パイで汚された女性~西武・そごうの元旦広告~
まず年初早々、女性がパイを投げつけられる動画やポスターを使用した西武・そごうの元旦広告が炎上しました。昨今の女性差別の現状を“投げられるパイ”に例えたようですが、パイで汚れた女性の姿を載せるだけであり、むしろ添えられたキャッチコピー「わたしは、私。」ではいられない社会を何の批判も無く表現しています。
話題のそごうの広告、なぜパイまみれの女性の写真なのか。これだと「女だから強要される。女だから減点される。活躍だ、進出だともてはやされるだけの女の時代なんていらない」と訴える女性に対して男が「うるせえ女だな!」って思いっ切りパイをぶつけた図にしか見えない。意味が分からな過ぎて怖い。 pic.twitter.com/1Sfl5Wd6v2
— 深爪 (@fukazume_taro) 2019年1月2日
ポスターに添えられたテキスト部に関しても、前半2パラグラフは医大入試等の女性差別というマクロな社会問題を取り上げて意見広告かと思われたものの、後半の1パラグラフでは差別問題に対する言及は一切無く、ミクロな個人へのメッセージに話がすり替えられています。これでは「社会にはこんな差別もあるけれど自分は自分で切り抜けようね」と読まれ、「社会の問題は私個人では解決できませんよ!」と反発を招くのも当然です。
本来、後半部分も、社会から“女らしさ”を求められることに対して、「そんなものに縛られずあなたはあなたで良いんだよ!」というメッセージであれば、むしろ称賛されていたことでしょう。どういう経緯でこの文が出来たかは分からないですが、女性の積極的自由(〇〇する自由)を推進するリベラルフェミニズム的視点と、消極的自由(〇〇されない自由)を推進するラディカルフェミニズム的視点の2つを混同しています。
週刊SPA!の「ヤレる女子大学生RANKING」
また、雑誌の週刊SPA!が12月25日号の特集で、マッチングサービスの運営者の独断と偏見による「ヤレる女子大学生RANKING」を公表し、2019年になってから女性蔑視だとして大きな批判が巻き起こりました。実際に名指しされて名誉を棄損された5大学全てが編集部に対して抗議文を出す事態に発展しています。
確かに類似の記事はこれまでにもあったのかもしれないですが、(1)本来は守られるべき立場である学生を性的搾取の対象としたこと、(2)僅かなサンプルから集団全体がそうであるかのように決めつける「主語デカ話法」で名誉を棄損したこと、(3)本来SEXは対等な立場でのコミュニケーションのはずなのに「ヤれる」という男性側が女性を一方的に性の対象とする表現を用いたこと等の要素が揃ったことが世界的延焼に繋がったのだと思います。
この件は東京医科大学や順天堂大学等の時と同様、欧米以外の国々も含む世界各国のメディアで批判されているようですが、批判の声が広がる一役を担ったのは、一人の女子学生が始めたインターネット署名でした。2019年1月11日時点で既に4万5千件に達していますが、的確な文章で記事の問題を指摘したことに加えて、顔出し実名で被害を訴えてリーダーシップを担ったことが非常に大きかったように思います。
PJがラブサプリを「こっそり飲ませる」推奨
さらに、下着メーカー「ピーチジョン」が、自社製品のラブサプリ(性的な興奮を高めるためのサプリメント)のプロモーションで「こっそり飲ませる」ことを推奨する表現をSNSに投下したことも炎上しました。政治アイドルの町田彩夏さんが問題の広告を見つけてTwitterで指摘したところ、瞬く間に批判の声が広がったようです。ピーチジョンは批判を受けて、商品の販売中止を決定しています。
下着を販売する「ピーチ・ジョン」公式LINEから、男女兼用ラブサプリのお知らせが来たんだけど、使用方法の1つに「こっそり飲ませる」とあってびっくり。「同意なく相手に摂取させ、気付くかどうかを楽しむ」ことを推奨する文章を見て、医薬品ではなくサプリメントだとしても、素直に怖いなと思った。 pic.twitter.com/wj3Z5EEhgo
— 町田彩夏/まっちー (@Ayaka_m_y) 2019年1月8日
このような手口はデートレイプドラッグを混入するナンパ師の狡猾な手口ととても近しいわけですが、それを大企業(親会社は東証一部上場のワコール)が推進しているのですから驚きです。ピーチジョンは10年前に女性が死亡した「押尾学事件」で現場となったマンションを自社社長が提供して散々批判されたのに、このような方法を推奨するあたり、全く反省していない感じを受けました。
#MeToo ムーブメントをきっかけに世界で「性的同意」が問題になる中で、「自己の一方的な欲求を通すために相手の同意無く性的な行為に持ち込もうとする視点」は糾弾されて当然です。アレルギーを起こす危険性を指摘する人もいましたが、たとえアレルギー持ちではなかったとしても、「何人たりとも自分の口から摂取するものは自分の意思で決める権利がある」「他人がそれを蔑ろにしてこっそり本来の調理とは無関係のものを摂取させれば人権侵害に該当する」というのがどうして分からないのでしょうか。
NGT48山口真帆さん暴行を運営が揉み消し?
