酷評の「高輪ゲートウェイ」と歓迎の「虎ノ門ヒルズ」はどこで差がついたのか?
「高輪ゲートウェイ駅」街区側外観イメージ図

2020年に開業するJR東日本・山手線&京浜東北線(品川駅~田町駅間)新駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決定しましたが、これに対して批判的な意見が数大きく飛び交っています。

一方、翌日の12月5日には、同じく2020年に利用開始予定の東京メトロ日比谷線の新駅名が「虎ノ門ヒルズ」に決定しましたが、こちらはそれほど批判殺到という状況ではないようです。


なぜ、同じ「地名+カタカナ」にもかかわらず、これほどまでに評価に差が着いたのでしょうか? 主に4つの理由をあげてみました。


(問題1)公募という仕組みを完全無視した


まず、既に様々なコメンテーターも指摘していますが、JR東日本は、応募には約6万4千件の応募が集まり、1位は「高輪」(8398件)だったのにもかかわらず、130位の「高輪ゲートウェイ」(36件)を採用したことに、驚き呆れた人も多かったことでしょう。これでは公募をする意味が全くありません。

これまでも合併自治体や新駅の名称選定において、せっかく公募をしたのに、最終意思決定者たちの鶴の一声で次点以降の候補が選ばれることは頻繁に起こっていますが、ここまでの大どんでん返しを起こしたのは私も見たことがありませんでした。インターネット上ではこの36件に対して、「身内の投票ではないか」といぶかしむ声さえも散見されます。

公募は批判が多かった密室での決定を改めるために始まった側面もあり、いまだに批判回避・言い逃れのためにやっているケースも少なくありません。ですが、130位を選ぶのはもはや言い逃れにすらなっておらず、「密室で決定しました!」と大々的にアピールしていることと同義ですから、批判が殺到するのも頷けます。これでは公募をせずに決めた東京メトロのほうがマトモに見えるのも当然です。


(問題2)応募者や地元民に損失を与えている


また、貴重な時間を割いて自分の想いを応募に乗せた人や、地元の名前に投票してもらおうと一所懸命PRした地元の人たちを愚弄するような行為で、失礼極まりないですし、「心理的損失」に加えて「時間的損失」という実損すら与えています。

JR東日本の記者会見では、深沢祐二社長(1987年入社のバブル世代)が「結節点としてふさわしい名だ」と意気揚々に発表していますが、実態は「公募した君たちの意見や地元PRした人の努力は蔑ろにしましたからね!」という発表に他ならないわけで、平気でいられる神経に驚くばかりです。

一方、東京メトロは利用者や地元の人々に「時間的損失」を与えていないわけですから、批判が少ないのは当然でしょう。


(問題3)ネーミングセンスが壊滅的に無い


さらに、高輪ゲートウェイに対するインターネット上の批判のうち、最も多かったのが「ダサい」という声でした。近年無駄に横文字を混ぜた駅名や路線名を爆誕させる例は枚挙に暇がありませんが、この「ダサ横文字」とも言える感覚は、バブル世代の特有の感覚のような気がしています。自分たちはスタイリッシュだと思っているのかもしれないですが、おそらく傍から見ると「下手に気張っている感じが非常にダサい」のだと思います。

2018年はDA PUMPの『USA』が「ダサカッコ良い」として大ヒットしましたが、「ダサ横文字」はDA PUMPというプロフェッショナルアーティストが本来持っているようなカッコ良さがあるわけでもなく、ただ下手にアメリカぶっているに過ぎないので「ダサい」と感じる人が多いのではないでしょうか。


高輪ゲートウェイを揶揄して山手線の全駅に横文字を付与した図がTwitterで拡散されていますが、おそらくイケイケ脳のままの彼等にはこのような「ダサ横文字」のカッコ悪さは分からないのでしょう。そして困ったことに、横並び意識の強い彼等はこれらを「流行」だと思い込んでいる節があるため、市民感覚とは裏腹に、今後しばらくは「ダサ横文字」による浸食が続くような気がします。

一方で、同じ横文字のはずの虎ノ門ヒルズは、「ダサ横文字」としてそこまで批判を受けているわけではなさそうです。これには、近年再開発ビル名に「地名+カタカナ」がかなり定着していることと、この新駅はその再開発ビルに合わせて開業するものだからでしょう。「東武ワールドスクウェア」や「あしかがフラワーパーク駅」等と同様と言えます。

