東京医科大学に続き、女子・浪人受験生の入試改ざん問題が発覚した順天堂大学が、点数改ざんを行った理由としてあまりに酷い“言い訳”をしたことで、大きな批判を浴びています。

第三者委員会の報告書によると、順天堂大学は、「女性の方が(中略)コミュニケーション能力が高い傾向があり、また、大学入学後において男性側の成熟が進み、男女間のコミュニケーション能力差が縮小され、解消される傾向があることから、(中略)大学入試時点における女子受験者に対する面接評価の補正を行う必要があった」と説明したのです。


このような正当性も合理性も無く、差別的偏見でしかない苦しい言い訳を平然と出来てしまう大学側の神経が信じられません。あまりにツッコミどころが多過ぎて、どこから指摘すれば良いのか、困惑すらしてしまいます。

(問題点1)言い訳と実態があまりに矛盾し過ぎている


まず、言っていることとやっていることがあまりに矛盾だらけである点が、大きな批判を呼んでいます。

政治アイドルの町田彩夏さんをはじめ、既に多くの人が指摘していますが、順天堂大学医学部は、そのアドミッションポリシーで「柔軟性と協調性を備えた高いコミュニケーション能力を有する人」を求めています。それなのに、コミュニケーション能力が高いと減点されるのはいったいどういうことでしょうか? アドミッションポリシーが完全に虚偽の文章です。

また、公式HPを見ると、順天堂大学は「出身校、国籍、性による差別無く優秀な人材を求め活躍の機会を与えるという「三無主義」の学風を掲げ」ています。嘘八百です。
差別をした上で、積極的に優秀な人材を排除しているわけで、180度逆のことをしています。学校が「お飾りスローガン」を掲げることはしばしばありますが、もはやお飾りですらなく、ここまで真逆のスローガンは見たことがありません。

さらに、2018年9月に文部科学省によって行われた「医学部の男女別合格率」調査(平成25年~30年)では、順天堂大学の男子合格率は女子の「1.67倍」であり、男女差はワースト1位にもかかわらず、東京都「女性活躍推進大賞」の優秀賞を2017年度に受賞しています。選出した東京都の選考委員も腑抜け過ぎますが、順天堂大学もいったいどんな顔で応募したのでしょうか。

そもそも、入学試験制度というのは「能力の高い者を選抜するために行う工程」であって、能力が高いことを理由に減点するという行動は、もはや「入学試験制度の破綻」とすらも言えるでしょう。

(問題点2)言い訳に用いたエビデンスが別の代物


次に、言い訳の根拠があまりにでたらめであることも指摘しておきたいです。大学側は上記の言い訳の正当性を説明するべく、第三者委員会に学術誌に記載された論文を提出したようですが、そのドラフトには、以下のように書いてありました。


「Sex differences in ego development were moderately large among junior and senior high school students (female advantage), declined significantly among college-age adults, and disappeared entirely among older men and women.」

英語が得意ではない私が見ても一目瞭然ですが、主語はego developmentであって、コミュニケーション能力ではありません。なぜ、この論文をコミュニケーション能力の話にすり替えたのでしょうか? 本当に本来エビデンスを重視すべき医学者たちの行動なのか、目を疑ってしまいます。

おそらく考えられることとしては、「女性差別を正当化しようという強烈かつ無意識の悪意によって、本気でこれが点数操作の根拠になると盲信した」のか、もしくは、「問題が発覚してから必死に点数改ざんの正当化になるような論文を漁ったものの目ぼしいものが無く、最も近しいものでもこれくらいしか見つけられなかった」のだと思います。科学が差別・偏見に負けた瞬間を見せつけられました。もはや学府とは思えません。


(問題点3)言い訳が完全に論理破綻している


また、言い訳が完全に論理破綻しています。仮に「女性のほうがコミュニケーション能力の高い人が多い」というのが事実だとしても、順天堂大学もしっかりと述べているように所詮それは「傾向」に過ぎないので、全ての女子受験生に対して“一律”に減点をする理由にはなりません。


たとえば、「男性のほうがうつ病になりにくい傾向にあるから、精神科や心療内科の患者受け入れや治療は、男性患者を後回しにする」ことが許されるでしょうか? それと同様の暴挙を裏でしたわけですが、被害を受ける対象が女性だと無慈悲に暴挙を働けるのは、やはり女性を対等な人間として見ていないのだと思います。

百歩譲って、仮に「女性のほうがコミュニケーション能力の高い人が多いため、合格者の9割が女性になってしまうから、患者のニーズを考慮して男性医師を確保のために補正する」というのであれば、理論上は成り立ちます。ですが、既に圧倒的に男性医師が多い中で、少数派を減点補正して更なる少数にしているわけですから、「差別的排除」以外の何ものでもありません。

