「昨今の不倫報道にも、そろそろ飽きてきているだろうこの世の中に、起爆剤を投げ込みます。単刀直入に言うと、『愛人を作るためのHow toドラマ』です。こんなことを言うと、『このご時世に、なんでこんな企画を? テレ東はふざけてるのか?』と多数のクレームが予想されますが、最後まで見て頂ければ、その理由が分かると思います」
そして、12月23日放送分で最終話を迎えたこのドラマ。

最後まで見た我々は、“このご時世に起爆剤が投げ込まれた理由”を知ることができただろうか?
東幹久のナンパのやり方が古すぎる
トントン拍子に阿川久利栖(板野友美)とラブホテルへたどり着いた田斉治(大東駿介)。しかし、彼には事に至った記憶がない。当然だ。久利栖の正体は、江戸川雷人(東幹久)の愛人である。要するに、田斉は江戸川が仕掛けたハニートラップにかかっただけ。それにしても、自分の愛人を手足のように使いターゲットを嵌める江戸川の周到さには脱帽だ。
そういえば、“愛人教授”井伏真澄(板尾創路)は言っていた。
「江戸川は自分の愛人と不倫をさせ、それをネタにターゲットの妻を狙うのが得意技です」(井伏)
事実、田斉の住むマンション前で江戸川と田斉の妻・美知子がイチャつく場面が目撃されている。もしかして、すでに江戸川の毒牙に……?
「こないだ、ナンパされただけ(笑)! あまりに古い手過ぎて笑ったけど、無視した」(美知子)
イチャついてるのではなく、ナンパされていたのだ。しかもその時の、江戸川の「絵のモデルになりませんか?」という誘い文句があまりにもオールドスクールなため、美知子は吹き出してしまったらしい。
そして、ふと気付く。一時は田斉が心酔した江戸川であったが、実はあんまり上手じゃないのでは? ここ、視聴者の中の“江戸川株”がズドーンと下落した瞬間だ。
東幹久の母親を愛人にしていた板尾創路
江戸川から呼びつけられ、「愛人同盟」の4人は指定された倉庫へ向かうことに。遂に、井伏と江戸川が直接対決するシチュエーションがやって来たのだ。
ここで、驚愕の事実が明かされた。江戸川が井伏を付け狙うには、理由があったらしい。
江戸川 復讐だよ。……こいつはなあ、俺の母親を愛人にしたんだ!
井伏 あれは合意の上でしたし、あなたのお母様は未亡人でしたでしょう。
江戸川 だまれっ! 俺はおまえを絶対に許さない。
なんと、江戸川が“愛人作り”に励むようになったのは、仇討ち的なモチベーションが元になっていた!
というか、井伏の達観ぶりに恐れ入る。
とにかく、江戸川にとって井伏は仇のような存在。だからこそ、江戸川はとっておきの復讐の手を考えていた。愛人の桐野夏美(MEGUMI)を使い井伏の諜報室から“愛人データ”を盗み取った江戸川は、要求する。
江戸川 この場でおまえの嫁に電話をかけて、これまでの自分の所業を全て話せ。
井伏 断ると言ったら?
江戸川 おまえの愛人に電話して、全部ぶちまける!
盗み出した“愛人データ”を参考に、井伏の愛人らへ電話をかける江戸川。これまでの井伏の所業をバラすつもりだ。
……様子がおかしい。江戸川がかけた電話は、田斉や満島由紀夫(淵上泰史)、坂田安吾(森田甘路)の携帯にばかりつながってしまうのだ。江戸川が入手した井伏の“愛人データ”は、どうやらダミーだったらしい。
「あなたの行動は、全て筒抜けでした。彼女のおかげで」(井伏)
なんと井伏、江戸川の愛人・夏美を味方に付けていた。
果たして、井伏はどのようにして彼女を懐柔したのか? 夏美がスパイだと早い段階で気付いた井伏は、麻雀で彼女を圧倒! そして打ちひしがれる彼女の口にハンカチをやり、こう言葉を掛けている。
「失礼、唇に蜂蜜が付いていたので(江戸川の異名は“毒蜂料理人”)。いつまで彼のために働き蜂を続けるのですか? あなたは蜂ではなく、蝶になるべきだ」
この気遣いに、夏美は落ちた。
江戸川 夏美、裏切ったのか?
