90年代に人気を集めたテレビドラマシリーズといえば、フジテレビ系「北の国から」が挙げられるだろう。
そこで純(ジュン)役を演じていた吉岡秀隆は、1994年に、同じ「北の国から」の監督である杉田成道氏が監督した映画「ラストソング」という本木雅弘主演の映画で、ギターを弾く青年・稲葉一矢を演じている。


戸迷いながらも作詞作曲した曲が映画主題歌に


実は、この映画「ラストソング」の出演にあたり、吉岡秀隆は馴染みのある杉田監督から「ギターを練習しろ」と言われて練習していたところ、さらに「曲を作れ」という指示を受ける。戸惑いながらも吉岡が曲を作ると、その曲が他の候補だった曲を押しのけて、主題歌として採用されたというエピソードがある。

その理由を、杉田監督は「吉岡の歌がせつなくて心に響くいい歌なので」とシンプルに語っている。

ラストソングは尾崎豊へのメッセージ


このとき吉岡が作った歌は、映画と同名タイトル「ラストソング」という曲としてリリースされ、吉岡は歌手デビューすることになるが、この曲にはその2年前に急逝したカリスマ・尾崎豊への思いが込められているといわれている。吉岡秀隆は、5歳年上の尾崎豊をプライベートでも兄弟のように慕っていた。この世を去ったそんな尾崎への思いが、このときまだ拭いきれなかったのだろう。

「ラストソング」を聴くと、カリスマがいなくなった孤独感と空虚な淋しさを抱きながらも、彼が残した言葉を信じて歌い続けていくという決意が切々と綴られているのが明らかだ。

ドラマ「北の国から」にも純の尾崎豊へのリスペクトが表現されているが、吉岡自身にとっても、子役のときから演じていた世界とリアルの自分との境界を超えて、頼れる存在が尾崎だったのかもしれない。尾崎自身から貰ったネックレスを肌身話さずつけていたという逸話も本当だったのかもしれない。

俳優業の一方で音楽活動も


その後、俳優業を続けドラマや映画に活躍していく吉岡秀隆だが、その傍らミュージシャンとしての活動も展開し、3枚ほどアルバムをリリースしている。
どれもシンプルながら、繊細で叙情的なメロディで、吉岡秀隆らしさを感じさせる作品ばかり。とくに94年に作られた1stアルバムには、まだ尾崎豊の影響も色濃く残っており、葛藤や迷いを感じさせる作品といえる。

演技と同じように、ナイーブで感情豊かな吉岡秀隆の歌は、どこか人の心を揺らすものがあるのだろう。現在は目立った音楽活動はしていないようだが、故・尾崎豊の作品が未だに歌い続けられているこの時代、またどこかで吉岡の歌手としての活動も見られるだろうか。

(空町餡子)

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