大手雑貨店「無印良品」を運営する良品計画が、銀座・並木通りでホテル併設店の開設を進めている。また、有楽町店では昨年から「青果売場の導入」を始めた。
東京を代表するハレの街である銀座・有楽町での、無印良品の新たな“攻め”の戦略を追った。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
銀座・有楽町エリアでの“攻めの姿勢”を見せる良品計画


2019年春、銀座に日本初の「泊まって買える無印」誕生


大きな話題を呼んでいる銀座・並木通りの無印良品新店舗は、読売新聞と三井不動産が主体となって建設する「マロニエ×並木 読売銀座プロジェクト」のメインテナントとして出店するもの。
ビルは地下3階、地上10階建ての予定で、無印良品の売場は地下1階から地上6階の7フロアにわたって出店。店舗面積3,300平方メートルは、現在の世界最大店舗である無印良品有楽町店をも凌ぐ広さで、新たな「世界旗艦店」の誕生となる。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
下層部には無印の世界旗艦店、上層部にはホテルが入居する「マロニエ×並木 読売銀座プロジェクト」の完成予想図

しかし、なんといっても注目されるのは、ビルの6階から10階に入居する新業態「MUJI HOTEL」の存在だ。
「あの無印がホテルに参入!」と話題になった同ホテル。無印良品がホテル事業に参入するのはもちろん国内初のことで、小田急グループ子会社のUDSが管理・運営を行い、良品計画がコンセプトの提供と内装デザインの監修を担当する。実はMUJI HOTELは今年1月に中国・深センで1号店がオープン。今春には北京でも出店することを発表しており、銀座への進出をもって日本上陸を果たすことになる。
MUJI HOTELの館内には無印良品の家具やアメニティが備え付けられ、同館に宿泊する世界各国の人々に無印良品の良さをアピールする、いわば「無印良品ライフの体験型ショールーム」として機能する。もちろん、館内の気に入った家具などは、下層階の「無印良品」で購入することも可能だ。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
2019年春の竣工を目指し工事が進む「MUJI HOTEL」(マロニエ×並木 読売銀座プロジェクト)

ところで、無印良品が銀座に大型店を出店するのはこれが初めてのことではない。かつて、無印良品は2008年より百貨店「銀座松坂屋」内に都市型旗艦店「MUJI銀座松坂屋」を出店していたという過去がある。

銀座松坂屋は2013年6月に閉館、昨年4月に「GINZA SIX」として新たなスタートを切る際、同店への再出店も期待されていたが実現しなかった。
その一方で、無印良品がGINZA SIXやその周辺大型店へのテナント出店という選択肢を採らず、単独での「世界旗艦店出店」という形で銀座への帰還を果たすことを決めたことは、大型店の集客力には頼らずに「無印良品単独の集客力のみで勝負を懸ける」という自信と覚悟の表れでもあるのだろう。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
かつて無印良品の旗艦店が出店していた銀座松坂屋。
この4月に大丸松坂屋百貨店が運営する「GINZA SIX」として生まれ変わったが、無印良品が再出店することはなかった


現在の世界旗艦店・有楽町店ではまさかの「八百屋参入」


銀座での「世界旗艦店出店計画」を発表することで攻めの姿勢を強く印象づけた無印良品だが、現在の世界旗艦店「無印良品有楽町店」でも昨夏から驚きの売場が開設されている。
それは、これまでの雑貨店・無印良品のイメージとは全く異なった八百屋業への参入――つまり「青果売場」の導入だ。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
無印良品の現在の世界旗艦店である有楽町店

無印良品有楽町店が出店するJR有楽町駅前の商業施設「有楽町インフォス」では、長年同居していた雑貨店「有楽町ロフト」が、6月を以て銀座のテナントビル「ベルビア館」へと移転しており、青果売場はロフトが去って空きスペースとなった部分に増床するのにあわせて導入されたものだ。
良品計画が西友から分割されるかたちで設立されたのは1989年のことだが、生鮮食品の販売は同社にとって「創業以来初」のことだという。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
無印良品初となる青果売場。
有楽町インフォス1階のロフトが退店したスペースを活用して増床したもの

この青果売場では、主に千葉や東京・青梅といった首都圏近郊の農家から仕入れた新鮮野菜の数々を品揃しており、取材時は「朝採れとうもろこし」(千葉県館山産)や「種無しピーマン」(千葉県香取産)といった旬の味はもちろんのこと、京野菜の「賀茂なす」(千葉県館山産)や「カーリーケール」(東京都青梅産)など、普通の食品スーパーではなかなかお目にかかれないような“レア野菜”や、鮮度と甘さで人気の福島県産の「白桃」などといった人気商品も目を惹いていた。珍しい野菜や果物も扱われているとあって、一部の野菜や果物には美味しさや安全性をアピールするための試食コーナーも設けられており、多くの客が足を止めていた。
こうした生鮮食品の導入は店舗側の手間もかかる一方で、生活雑貨よりも商品の回転が速く、毎日来店する客を増やすはたらきを持つ。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
棚に並ぶ新鮮野菜の数々。無印らしい白木の箱に陳列される

さらに、青果売場のすぐ横には館内で営業する直営のカフェ「Cafe&Meal MUJI」と連携したテイクアウト専門店を設置。旬の野菜を使った「コーンスープ」、「ミネストローネ」(ともに400円)などのメニューを提供しており、仕事帰りや買い物帰りの「ほっと一息」に訪れる女性客の姿も見られた。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
「Cafe&Meal MUJI」による、旬の野菜を使ったスープなどを提供する店舗も


再開発対象にある有楽町店は数年以内に閉店か


実は、この無印良品有楽町店が出店する有楽町インフォス(写真の赤い屋根の建物)とその周辺地域は、官民連携による再開発が行われる予定で、同店は数年以内に閉店すると考えられる。
「MUJI HOTEL」開業で攻める無印良品 野菜も売る有楽町店は再開発で閉店も?
赤い屋根の建物が無印良品有楽町店が入っている有楽町インフォスだ。
(内閣府 第4回東京圏国家戦略特別区域会議 東京都提出資料より)


無印良品の本業である「生活雑貨の販売」とは大きく異なった、まさかの「八百屋業参入」となった有楽町店。
再開発により“風前の灯火”となっている同店のこうした動きは、新店へとバトンを繋ぐまでのラストスパートを飾るとともに「新たな旗艦店の在り方」を探るための実験的な試みだろう。
生まれたばかりではあるが、消えてしまうかも知れない無印良品の青果売場。果たして、今後は銀座新店や他の無印旗艦店でもこうした生鮮食品の売場が開設されるのか、はたまた全く違った形の驚きの売場が誕生するのか――その答えは、1年半後に迫った新・旗艦店の完成で明らかになる。
(都市商業研究所)
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