アメリカのミレニアル世代が「新しい情報をアップデートする」という意味で使う「Woke」をタイトルの一部に組み込んだ本コラムでは、ミレニアル世代に知ってもらいたいこと、議論してもらいたいことなどをテーマに選び、国内外の様々なニュースを紹介する。今回取り上げるテーマは、「未接触部族」と呼ばれる人々の存在だ。
グローバリゼーションという言葉が世界中で使われ、情報テクノロジーの進歩が著しい現代においても、世界には外部との接触を頑なに拒み続ける人たちが生活するエリアがあり、彼らの生活様式を尊重すべきという声も少なくない。

共生社会の中で考えてみたい 「未接触部族」の存在と権利 


アメリカ人宣教師の死で注目を集めた「未接触部族」の存在


北センチネル島という島をご存じだろうか? インドの東側に位置し、タイやマレーシアにも近い、インド洋上にある直径5キロほどの小さな島だ。観光名所というわけでもなく、むしろ観光客の立ち入りが厳しく禁じられているため、周辺で暮らす漁業関係者でもこの島への接近は避けているほどだ。



島で暮らす人の数は50人から400人程度とされているが、正確な人口がインド政府ですら把握できていないのには理由がある。この島の住民がいわゆる「未接触部族」と呼ばれる人々で、これまでずっと文明社会や外部との接触を頑なに拒んできたからである。インド政府は、これまでにも島で暮らす「センチネル族」とコミュニケーションを図ろうとしてきたが、それらの試みが成功することはなかった。

過去には漂流した漁船の乗組員が、センチネル族の放った矢で殺害され、救出に向かったインド軍のヘリコプターに向けても何本もの矢が放たれ、軍が救出を断念したこともあった。
周辺で暮らす人々にとっては、興味本位で行く場所ではないという位置付けになっており、実際に島から半径5キロ以内への立ち入りは違法とされている。インド政府は北センチネル島を自治区の1つとしているが、数千年にわたって、周辺の島で暮らす人たちとの交流さえ固辞し続けてきたため、実際には政府も放置したままの状態にある。

その北センチネル島で昨年11月、島に上陸したアメリカ人男性が、上陸直後に何本もの矢を放たれ、その後ロープのようなもので首を絞められて殺害される事件が発生した。殺された男性は、キリスト教の布教活動を行う目的で、隠れるようにして北センチネル島に上陸。しかし、アメリカ人男性の上陸はすぐにセンチネル族に見つかってしまい、外部からの突然の侵入者に驚いたセンチネル族が攻撃を加えたとみられている。アメリカ人男性の遺体回収は、現在も行われていない。



現存する未接触部族は100以上とも 求められる彼らの生活様式への敬意


北センチネル島で昨年11月に発生した事件は世界中に報じられ、未接触部族は外部からやってきた人間にすぐに攻撃を加える危険があるといったコメントをする識者もいたが、未接触部族の生活権をきちんと守るべきだという声も少なくない。外部からの接触はそれぞれの部族内に存在する社会的なルールに影響を与える可能性があり、さらには感染症の危険性も存在する。15世紀から17世紀にかけて、スペインはアメリカ大陸の植民地化を推し進めたが、その過程で古くから暮らす多くの部族が命を落とした。殺害された者も多くいたが、ヨーロッパから持ち込まれた感染症によって、免疫のなかった多くの地元民が命を落としている。

2007年には『先住民族の権利に関する国連宣言』が採用され、各国で暮らす先住民族に対して差別を行ってはならないというルール作りに向けて動きがあったものの、先住民族への対応は各国でばらつきがあるのが実情だ。世界各地には異なる生活様式をすでに受け入れた先住民族も多く暮らしているが、その一方で外部との接触を拒否する未接触部族も世界中に100以上存在するとされている。
未接触部族が最も多いのがブラジルで、先住民の権利を守るために作られた政府機関「国立先住民保護財団(FUNAI)」が2007年に行った調査では、ブラジル国内に67の未接触部族が存在することが確認された。

ダイバーシティーという言葉は日本でも使われるようになり、異なるバックグラウンドを持つ人たちとの共生が世界規模で叫ばれるようになったが、同時に未接触部族のように「外部との接触を望まない」人々の権利についても考えるべきだという指摘があり、社会への融合を強要すべきかどうかについては、答えが見つかっていない。

そのブラジルで気になるニュースが入ってきた。1日に就任したばかりのブラジルのボルソナロ大統領は、就任直後から未接触部族を含む先住民族に対する保護の再考を示唆するような発言を繰り返しており、未接触部族に対する暴力事件が発生することを危惧する声が高まっている。ブラジルの未接触部族の多くが暮らすアマゾンの森林地帯では、販売目的で違法に木を伐採するために侵入を繰り返す犯罪者らが少なくなく、ブラジル政府はこれまで未接触部族と犯罪集団とのトラブルを未然に防ぐためにパトロールを続けてきた。しかし、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロ大統領の登場によって、状況は一変するかもしれない。


(仲野博文)