
自チームの28名プロテクトリストに選ばれなかった。同時に、相手球団からは1番最初に選ばれたことになる。
西武が巨人へFA移籍した野上亮磨投手の人的補償選手として、高木勇人投手の獲得を発表した。「人的補償」という言葉の響きは微妙に後ろ向きだが、実際のところはそこまで悲壮感はない。近年はステップアップのチャンスでもあるからだ。
だってシビアに見ちゃうと「28名のプロテクトリストに入れなかった」ということは所属球団の序列では決して上にいるとは言えない現実。それが人的補償で移籍すると「リスト内で1番欲しかった選手」としてリスタートが切れる。つまり新天地へは注目度や評価も上がっての移籍である。

首脳陣だけでなく他の選手からも注目される移籍1年目
高木勇人の今季プロ3年目の成績は16試合で1勝2敗、防御率2.63。勝ち星だけでなく、15年163 2/3→16年117→17年27 1/3と投球回も年々減少。今年4月のヤクルト戦ではバントを試みようして右手指を負傷するアクシデントにも見舞われ、秋のファーム日本選手権ではヤング赤ヘル打線に打ち込まれ、東京ドームのお立ち台での決め台詞「僕は僕です」を聞くこともなくなっていた。
来年7月で29歳という年齢を考えても、当然チームは同じような実力なら若い選手を優先的に使うだろう。これからチャンスの数は年々減っていく。年を取ったとも思わないが、もう若さを売りにできる年齢でもない。毎年ピチピチのルーキーが入ってくるし……。
大金を投資するFA選手や大物助っ人を除いて、ほとんどのプロ野球選手の移籍を見ていると、勝負は1年目。しかも春季キャンプから開幕直後というパターンが多い。いったい今年のウチはどんな選手を獲ったのか? 新加入選手は首脳陣だけでなく選手間でも注目されるという。そこで何らかのアピールをできれば新戦力として起用してもらえるし、逆に怪我でもしてしまうと大きなマイナスイメージからのスタートになる。
会社員の転職にも共通する“即戦力”の扱い
この辺は普通の会社員と変わらない。個人的に20代中盤での転職時、風邪を引いて直前で入社日が予定より2日遅れたことがある。社会人として体調管理ができていないと言われたら返す言葉もないが、ボスからしたら「使えない奴」と思っただろう。実際、最初につまずいてしまうとその上司ともいまいちかみ合わなかった。それが対照的に29歳で化粧品メーカーに入社した時は、部内で初の男性デザイナーということもあり、条件面も含めやたらと過大評価をされての転職。もちろん過去の失敗も一度チャラになる。そうなると不思議なもので、なんとか期待に応えようと仕事に燃えた(すぐ息切れしたけど)。
いつの時代も20代後半から30代の移籍や転職は“即戦力”を求められる。新卒と異なり、ミスって「いい経験になったな」が通用しない世界。恐らく、野上の移籍やサブマリン牧田和久のメジャー挑戦という西武投手事情を考えても、来季の高木は怪我さえしなければ1軍で多くの登板機会を与えられるはずだ。ガチでマジで移籍1年目が勝負。
振り返れば、この男は三重・海星高時代からプロ注目の右腕として注目されながら、社会人野球の三菱重工名古屋で7年間を過ごした。就職も合コンも「目標に届きそうで届かない」状態が一番しんどい。あと少し、もう少し。ようやく巨人にドラフト3位指名されるも、正直25歳のオールドルーキーには育成プランも何もない。とにかく1年目から1軍でどれだけ投げられるか。本人もそんなことは百も承知で、キャンプ初日から怒濤の連日プルペン入りが話題に。そして、15年シーズン開幕直後はプロ初完封を含む連勝街道をひた走り3・4月度の月間MVPに選出。この際、途中で息切れしても仕方がない。
高木勇人はあの頃の集中力と爆発力を新天地でもう一度見せることができるのか?
「29歳の逆襲」に期待したい。

プロ野球から学ぶ社会人に役立つ教え
勝負は最初の3カ月。“転職1年目”は最大のアピールチャンス!
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