既存の書籍が下敷きにあるか否か、その点についてはもはや論を俟たない。『チェイス』の共同プロデューサーを務める四宮隆史氏は、昨年12月30日にTwitterを更新。
「企画の責任者」として意見を述べている。

「「殺人犯はそこにいる」も出版当初に拝読し、その圧倒的な筆致に衝撃を受けました。ご著書を読む前から、足利事件で無罪が確定する過程で記者の方が果敢に真相解明に向けて動かれていたことは知っていましたが、その裏側でこんな苦悩や、地道な取材と調査があったのかと驚きました」
「足利事件に限らず、未だ解決の目処が立たない未解決事件を、未解決のまま放置しておくべきではない」
架空の連続ドラマという「入りやすい入り口」で表現することにより、広い範囲の人と共有することができ、結果として真相解明に向けた糸口が見つかるかもしれない。こんな想いから、ドラマ『チェイス』の制作を企画しました
清水さんのご著書を始め、足利事件や飯塚事件などの未解決事件について書かれた様々な文献を参照し、その全ての著者の方々に共通する「真相解明」という大きな目的を同じくすれば、山が動き、捜査再開につながるかもしれない」
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清水潔氏の著書『殺人犯はそこにいる』参照し、「入りやすい入り口」にするため架空の連続ドラマとして多くの人へ共有。結果、捜査再開につなげたい。このような“正義”を胸に、『チェイス』は企画されたと四宮氏は説明している。
善悪について、ひとまずここでは置いておこう。ただ、「参照」したことに関しては間違いないようだ。

「NEWSポストセブン」の記事(2014年1月25日)で、清水氏は「足利事件」で有罪が確定していた菅家利和さんとのやり取りを回顧している。
「菅家さんにも僕は言ったんです。〈菅家さんが刑務所にいると、どうしても辻褄が合わない〉〈だから排除させていただきました〉とね。僕らが事件を報じてきたのは冤罪報道のためではなく犯人逮捕だとハッキリ言うのが誠意だろうと」

『チェイス』第2話にて、フリージャーナリスト・三上一樹はこんな言葉を発している。

「俺はな、実は山崎さんの冤罪を証明することに興味ないんや。この5つの事件(連続幼女誘拐殺人事件)は同一犯の仕業や。でも、それを証明しよう思うたら、どうしても山崎さんが邪魔になる

「参照」の過程を経て、このセリフは生まれたのか? 警察から「部屋の中はロリコンビデオの山だった」と言われるも、所有物からはロリコンもの以外の作品ばかりが見つかったという展開も、『殺人犯はそこにいる』と『チェイス』は酷似している。
四宮プロデューサーから、疑惑に関する弁明は未だなされていない。暗に認めている形でもあるので、ここでこれ以上の追及はやめておく。

『殺人犯はそこにいる』著者がツイート


私自身に関して言えば、『チェイス』第1話を視聴した時点で『殺人犯はそこにいる』との類似点を察することができなかった。何しろ、今回をきっかけに『殺人犯はそこにいる』の存在を、ひいては足利事件に潜む本当の問題を知ったのだ。もう、無知を恥じるしかない。
そして、解釈によっては、これが四宮氏言うところの「入りやすい入り口」に成り得たということになるだろうか?

しかしだ。今回の問題がただの盗作事件の領域に収まるものではないことは、1月1日に発信された清水氏のツイートが端的に表している。
「もしも…、もしもあなたの大切な誰かが不幸な最期を迎え、悲しみの中で暮らしている時、ある日突然にその不幸をエンターテイメントの題材にされ、「架空の事件」なのだと再現映像化された時、あなたはそれを許すことができるのでしょうか? 私には無理です。」

それまで頻繁に更新されていた『チェイス』Twitter公式アカウントだが、2017年12月28日を最後にツイートが途絶えている。正月を挟んだこのタイミングだからか、それともスタッフ間で何か話し合いが持たれているのか。

四宮氏は「未解決事件の真相解明に向けた動きの一助になれば、との想いがはやり過ぎたかもしれないと反省しております」ともツイートしており、現在の状況が内部で問題視されていることは間違いないだろう。


四宮氏は「一度、清水さんと直接お話をさせていただければと存じます。今更、とお叱りを受けるかと思いますが、私なりの想いと信念もあり、この作品に取り組んで参りましたので、そのことを直接お伝えしたく存じます」とツイートしていたが、清水氏と対面して、果たしてどんなことを伝えたいと考えているのだろう?

『チェイス』は、報道に携わる人間にフォーカスしたドラマでもある。皮肉を言っているのではない。本当に、胸を張って主張できる「想いと信念」があるのなら、実際に清水氏へ伝えられるといいと思う。(もちろん、配信される前の段階で行うべき仕事のはずだが)
そして、ここまで世を巻き込んだ騒動になってしまったのだ。「想いと信念」がブレない本物であるならば、それを公にしていただきたいと思う。

最後に。この種の騒動が起こると、いつも不思議に思ってしまう。気付かれないわけがない。迂闊すぎるではないか。
「想いと信念」を胸にドラマの制作が動き始めたからこそ、想定していなかった“見えない落とし穴”にはまったというこということか? さらに「広い範囲の人との共有」を追い求めるあまり、被害者遺族の心情をないがしろにしてしまったということか?

毎週金曜に、1話ずつ更新されていく『チェイス』。
通常運転のままならば、本日深夜に第4話が配信される予定。
(寺西ジャジューカ)
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