日本のテレビで障害のある人たちを見るのは、ドキュメンタリーか、福祉番組がほとんど。まして以前あった「見世物小屋」などは障害者を虐待している!とタブー視されている。
そこに一石を投じるべく復活したのが「平成の見世物小屋」こと「月夜のからくりハウス~平成まぜこぜ一座~」。センセーショナルな見出しをつけてでも、世間に伝えたいメッセージとは?

「表現したい」パフォーマーが集う平成まぜこぜ一座


東京・品川プリンスホテルClub eX(クラブエックス)にて、平成まぜこぜ一座「月夜のからくりハウス」が12月10日に開催された。それは障害のあるなしに関わらず、表現したいという思いを持ったパフォーマーが出演する舞台。主催は東ちづるさんが代表を務める一般社団法人Get in touchだ。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji 東ちづるさんが脚本演出も担当


「もんちゃん&れんちゃん」は手話漫才師。豊かな表情と大振りな動きと手話を組み合わせている。緑のジャケットを着たモンキー高野さん。
身体は女だが心は男。一方、相方の菊川れんさんは男から女へ。お互い別のパートナーがいるが、二人がやっているのは「夫婦漫才」だ。聞こえないことを自虐したネタで会場を沸かせる。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji 振袖と派手なジャケットの典型的な夫婦漫才スタイル



どんどん出てくるユニークなパフォーマー


「障害者と健常者が一緒につくる」劇団人の森ケチャップ。日本で一番小さい手品師のマメ山田さん、盲目の落語家桂福点さんは、この舞台を通じて狂言回しの役割を果たす。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji劇団人の森ケチャップ

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji マメ山田さんはこの見世物小屋の総支配人

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 桂福点さんが義眼を外して見せるのは鉄板ネタ


女装詩人の登場で一気に怪しい雰囲気に


ドラァグクイーンのベアリーヌ・ド・ピンクさんが登場すると、場の雰囲気は一気にアンダーグラウンドな猥雑さを帯びた。HIV感染者であるピンクさんが「熊夫人の告白2/血の問題」を朗読。
聞いているとゲイであることもHIV感染者であることも個性の一つでしかないような気がしてきた。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 車椅子で登場したベアリーヌ・ド・ピンクさん。ドレスの裾から義足が見える

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 円形舞台がゆっくりと回る。その上で朗読するピンクさん



障害者の枠を軽々と超える


全盲のシンガーである佐藤ひらりさん、自閉症のダンサーである想真さん。二人のパフォーマンスは、「全盲の」とか、「自閉症の」なんて形容詞は必要なくて、むしろそういった形容詞をつけることが失礼になるような気がした。実際、佐藤さんはニューヨークのアポロシアターでアマチュアチャンピオンになっている。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 佐藤ひらりさん。会場には彼女の伸びやかな声が響いた

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 想真さんの幻想的なダンス


糸あやつり人形と共演した、鶴田流薩摩琵琶奏者の西原鶴真さん。こちらは年齢とか性別とか、そんな枠を超えている人だ。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji
パンキッシュな衣装で弾く琵琶。そのギャップと音楽に引き込まれる。



舞台はいよいよ「見世物小屋」へ


義足のダンサー・森田かずよさんは、何かを必死で掴もうとしているようなコンテポラリーダンスを披露。そのダンスは観る者の胸をぎゅっと捕らえる。
訴えかけるようなダンスをする彼女の傍らには、「自分の体を立体で見てみたい」という依頼から作られた彼女自身の人形も。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photo by toboji 《片脚で立つ森田かずよの肖像》2015 / 井桁裕子 IGETA Hiroko / 桐塑・油彩 / h100cm

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 義足もしっかり見せる


そこに桂福点さんの語りが入る。森田さんの右足は小さく、右手は指が4本。子どもに身体をジロジロと見られたことがあった。するとその子の母親が「見ちゃダメ」と言ったそうだ。それを聞いた森田さんは自分の存在をなかったことにされたように感じ、ならば私は「見世物」になろうと考えたという。

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 義足を外すパフォーマンス


晒し者にしたらかわいそう、という身勝手な思いやりが、彼や彼女たちの存在さえも無かったことにしているのではないか、と語りかける。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 体を隠すことなく踊る森田さん



寝たきり芸人の寝た(ネタ)や小人プロレス


Eテレの「バリバラ」でおなじみの寝たきり芸人あそどっぐさん。不謹慎だ!と糾弾されそうなネタを躊躇なく繰り出す姿は痛快。これが本当の自虐ネタ! 寝たきり芸人の寝た(ネタ)である。本人が言ってるんだから笑ってもいいよね?という雰囲気は、あそどっぐさんしか作り出せない。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 あそどっぐさんが動かすことのできるのは顔と左手親指だけ


以前はテレビ放送もされていたミゼット(小人)プロレス。桂福点さんの狂言の言葉を借りれば「障害者を笑いものにしてはいけないという表面的なヒューマニズム」のせいで、テレビ界から追われてしまった。
そのせいで職を失った小人プロレスラーも多かった。中には「福祉という名の『施し』など欲しくない、仕事させろ!」と言った人もいたそうだ。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 ミゼットプロレスラーのミスターブッタマンさんとプリティ太田さん


あそどっぐさんも、史上初の寝たきりレスラーとしてリングへ。ミスターブッタマンさんとプリティ太田さんがハリセンで、敵チーム・あそどっぐさんのストレッチャーをバシバシ叩く。これを虐めと感じるのか、仲間として受け入れていると感じるのか。それは観た人が決めることで、テレビが決めて自主規制するのはどうなのか?
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 ミゼットガールが試合に華を添える

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 ダンプ松本さんがゲスト出演



誰もかれもまぜこぜの社会


終盤を迎え、舞台には多様な個性、境遇の人たちがどんどん現れた。車椅子ダンサーのかんばらけんたさんは、リオ・パラリンピックの閉会式にも出演している。

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer惠原祐二 下半身が動かないかんばらさんの力強いパフォーマンス

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 自閉症のミュージシャンGOMESSとコラボするかんばらさん

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 手品師マメ山田。小人が普通にテレビ出演していた時代もあった



東ちづるさんが伝えたかったこと


公開リハーサルの後、東さんが語ったのは「この舞台が目標なのではなく、彼らが当たり前にテレビ出ている世界が目標」ということ。見世物小屋という言葉を使うことに反発があることは想定済み。それでも多くの人の耳目に触れて、知ってもらうことの方が大切だからあえて使ったそうだ。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 身体の大きい小さい、女も男も。みんなまぜこぜ


今後の展開について問われた東さんは、この企画が続くということは彼らがまだ世の中に受け入れられていないということだから、来年にはなくなってほしいくらいだと話した。そしてこの舞台を観た人は彼らにオファーをお願いします、とも。
障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 出演者たち

障害のある表現者たちによる「平成の見世物小屋」が伝えたかったこと
photographer槇野翔太 今回の出演者にはきちんとギャラが支払われた


(前田郁/イベニア)