そして今週も酷い事件が発覚しました。アイドルグループNGT48の山口真帆さんが、ファンと称する男性2人に個人情報を握られて、自宅への侵入と暴行という被害を受け、運営側に再発防止要求をしていたのにもかかわらず、何も対応してくれなかったと突如動画配信やTwitterで訴えて、騒然となっています。加害者も不起訴処分になったようです。
恋愛しないで真面目にアイドルやってたことが悪いの?ファンと繋がらなかったことが悪いの?なんでルールを守ってたことがこのグループでは怖いめに遭わないといけないのなんで真面目にやってる子が守られないグループなの多くのファンを裏切って繋がってる人が正しいの?なんでそれを許すか分からない
— 山口真帆 (@maho_yamaguchi) 2019年1月8日
#MeToo ムーブメントの一種とも言えますが、加害者の性的暴行に対する告発というよりも、それを握りつぶした運営側のブラック体質を告発したケースと言えるでしょう。さらに、本人やメンバーがメディア等で謝罪をしているにもかかわらず、隠蔽したとされる張本人や事務所の責任者等が一切表に顔を出さないのも、火に油を注いでいます。
今回の事件に関してファンの側も「運営が酷い!」と怒っている人が大半だと思いますが、正直なところ、私はAKB48グループに代表されるような日本の女性消費文化&女性蔑視社会ゆえに、起こるべくして起こった事件だと思います。
「自分の意見をハッキリと主張する女性は可愛げがない」
「理不尽なことを言われても怒ることなく笑って上手くかわすのが良い」
「性的な接触の経験がありそうな子は何となく応援する気を無くす」
「男は狼だから、性的被害に遭うのは〇〇した女性も悪いと思うから自衛して欲しい」
そのような男性たちの歪んだニーズが彼女たちの口をつぐませ、運営側もニーズに反するような情報は表に出すまいと隠蔽体質&事なかれ主義になり、仮にメンバーが被害に遭っても「生きる心地がしない」段階まで黙らされ続けるわけです。もちろん、加害者と隠蔽した運営責任者が一番悪いのですが、上記のようなニーズを求めた人々は決して被害者の味方とは言えず、むしろ事件の発生を誘発した側です。
この事件に関して、指原莉乃さんが運営側の問題を指摘し、再発防止策の有効性にも疑問を呈しています。至極真っ当な意見ですが、その意見表明に対して、「きっと強く言いたいメンバーも多いです。でも言いたいことも言えないと思うので、声の大きいわたしが言ってみました」と説明しているのです。指原さんしか自分の意見を言える人間がいない状況に、側から見ると人権や人間性が大事にされていないグループ全体の雰囲気を感じます。
実際、他のメンバーから「ごめんなさい」「これからも応援して下さい」という悲痛な声ばかり上がる様子は、首根っこを掴まれて自由な発言を奪われた奴隷たちのようです。それを見て「気持ち悪い」と感じないのでしょうか? こういう隷属的構造を生んでいるのは、やはり上記のような要求をアイドルたちにぶつけてきたファンの責任も大いにあると思うのです。
#女性差別大賞2019も酷いことになりそうだ
このように、年初から短い間に立て続けに大きな事件や炎上が発覚しているわけですが、これらはたまたまネット上で多くの人々の目に留まっただけで、現実の社会では氷山の一角に過ぎません。NGT48の件に関しても、山口さんがAKBグループという著名なアイドルグループに所属しているから大事になっただけで、被害を黙り続けることに疲れて夢見た芸能界を去るアイドルは数多いることでしょう。
現在私は、去年末に実施した企画「#女性差別大賞2018」の投票を集計してレポート作成作業をしているのですが、「どれも酷くて大賞が選べません!」という声を本当にたくさんの方々から頂戴しました。ですが、新年始まって僅か10日の間に、去年の数ヶ月分に匹敵する大型案件が続々と出て来る2019年は、さらに「どれも酷くて大賞が選べない」という事態に発展することが予想されます。
