筆者のストレス解消法は、移動中の車内カラオケ。
冬場はマスクをしているので、対向車の目線も安心。
好きな歌を大声で熱唱、実に爽快である。

特にお気に入りはアニメタルのアルバム。何しろ、原曲から数えれば30年以上歌っている曲ばかり。そこらのヒット曲とは年季が違うのである。

冗談から始まった企画がまさかのヒットに!


96年春ごろ、ギタリスト野村義男と音楽プロデューサーが酒の席で「アニメソングをメタルでやったらアニメタルじゃない?」なんて冗談で盛り上がったのが誕生の原点。
そんな軽いノリから始まったアニメタル。70~80年代の人気アニメ主題歌をヘヴィメタアレンジ、メドレー形式になっているのがこの後も続く基本スタイルだ。

96年10月のデビューシングルは、「ガッチャマン→コン・バトラーV→勇者ライディーン→新造人間キャシャーン→マジンガーZ→ゲッターロボ→デビルマン」という編成。
メジャーアニソンの両横綱、『ガッチャマン』&『マジンガーZ』を押さえたのは妥当なところ。タツノコプロ&永井豪作品に加え、必殺技連呼スタイル(「超電磁ヨーヨー」など)の『コン・バトラーV』が入っているのがアツい。

このデビュー曲が約15万枚を売り上げるいきなりのヒットになったのだが、当初はイロモノ系一発屋と見る向きも多かった。
しかし、翌97年3月の1stアルバムが約30万枚と売り上げが倍増し、オリコン初登場9位を記録したことで、その地位を確立。
以降、特撮主題歌もラインナップに加え、シングル、アルバムのリリースラッシュとなって行く。

90年代は多くのリバイバル・ブーム(記事はこちら)が起こっているが、この流れもそのひとつと言えそうだ。

アニメタル大ヒットの要因とは?


ヴォーカルの坂本英三はヘヴィメタバンド「ANTHEM(アンセム)」出身とあって、その地力は本物。
伸びやかなハイトーンヴォイス&魂のシャウトに、原曲やヘヴィメタへのリスペクト感じるハイクオリティな演奏がかみ合い、バンドとしてのグルーヴ感はピカイチ。
アニメファン、ヘヴィメタファン両者納得の完成度の高さなのだから、ヒットは偶然ではない。

基本、ハイテンションで勢い重視。大仰でドラマチックな歌詞のアニメ&特撮主題歌とヘヴィメタルの親和性が高いことも大きかった。

「正義のパンチをぶちかませ」(タイガーマスク)
「悪いやつらをぶちのめす」(グレートマジンガー)
「力の限りぶち当たる」(仮面ライダーV3)


なんて、「ぶち」の三段活用を始め、前のめりな破壊衝動てんこ盛り。

「渡せるもんか 悪魔の手には」(勇者ライディーン)
「悪魔が今夜も騒ぐのか」(怪奇大作戦)


などなど、「悪魔」率の高さも異常。

「迫るショッカー 地獄の軍団」
「敵は地獄のデストロン」


と、『仮面ライダー』に代表されるように「地獄」率はもっと高いかも?

「地獄の悪魔よ 受けてみろ」(破裏拳ポリマー)


まさに“最凶”の組み合わせである。

「ダンダダダダン」「バンバンバンバン」(鋼鉄ジーグ)
「ギュンギュギュン」「ズババババーン」(バロム1)


こういった疾走感あふれるオノマトペも相性がいいようだ。

また、現在も続く「スーパーロボット対戦シリーズ」がプレイステーションを始めとする各ゲーム機で人気を拡大中とあって、往年のロボットアニメが注目を集めていたこと。
CS時代の到来で、70~80年代のアニメや特撮が集中放送されていたことの影響も少なくないと思われる。

他ジャンルと次々と融合して行くアニメソング


(アニメ&特撮)×メタルの融合が大人気になったことを受け、フォロワーも続々登場している。

パンクとで『アニパンク』、テクノとで『アニテクノ』、ユーロビートとで『アニユーロ』など、ノリの良さが際立つジャンルとの合体が続いたが、もはや語呂合わせでも何でもないし、二番煎じ過ぎて微妙な出来が大半。
『まんが日本昔ばなし』などの時代劇系アニメとで『まんが日本メタルばなし』と題した出オチ感が凄まじいものもあった。

ブームの勢いは、フォークソングや歌謡曲がメタルと融合する流れも切り開く。
懐メロとメタルで『ナツメタル』から始まり、往年の名作ドラマ主題歌とで『ドラメタル』、刑事ドラマ主題歌とで『刑事(デカ)メタル』も登場。演歌までもがメタル化し、もう何でもあり状態だ。

その後も、ジャンルを問わず過去のヒット曲がアレンジされたコンピレーションアルバムが数限りなく登場するが、00年代以降は「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードをメインに販売するスタイルが定着した印象。特に、スカやボサノヴァアレンジが多かった気がする。

これがアニメソング!? イケてるジャズアレンジも人気に


そんな中、根強い支持を集めたのがアニメ&特撮とジャズとの融合だ。

特に、98年4月に発売された『TV Jazz(ティーヴィー・ジャズ)』はインディーズながら人気を集めた一枚。
さわやかすぎる『天才バカボン』、軽快すぎる『妖怪人間ベム』など、普通にカフェのBGMにしても違和感がないほど。それどころか、むしろイケてる部類。アレンジ具合が絶妙だった。

また、昭和のウルトラマン主題歌をジャズアレンジした『ULTRAMAN JAZZ』も、ジャズというジャンルでは異例の大ヒットを飛ばしている。

アニメタルブームの流れで「アニメソングの帝王」が大人気に!


アニメタルから始まった流れは、佐々木功、堀江美都子ら往年のアニソン歌手の復活にもひと役買っている。


特に水木一郎の活躍は目覚しく、ライブやCDリリースに邁進。99年夏には、伝説のイベント「24時間1000曲ライブ」を行い、見事完走する偉業も成し遂げている。
アニメタルのアルバムはマラソン(42.195 km)にちなんで42分19.5秒に及ぶノンストップメドレーで構成されていたが、それ以上にハードな試み。まさに「アニメソングの帝王」と呼ぶにふさわしい大記録だ。

そして、そのエネルギッシュすぎるキャラクターを買われてバラエティ番組の常連に。
抜群の歌唱力はもちろん、「アニキ」の愛称、たなびく形で固定された赤いマフラー、「ゼェット!」の決めフレーズを武器に、現在も不動の人気を集めているのはご存知のとおりだ。

アニメタルを聴くと、ストレスとは無縁だったあのころも蘇ってくる。
カセットテープ(どこの誰だかわからないニセモノの歌唱率高し)でアニメ&特撮主題歌を聞きまくり歌いまくった懐かしのあのころである……。)


※文中の画像はamazonよりアニメタル・マラソン
編集部おすすめ