプルな握りや巻物もありますが、キャビアやトリュフを使用するなど、食材は必ずしも和風にこだわってはいないですよね。
もちろん、おいしいすしであることは最低条件ですが、使用する素材の選択に関しては確かにフレキシブルです。私はすし職人以外に昔イタリア料理の修業などもしたことがあり、時にはイタリア料理の素材の中ですしに合うものを探すこともありますね。例えばオリーブオイルや軽くマリネしたガーリックなど。
――オリーブオイルにガーリック! 驚きますが、実際に食べてみてもまったくすしの味を殺してないですね。

尽きない好奇心と今後の夢
――味の表現も個性がある一方、魚の種類も豊富にそろえていますね。魚の入荷などはどう行っているのですか?
築地など日本から空輸して仕入れる魚を主にしています。メニューがおまかせメインなので、いろいろな魚を少しずつ取り寄せています。店で出していない種類の魚が入ると、その魚に合う食べ方を試したくなって常にわくわくしています。マグロはスペインなどにも質の高いものがあるので、ヨーロッパから仕入れることもあります。
ウニは北海道のウニなどを使うこともありますが、私が好きなのはメーン州(記者注:ニューヨーク州と同じく米国東海岸にある州。
――ニューヨークの人は日本にいる人より良いウニを食べているかもしれませんね(笑)。最後になりますが、マークさんの夢はなんですか?
このお店を作ることが自分の中でとても大きな夢でした。今はその夢を続けることに追われていますが、もしこの先の夢を考えるなら、今度は今よりもさらに小規模な「おまかせ」のお店を作りたいと思っています。
(迷探偵ハナン)