ちなみに、同じく入試改ざんが問題となっている北里大学も、「手術に立ち会う際の体力面などを考慮」したとのことですが、であれば体力テストを実施して個別に判断するべきでしょうし、体力の低下した50代60代の先生方には一律に医師を引退して頂く仕組みにしなければ筋が通りません。

もちろん医師に求められるのは体力だけではないので、本来体力を基準に選定するのは許されるべきではありませんし、そもそも医師のブラック労働問題を是正すれば、一部の分野を除いて体力はそこまで必要不可欠な要件では無くなります。ブラック労働前提に医師の要件に体力を加え続けるのは、単に意思決定者たちの怠慢です。


(問題点4)呪いに苦しむ日本人女性の傷をなぞった


そして何よりも今回の順天堂大学の言い訳がこれほど大きな批判を浴びているのは、「男子は後から伸びる」という呪いのような差別的偏見を大人たちから浴びせられ、やる気阻害や自己効力感が著しく低下するという実害に被った女性たちが多数いて、その傷をなぞったからでしょう。

実際、インターネットでは、悲鳴とも言えるような投稿が噴出しています。「男子は後から伸びる」と小学生の頃から教育者たちに言われ、大学受験でも言われ、就職活動でも言われ、そして新社会人になってからも言われ続け、もちろん今も現在進行形で凹まされ続けている経験が吐露されており、これで「自分は出来るんだ!」という自己効力感が育つはずがありません。

本来、学力にしてもコミュニケーション能力にしても、伸びるか伸びないかは全て個人差のはずです。成績の悪い男子を鼓舞するためにこっそり伝えるのなら、学力向上という意味では効果はあるのかもしれない(※ただしその男子の女性蔑視を招くので不適切)ですが、女子にも聞こえるところで言う意味は何も無いどころか、(共学の場合)生徒の半分のやる気を削ぐわけで、全体の学力を下げる愚か過ぎる言動です。

仮に「男子は後から伸びる」のが事実だとしても、それは決して「男子は後から伸びる」という生物学的性質が存在するのではなくて、むしろ「男子は後から伸びる」等の言説をはじめとした「様々な偏見や差別によって女子が後から伸び悩んでしまうために、男子の伸びる速度が一定でも相対的に男子のほうが伸びているように見える」という社会構造があるだけだと思うのです。

コミュ力を理由に減点した順天堂大学の言い訳が酷過ぎて酷過ぎて震える



少しでも前に進むために私たちが出来ること


これまで多くの女性は何の根拠も無い偏見・妄想・神話を根拠に差別されてきました。
「男性はいつまでも子供だから」と言われ、女性や社会に対する失礼な振る舞いの加害性が減免されてきました。社会には様々な女性差別があるのにもかかわらず、都合の良い時だけ女性を上にして、自分たちの幼稚性や未熟さの言い訳にしてきました。

そんな延々と続いて来た言い訳が、医学という本来偏見とは真逆に位置するべき世界ですら、そして公平・公正な評価を受けられる最後の砦と考えられてきた受験という場所においてすら、平然と行われているあたり、絶望感は凄まじいものです。私の性別は男性ですが、たとえ自分が差別の対象ではなくとも、特定の属性の人が差別に遭うのを見るのは、この社会に生きる一構成員として見るに堪えません。

なお、次から次へと出てくる女性差別案件に対して、ただ批判をするだけではなく何か形になることをしなければ前には進めないと思い、現在、私が主催するNPO「パリテコミュニティーズ」では、「 #女性差別大賞2018 」という投票キャンペーンを開催しました。2018年には様々な女性差別関連のニュースがありましたが、その中から最も女性差別的だと思った「組織」と「広告」を投票で決めようという企画です。


現在のところ、「組織」の部では、入試改ざんを行った東京医科大学・順天堂大学の他、セクハラ問題の財務省、女人禁制の日本相撲協会、子連れ議員退場の熊本市議会等がノミネートしています。「広告」の部では、ハズキルーペ、秋元康氏のガールズバンド募集広告、ユニバーサルホーム、花王エッセンシャル、キリンビバレッジ等がノミネートしています。

この企画は決して個別の組織や広告をバッシングすることが目的ではなく、過去の事例を共有することや課題を明確化することを通じて、少しでも多くの組織が同じような間違いを繰り返さないよう促し、ジェンダー平等な世の中を目指すことを目的としています。情報が流れてしまいがちなインターネット社会において、しっかりとストック化することはとても重要なことだと思うのです。

投票締め切りは12月20日(木)の23時59分までです。1分ほどで投票は終わりますので、是非こちらから1票を投じていただきたく思います。また、投票が終わりましたら、Twitter等のSNSでハッシュタグ「#女性差別大賞2018」をつけてキャンペーンを盛り上げていただけると嬉しいです。
(勝部元気)