鳥谷敬と青木宣親から学ぶ「30代の同級生との付き合い方」

36歳の同級生対談。

これが10年早くても、10年遅くてもまた違った雰囲気になっていただろうな。
昨年末にNHK BS1で放送された『鳥谷敬×青木宣親~同級生 初めて本音で話しました~』を見ながらそう思った。名球会行事で訪れたハワイのよく晴れた空の真下、軽口を叩き合いながらキャッチボールなんか楽しみつつ、早稲田大学の野球部でともに戦ったふたりが本音トーク。
1年時から遊撃レギュラーを掴み、六大学史上最年少タイで三冠王に輝いた鳥谷を入学当初からバリバリ意識していた未来のメジャーリーガーと、「全然覚えてない。おまえいた? みたいな」なんつって200本安打男の無名時代を笑う阪神のスター選手。その人生観は真逆で「ボロボロになるまでやりたい。野球が好きだから引退後も野球に携わっていたい」という青木に対し、対照的に「ボロボロになるまで続けたくない。引退後は野球関係じゃない仕事をやりたい。野球には当然感謝してるけど、違うことにチャレンジして違う自分を見てみたい」なんてイケメンIT社長のようなクールな口調で鳥谷は言うわけだ。「もう野球の時の知り合い全部なしにして、一回携帯番号も変えようかなぁぐらい」と。


通算打率NPB歴代1位も夢ではない青木



03年ドラフト希望入団枠で阪神に入団した鳥谷敬と、4位でヤクルトに入った青木宣親。大学時代は天才・鳥谷を追う青木という図式だったが、プロに入ると一気に逆転してみせる。
ヤクルトの背番号23は1年目にイースタンリーグで打率.372のハイアベレージを記録し首位打者に。フレッシュオールスターMVPにも選ばれた。
2年目には1軍で中堅レギュラーを掴み、打率.344で首位打者に輝き、イチロー以来2人目の200安打を達成。当時セ・リーグ記録の202安打を放ってみせた。3年目には第1回WBCで侍ジャパンの初優勝に貢献し、本家オールスターでもMVP選出。192安打、41盗塁で両タイトルを獲得。わずか3年でイチローやダブル松井がアメリカへ去った後の日本球界で、トッププレイヤーにまで登り詰めた。
12年から活躍の場をメジャーリーグへと移したが、NPB実働8年で首位打者3回、3900打数で通算打率.329だから、仮に今後ヤクルトに復帰してあと100打数立ち4000打数に到達すれば、あのレロン・リーの持つ打率.320を抜き去りNPB歴代1位となる。同じく日本時代に打率.353という規格外の数字を残したイチローの陰に隠れがちだが、青木もプロ野球史において屈指のヒットメーカーなのである。


金本の記録を超え連続試合出場を続ける鳥谷



そんな同級生の派手な活躍を横目に、鳥谷は着実に名門球団でキャリアを重ねてきた。阪神生え抜きで史上2人目の通算2000安打を達成し、リーグを代表する遊撃手として6度のベストナインと5度のゴールデングラブ賞を受賞(17年は三塁手部門)。一時は年齢的な衰えを指摘されるも昨季は三塁手で復活した。1年目の04年9月9日ヤクルト戦から、2017年終了時まで連続試合出場を継続中。昨年4月には金本監督の持つ1766試合を抜き、衣笠祥雄に次ぐ歴代2位に。顔面に死球を食らおうが翌日もフェイスマスクを着けてグラウンドに立つ鉄人ぶり。
つまり、23歳から36歳まで無休で仕事をし続けているわけだ。これは凄い。すぐ風邪を引いたり、日本シリーズへ行くからと1週間まとめて有給を取る俺も見習いたい仕事への姿勢だ。


近いようで遠い、30代・男にとっての同級生


81年生まれの鳥谷、82年早生まれの青木はもしかしたら『スマダン』の読者と同世代なのではないだろうか? 30代の男性というのはある意味「孤独」である。同級生はそれぞれ家庭を持ち、隣で笑っていた可愛い彼女は立派な“母親”になる。会社の後輩を飲みに誘おうとしても下手すればパワハラになっちまう。かと言って若いおネエちゃんに適当に手を出すとセクハラで社会人生命終了。じゃあたまには学生時代の友人と酒でも……って、就職してからはそれぞれ忙しくて、ほとんど連絡を取る間もないまま10年近く経っちまった。
結果、パチンコや映画館で時間をつぶすオールナイトロング。女性のように女子会をしたり、女同士のグループで海外旅行なんて男同士じゃする気も起きない。ていうか30代のおっさんビギナー5人組がパラオのビーチで水かけ合いながらハシャイでいたらヤバイだろう。今夜も缶コーヒー片手に見るスマホのSNSの中に懐かしの友人たちがいるわけだ。


あいつら元気にやってるかなぁ……って近いようで遠い同級生の存在。鳥谷と青木のそれぞれの仕事に理解とリスペクトを示しつつ、ベタベタしない関係性は見ていて気持ち良かった。「性格と一緒で投げる球にも愛情がない」なんて互いに憎まれ口を叩きながらキャッチボールをする一方で、青木は「(近くに)鳥谷がいて運が良かった。目標設定しやすかったから」とサラッと言う。同級生はひとつの指標だ。何者でもなかったあの頃の自分を見失いそうな時に、その存在を確認して原点に帰る。

あぁ今夜は久々に高校時代の友達にLINEでもしてみよっかなあ……。


【プロ野球から学ぶ社会人に役立つ教え】
同級生はひとつの指標。近くて遠い関係が理想的。
(死亡遊戯)
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