夏美 あなたと違って、教授は優しいの!
すごい。罠を仕掛け、ターゲットの全てを崩壊させるのが江戸川のやり方。しかし、井伏は難なく罠を仕掛け返し、江戸川を窮地に追いやってしまう。
「愛人作りに愛は必要ない」の真意
でも、江戸川はめげない。
「おまえに復讐するまで俺の戦いは終わらない。必ず、俺が不倫業界のトップに君臨してやる! 俺にとって“愛人作り”は全てなんだよ!!」(江戸川)
この咆哮を目の当たりにした井伏は、手に持っていた携帯電話へおもむろに話しかけた。
「聞こえましたか? 旦那様はこう仰ってますが」(井伏)
電話の向こう側にいるのは、江戸川の奥さん。元はと言えば、「おまえの嫁にこれまでの所業を全て話せ」と要求していたのは江戸川の方であった。しかし、気付かないままに自分がそれそのものをやってしまっている。文字通りのブーメランだ!
実は、ここでも“逆スパイ”がいい仕事をしている。
井伏 なぜ、彼女が私の元に来たかわかりますか? あなたが、愛人を駒のように扱ったからです。
江戸川 そんなことはない! 俺はおまえと違って、愛人たちを愛してる。
夏美 笑わせないでよ……。私の気持ちを踏みにじって、あなたは結局自分のことばっかり! 愛なんて感じたこと、一度もないから!!
ここで、振り返ろう。今まで、井伏は一貫して「愛人作りに愛は必要ない」と唱えている。その真意が、ようやくこの最終話で明らかになった。以下の長ゼリフこそ、『フリンジマン』全話の中の最大のハイライトである。
「愛があるから憎しみが生まれる。感情があるから嫉妬が生まれる。まさに今、あなた方のように。だから、不倫をするならば、愛を捨てねばならないのです。
井伏は、不倫相手を不幸にしないために「愛を捨てろ」と説いていたのだ。逆説的に言えば、これは深い愛ありきの心持ちではないか?
また、この至言を口にしているのが板尾創路だという事実に、とてつもない奇跡を感じる。何度も引き合いに出し申し訳ないが、『フリンジマン』が毎週放送されているにもかかわらず(放送されているから?)、彼は11月にグラビアアイドルとラブホテルに入った瞬間を激写されている。
件のグラドルが現在どういう状況にあるかは不明だが、Twitterの更新は止まったままのよう。たしかに、不倫は危険な行為だ。
不倫をする資格がなかった「愛人同盟」
不倫に臨む際の“美学”を説いた井伏だが、この考え方だって褒められたものではない。「愛人同盟」が入り浸る雀荘の女性店員・西村加奈(川崎珠莉)は「そもそも、不倫しなきゃ誰も不幸にならなくない?」と指摘しているが、全くもってその通り。
“長い旅”に出た井伏(会社で左遷されただけ)から、愛人同盟へ手紙が届いた。そこには、何が書いてあった?
「あの時、私は言いました。
これはもう明白だが、「愛人同盟」の3人は資格を持っていない。妻・美知子の浮気を疑った田斉は不安に苛まれ、家族を失う覚悟を持てなかった。満島も坂田も“愛人の原石”に愛を抱き、それゆえ“愛人作り”に失敗してしまっている。責任も覚悟も持てず、そして愛を捨てられない男たちだ。それを自覚するがゆえ、3人は新たな目標を見定めた。
「たぶん、俺には不倫をする資格がないと思う。ただ、俺は教授に認めてもらえるような男になりたい。だから、これから男を磨く!」(田斉)
妙に前向きで青春チックなエンディングになっているのは、同作特有のユーモアが作用したから。しかし、男たちの「愛人がほしい!」という願望が、様々な経験を通じ「男を磨く!」というベクトルに変化したのは感慨深い。
『フリンジマン』は“愛人を作るためのHow toドラマ”ではあったものの、決して“愛人作り”を奨励する作品ではありませんでした。「責任」と「覚悟」を持ち、そして「愛」を捨てることが、あなたにはできますか!?
(寺西ジャジューカ)
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