酷い事例が発覚する度に改善されるのであれば希望も持てるのですが、「他者の失敗から学ぶ」ことが出来ないのか、類似のケースで炎上することが少なくありません。また、ジェンダーの専門家や大学等でジェンダーの学んだ人材がもっとビジネスやマスコミの世界から必要とされるべきだと思うのですが、そのような動きは見られず、以前として多くの企業やメディア等が差別や蔑視を内包し続け、多くの火種を抱えたままなのが現状です。
私たちは「炎上の次」に進まなければならない
また、「炎上の次」が見えないのも非常に由々しき問題です。SNSで声をあげることで実社会に影響を与えることが出来る力を手に入れたのは、大変素晴らしいことだと思いますが、残念ながら、私たちのリアルな日常はさほど変わっていません。
政治でも経済でも教育でもメディアでも様々な格差やハラスメントや蔑視が残り、性暴力も蔓延り、恋愛・結婚・SEX・子育ての面においても家父長制文化や偏見が根強く、まだまだ私たちの「生きづらさ」はこの社会に依然として存在し続けています。
そこで、次のステップに進むために、これまでとは違った新しい”能動的なアクション”が必要だと考えて設立したのが、先述の「#女性差別大賞2018」の企画等を実施しているNPOの「パリテコミュニティーズ」でした。
「知ること」「繋がること」「声をあげること」がこれまでのやり方だったわけですが、次の時代に進むためには自分たちで「創ること」が必要だと思うのです。よい良い未来を実現するために様々なアイデアを出し合い、効果的なプロジェクトをいくつも実行して行くことで、生活環境を自たちの手で良くして行くフェーズに歩みを進めたいのです。
「差別やジェンダーに関連する生きづらさ」の問題は本当にたくさんの人が関心を持っているにもかかわらず、「周りに同じ価値観の人がいない」という声を多々聴きますし、他の社会問題に比べてリアルな場で活動に取り組むNPO等の数が圧倒的に少ないため、しっかりとそれらの役目を担える集まりにして行こうと考えています。
2019年はもっと根本から斬りまくります
一方で、これまで様々なテーマについて論じて来たのですが、最近は「差別やジェンダーに関連する生きづらさ」の問題に限らず、様々な社会問題を日本が解決出来ない背景には、「日本文化の悪しき側面」が大きく横たわっているように感じています。
・自己肯定感の低さとそこから来る潰し合い
・セクショナリズムとそこから来る潰し合い
・自律心の低さと権威主義
・年功序列と老害化と前例主義
・強力な同調圧力と村八分による団結
・批判と人格否定を混同すること
・実質よりも性別や年齢等の形式的情報で相手を認知すること
・内輪ルールが上位概念である社会全体のルールを平気で凌駕すること
・何を実行するかよりも誰が実行するかが重視されること
・善悪よりも周りの意見を尊重することや法治より人知を重視する姿勢
・合理性よりも人情等を過剰に重視すること
・「悪意メガネ」と過剰な好き嫌い判定
そのような「日本文化の悪しき側面」が、あらゆる社会問題の解決を阻害していると思うのです。既存の権力有する勢力に対して人々が対抗する力を持ちえない理由には、社会的弱者の側もこのような「日本文化の悪しき側面」と無縁では無い人が多いという一面もあるのでしょう。
これまで恋愛コラムニストを約2年、ジェンダー・フェミニズムをメインに据えた論客を約2年やらせて頂きましたが、今年は評論家として再度領域を変更し、そのような「問題を解決出来ない構造」自体に昨年以上に斬り込んで行きたいと思っています。今年もどうぞよろしくお願いします。
(勝部元気)