ちなみに、「ダサい」というのはあくまで主観に過ぎず、世代間でどちらかの感覚が正しいと決められるものではありませんから、個人的にはあまり「ダサい」という理由で意見を否定するのは、避けるべきだと思います。

ですが、たとえば「おおさか東線」や「いわて沼宮内駅」等、政治家のポスターのように無駄にひらがなを使う事例や、「さくら」「平成」「ふるさと」「みどり」等、地元の固有ではない“優等生的ゆるふわワード”で地元アイデンティティーを消し去る事例と同様、歴史や人々の愛着を重んじる姿勢が無いことは非常に問題です。


(問題4)経営者の能力の低さが露呈した


最後に、今回のJR東日本の決定は、経営者の能力に関してマイナス評価に値する行為だと思います。まず、公募した約6万4千人やPR活動にあたった人が抱くJR東日本に対する企業イメージは、大きく毀損したことでしょう。加えて、意味の無い公募を行ったことによって、その費用をドブに捨てたわけです。そもそも上層部の中に「さすがに130位を選ぶのはちょっとマズいのでは…」と進言する人が一人もいなかったのでしょうか? 

また、高輪ゲートウェイの是非を問うたYahoo!ニュース意識調査では、約18,000件(2018年12月5日10時現在)の回答のうち、「とても良い」「良い」と答えた人は僅か5%で、およそ90%もの人が「悪い(18.3%)」「とても悪い(70.7%)」と答えています。これは、明らかにJR東日本のマーケティング能力が絶望的に無いことを表していると言えるでしょう。

一方、高輪ゲートウェイ駅が爆誕した同日に、マーケティング能力の高さが注目された企業がソフトバンクです。
ソフトバンクとヤフーの合弁会社が提供する電子決済「PayPay」は、「100億円あげちゃうキャンペーン」と題したキャンペーンを開始し、PayPayを利用した全買い物を20%引きにするという大胆な施策を打ち出しました。

さらに、10分の1~40分の1という高確率で買い物がタダ(限度額10万円)になる施策も合わせて投入し、この“ガチャ”に当選した人が当選画面をSNSでシェアしたため、周囲の高額消費を促す結果になりました。この前代未聞のSNSマーケティング手法に、詳しい人たちは一様に皆舌を巻いています。ソフトバンクという企業を手放しで称賛するわけではないですが、JR東日本と比べてマーケティング能力が月とスッポンなのは事実です。

偉いおじさんたちの改悪オンパレード


以上、4つの点において、高輪ゲートウェイを採択したJR東日本の問題を指摘しました。私は新線・新駅開発情報に限定した鉄道オタクで、今後開業する新線や新駅の進捗状況を逐次チェックしているのですが、今後も路線名・駅名の爆誕が予想されることから頭を抱えています。

たとえば、京急電鉄では、地元に住む小中学生を対象に公募を行い、ターミナル駅等を除く京急全駅の名称を変更するというキャンペーンを始めています。「産業道路駅」等、時代や社会構造に合わなくなった名前を変えるのなら分かりますが、「読みかた等が難しい」という理由で変更するのはそれこそ「ゆとり教育」と同じ発想で、知性に欠けますし、むしろ蓄積した歴史や文化を引き継ぐべき未来を蔑ろにしているようにすら感じます。

さらに、「えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン」のような覚える気にもなれないような名称や、「流山セントラルパーク駅」のように名称と実態がかけ離れている名称等、愚かな決断の例は枚挙に暇がありません。そして困ったことに、前例主義の日本人はいくらズレたネーミングでも、なかなか修正することが出来ず、「負の遺産」が長々と残り続けることになります。

また、愛称に関しても、歴史や愛着を無視した名称のため、全く定着しないケースも散見されます。たとえば、「東武野田線」「都電荒川線」はそれぞれ「東武アーバンパークライン」「東京さくらトラム」という愛称が付与されましたが、使用する市民をほとんど見聞きしたことはありません。
南海高野線の「りんかんサンライン」のように、いつか消滅するのも時間の問題でしょう。それでも、路線名や駅名に愛称をつけようというおじさんたちの間の謎の“流行”は今後も続きそうです。

地名や駅名や路線名を、カタカナ名、ひらがな名、無駄に長い名前、優等生ゆるふわワード等へに変更をしたところで、何の利益も生み出さず、ただ費用だけを垂れ流すだけ。そのようなマイナスの意思決定をする彼等を、どうか社会の上層から全員クビにするか、せめて“金太郎飴コミュニティー”のゲートウェイから外に出て、自分の愚かさを俯瞰して欲しいと願うばかりです。

(勝部元気)
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