
想定していた以上の反響に驚いていた
「ご注文数は初日に3件。その後も国内のみならず、海外からご注文の要望やお問い合わせをいただいている状況です」(広報部 部長 石尾怜子さん)

同社と鳥取県は、相互の連携を強化し鳥取の活性化につながることを目指した連携協定を2017年2月に締結している。秋以降に、鳥取の食材を用いたお弁当を、鳥取県産米 特A取得「きぬむすめ」の新米収穫に合わせた11月頃に展開すること、鳥取和牛をアピールできる弁当を作ることを今年3月頃に決定した。そんな中、今年9月に全国の優秀な和牛を5年に一度、一同に集めて開催される品評会において、鳥取和牛「白鵬(はくほう)85の3」が品質部門で日本一に。日本一の和牛をアピールする日本一の弁当をつくろうということになったのだという。

「鳥取県は和牛を量産するには土地が狭く、畜産業としては肉質の良い種牛を育てる方針をとっているため、流通量が多くありません。そのため“鳥取和牛”自体が原価の高い素材です。複数のメニューから選ぶ時の一つの選択肢として注文をいただく商品というより、鳥取県の県産品である鳥取和牛というブランド自体の認知度を上げるための、企画性を前に打ち出した商品をつくる必要がありました」(執行役員 兼 ビジネスコミュニケーション事業本部 本部長 山中敬司さん)
このPR戦略が功を奏して、かなりの反響があったそうだ。国内だけでなく、海外はアジアやアメリカ、北欧などから問い合わせがあった。タイではテレビに取り上げられ、4個まとめて注文したいという連絡もあったという。
「販売数を上げるよりも企画としてのインパクトを狙った商品を考えていましたから、まさかすぐに何件ものご注文が入るとは思わず、正直驚きました」(石尾さん)
スターフェスティバルは、弁当・ケータリングのデリバリーサービス「ごちクル」と、日替わりで弁当を会社に配達するデリバリー型 社員食堂「シャショクル」の企画・運営をしている。「ごちクル」には800ブランド、8,400種類のメニューが、「シャショクル」では300ブランド、4,000種類以上のメニューが用意されている。
では、この鳥取和牛弁当は初めから約30万円で販売する予定だったのだろうか?
最初は売れる弁当の企画の検討からスタート
商品開発を担当した愛甲さんによると、はじめは「和牛でなんかすごいのつくってよ!」というシンプルかつざっくりした依頼が社内からおりてきたため、鳥取和牛が希少な食材であることを考慮して、当初は3千円程度の価格帯での商品設計を考えていた。だがそんな折に、鳥取和牛が肉質部門一位を獲得する。そこで社内の企画会議で「日本一の鳥取和牛を表現するにふさわしい、日本一のお弁当を作ろう」と方針の変更が決定し、インパクトや特別感を感じる設計にすることとなった。
そこからプロモーションとして効果的な企画に練り直す際、まずは原点に戻ろうと、愛甲さんは「肉」を食べたいと考えている人の声を聞いてみた。
そこで出てきた声は
・和牛はご馳走
・見るとドーパミンが出る
・ご褒美
・肉だけでいい。野菜いらない。
・なりふり構わず、本能のままに一度死ぬほど食ってみたい
…など。このアンケートから「思う存分食べてみたいけれど、叶えられていない」思いも潜在的なメッセージとして感じ取ったそうだ。
これらを受け、愛甲さんは「だったら思う存分“肉”を食べてもらおうじゃないか!」と振り切り、とにかく肉づくしのお弁当にすることを決める。一般的に認知されているヒレやリブロースといった高級部位から、トウガラシやヒウチ、ザブトンといった希少な部位などをギュ〜ッと詰め込む弁当に整えた。

リブロースはステーキ、ツラミは焼肉に、マルシンはローストビーフにするなど部位によって調理法を変え、全て手焼きで作り上げている。カットから完成まで、一個の弁当に必要な時間は4時間以上だとか。配達してから食べるタイミングでちょうどベストの状態になるように、調理を始めているそうである。

「地方の食材を流通する手段としても、弁当という形態は向いています」と山中さん。
鳥取和牛を含め地域の食材は販路がないと、なかなか食べられる機会が少ない。鳥取和牛は出荷量が多くなく、その食材を集めるのも大変なのだが、
「鳥取和牛を味わってみたいというお客様にはどうにか食材をそろえ、お届けしたいという気持ちでいます」(石尾さん)
関東圏で鳥取和牛を味わいたいというニーズに答えてくれそうだ。注文受付は来年3月まで。
「今後、鳥取県は鳥取和牛を輸出することも検討しています。今回この弁当がバズったことで、その一助になったら嬉しいです。インバウンドで来られる方にも、『和牛』はあまり一般的ではなく、どちらかというとまだ通な人のみが知っているものです。日本一になった鳥取和牛の美味しさと価値を知ってもらい、生産者もハッピーであるためにこうした地域の名産品をブランディングできればと思っています」(山中さん)

ちなみに弁当の名称が「独り占め箱」とある通り、この豪華弁当は一人前だ(もちろん分けてもOK。量は約15人前)。
(石水典子)