「憑依型」というタイプの役者がいるが、彼はまさしくそれか? ドラマ『フリンジマン~愛人の作り方教えます~』(テレビ東京系)で主演を務める板尾創路がグラビアアイドルとラブホテルに入る瞬間を激写された件のことだ。

ヤクザ映画で、どんな強面俳優よりも安藤昇のほうが説得力があったのは当然。そして“愛人教授”の異名を持つ井伏真澄を演じるため、役柄へ寄せにいった彼の出来心もアクターとしては正解。
第6話で井伏は“女性をホテルへ誘う方法”を愛人同盟にレクチャーしているが、彼の私生活はそのHow toの成功例と言えるかもしれない。ちなみに、マスコミからこの件を追及された板尾は「それは皆さん……、大人なので」と回答している。憑依型だ。
実はバツイチ子持ちだった“愛人候補”
「愛人同盟」のメンバーである満島由紀夫(淵上泰史)は、“愛人候補”として狙いを定めるデパートの店舗案内係・川上ミエ(佐津川愛美)からデートの約束を取り付けた。しかも、他メンバーから制止されたことが逆効果となり「俺のやり方でやらせてもらう!」と、自力のみでミエを攻略しようと意気上がってしまう。
だが、いざとなったら何をやってもダメ。目星をつけていた飲食店は定休日だわ、会話はてんで盛り上がらないわ。
ここで起死回生を狙う満島は、かつて井伏が田斉治(大東駿介)に授けたHow toを実践してみる。例えば「ショウウインドウの前に立ち止まるだけで会話が盛り上がる」テクニックを試すのだが、偶然にもミエの眼前にあったのは裸の女性のポスターだった。結果、みるみる引いていってしまう“愛人候補”……。ミエは「時間がない」と、そそくさと帰ってしまった。
だが、満島はタガが外れている。引きまくっているミエの仕事終わりを、なんと待ち伏せる愚行を犯してしまうのだ。
そんなしつこい満島を振り切るため、ミエは衝撃の告白をする。
「私……、子どもがいます! 夫と別れてから息子はすごく寂しがり屋になっちゃって、私も今、息子中心の生活を送っているの。だからもう……私に関わらないほうがいいよ」
フリーズする満島。そして、彼から去りゆくミエの表情もなぜか辛そうだ。
本気同士の2人だからこそ成立しない愛人関係
『フリンジマン』は「愛人を作るためのHow toドラマ」を謳っている。しかも、井伏は「愛人同盟」のメンバーに「愛人を愛することも、愛人に愛されることも禁ずる」と命じた。こうなると、ドライ極まりない展開をイメージしてしまいそうだ。しかし、この第7話は妙に切ない。
なぜ、切ないのか? それは、満島の一方通行ではなかったからである。子どもがいることを告白するミエの切なげな表情から、それは明らか。そもそも、初めて2人で食事した際、ミエは会話の節々から満島の生活レベルや年収を探ろうとしていた。
そんな彼女の態度に、満島も応えた。
「実は俺……、奥さんいるんだ。ごめん、ずっと言わなきゃと思ってたんだけど。ミエさんが正直に秘密打ち明けてくれて、俺だけ黙ってるわけにはいかないと思って」
ミエから「奥さんがいるのに、どうして私とデートしてたの?」と問われた満島は、白状する。
「ミエさんを……愛人にしようとして」
「でも、何度もデートして、ミエさんの笑顔を見て、気持ちが変わった。ミエさんのこと、本気で好きになっちゃったんだ。そうなると、やっぱ違げえなぁって……」
本気同士な2人だからこそ、愛人関係は成立しなくなる。「愛人を愛することも、愛人に愛されることも禁ずる」という“鉄の掟”の説得力が、俄然増してくる。悲しきストーリーだ。
“バツイチ子持ち”を「断崖絶壁」だと喩える暴言
ちょっと、待て。
一方の満島は既婚者。「愛人同盟」に所属しているし、求めるのはあくまで愛人だ。というか、「本気になったからこそ女性を諦める」というシステムがそもそもおかしな話である。
お互いが秘密を打ち明けた後に、ミエの発した言葉が切なすぎる。
「本当はね……、ちょっと気付いてた。結婚してるのかもって。でも、それを聞いたら終わりにしなくちゃならなくなるから……。だから、聞けなかった。……楽しかったなあ! 久しぶりに恋愛ってどんなだったか、思い出しちゃった」
「こうなったら、誰か紹介して! 理想は、明るくて一生懸命で……奥さんがいない人!」
ミエが“バツイチ子持ち”だと知った後、満島は「楽園を目指してトンネルを掘ってたら、その先にあったのは崖だった。地面すらない断崖絶壁でした」と、とんでもない比喩表現を口にしている。
そんな満島に、井伏はこんな言葉を放つ。
「たしかに、あなたが掘り当てた先は崖だったかもしれない。しかし、あなたにはその崖を下りる覚悟が、バツイチ子持ちの人を受け入れるだけの覚悟がなかった」
混じりっ気なし、100%の正論である。
それにしても。振り返ると、田斉も満島も“愛人候補”に本気になってしまったがゆえ、作戦に失敗してしまっている。
彼ら、そもそも人間として愛人作りに向いていない気がするな……。
(寺西ジャジューカ)
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