みなさんは、子どもの教育費にどれだけ費やしていますか?
一人っ子の増加や教育投資ブームの影響もあり、2000年代初頭と比べても子ども一人当たりの学習費は増加傾向にあります。
「子どもの教育費は惜しむべきではない」と、湯水のように塾や予備校へカネをつぎ込んでいる親御さんも多いのでは。
文部科学省の調査によれば、子ども一人を高校卒業まで公立に通わせた際の教育費平均は約500~600万円。すべて私立に通わせれば、その額は2000万円近くにもなるそう。
しかし、「塾に課金して偏差値を上げ、一般入試でいい大学を狙う」教育投資モデルは、もはや現在の大学入試市場において「コスパ最悪の不良債権」と化しつつあることをご存じでしょうか?
今回は、教育投資のシビアな現実についてお伝えします。
大きく変化しつつある大学入試
現代の大学入試現場では、ペーパーテストを課す「一般入試」の利用者割合が半数を割り込んでいます。いまや過半数が「学校推薦型」や「総合型選抜(旧AO入試)」といった、いわゆる「年内入試」で進学先を決める時代になりました。
選抜方法が多様化すれば、これまでは零れ落ちていた別の才能を拾えるようになるかもしれません。
とはいえ、入試枠全体が増加するわけではない。そのしわ寄せは一般入試が食らいます。ペーパーテスト入学枠は減少傾向にあり、その分だけ競争も熾烈になります。
現在、首都圏で信じられている主要な教育ルートは「小学校から塾に重課金して中学受験で早期利確」でしょう。
ペーパーテストに勝つにせよ、推薦入試に勝つにせよ、中高一貫校の勝率の高さは圧倒的ですから、これ自体は高コスパを保ち続けるかもしれません。
ただし、中学入学後のルートは多様化していくでしょう。
“学力入試”の難化は止まらない
なぜならば、一発勝負の受験勉強に集中投資するよりも、勉強もそこそこに、様々な体験や課外活動に参加する機会も視野に入れて分散投資したほうが、多様化する入試形態に対応できる可能性が高まると考えられるためです。今年の東京大学入試では、理系数学が過去数十年を見渡しても最難関レベルの異常な難化を遂げました。
今後の学力入試では、これまでよりも一層学力に特化した学生が求められるようになるでしょう。
そこでの勝ち抜きを狙うよりは、自分が相対的に強く出られるフィールドを探して、そこに集中投資したほうが、総合的な勝率は高まるはずです。
逆に、旧態依然として学力入試にこだわり続ける層は、今後一層激しいふるいにかけられていくでしょう。
勉強が無意味になったわけではなく、勉強だけにこだわり続ける価値観自体を疑う時期に来たといえます。
塾課金は低コスパの時代が来る
「推薦入試なんて、一芸に秀でた天才か、スポーツ推薦の枠でしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在の総合型選抜では「大学に入ってから何がしたいか」という明確な意図と、それを裏付ける「高校時代の活動実績」を問います。
そして、これは子どもの展望を伸ばす意味でも、多分に親の見識やコネクションが影響してくる点で、圧倒的に富裕層有利であるといえるでしょう。
仮に、私が100万円を教育投資につぎこむなら、「学習塾の月謝や夏期講習代」には使いません。
その代わり、「海外の貧困地域を視察するボランティアツアー」や「最先端のIT企業が集まるシリコンバレーでの短期留学・キャンプ」、もし海外が難しくても「地方創生を目的としたサマーキャンプ」などのプログラムを調べ出し、子どもを放り込みます。
あるいは、100万円をかけてハイスペックPCを購入し、個人の開発環境を整えてやるでしょう。
それは、100万円で買える経験値として、後者の方が圧倒的に希少性と限定性が高いため。
塾に100万円を課金しても、得られるのは「同世代の数十万人と同じ、どんぐりの背比べの点数」でしかありません。
しかし、旅行や留学などの「属人性が高い特別な体験」に課金すれば、他者を圧倒する強烈な武器になりえます。
推薦・総合型選抜では面接導入が必須とされました。学生たちは、その道の専門家たる教授陣の前で自分の展望を語らなくてはいけません。
まだ人生経験も浅いうちから、大人を納得させられるだけの論理を組み立てる能力があればいいですが、それを求めるのは少々難しい。
となれば、残された武器は「現地を訪れることでわかるリアルな現場感覚と、そこから醸成される生の問題意識」。
100回教科書を読んでも貧困の実態なんてわかりません。当然、「どうにかしよう」なんて気も起こりにくい。
ですが、人生でたった1度だけでも途上国のスラムの様子を目の当たりにすれば、同情心などの感情ベースかもしれませんが、「どうにかしなければ」と問題意識が生まれてくれるかもしれない。
自分のリアルな経験や感情から湧き出る生きた言葉は、入試面接を勝ち抜く上で、非常に有用な武器となりえます。
だからこそ、私は「塾課金は低コスパの時代が来る」と予想します。
ペーパーテストの点数を10点上げるための無間地獄に数百万円を溶かすのではなく、「我が子にしか語れないオリジナルの経験」を買い与えること。
極言すれば、推薦入試という「体験の課金ゲーム」を見据えてオリジナリティあふれる青春時代を生きられるように親が誘導してやることこそが、今後の受験ゲームを勝ち抜く最強の支援となるでしょう。
昭和・平成の受験常識をアップデートして
「お金で特別な経験を買って、一般ではなく推薦で受かるなんて、邪道だ。なによりも金持ち優遇じゃないか」と不平の声を挙げたくなるかもしれません。全くその通りです。推薦入試の拡大は、露骨な「体験格差」を生み出し、カネと情報を持つ家庭をより有利にしています。
しかし、文句を言っても入試制度は変わらない。
我々はルールを作る側におらず、あくまでルールを守らされる側でしかありません。
名作受験マンガ『ドラゴン桜』では「バカはルールを守らされて損をするから、勉強をしてルールを作る側へまわれ」と生徒を激励しました。
まさしくその通りであり、我々にできることは「ルール変更に合わせて戦略を最適化する」程度でしかありません。
「とりあえず塾に行かせておけば安心」なんて思考停止の課金が許されたのは、平成までの話。
これから親に求められるのは、予備校のパンフレットを見比べることではなく、限られた予算を「どこに投資すれば、子どもの履歴書に最も強力な1行が刻めるか」を見極める投資家としてのシビアな目線。
子どもに勉強してほしいから教育投資をするはずが、よりによって一番勉強すべきは親の自分だった……なんてことのないように、常々注意したいものです。
<文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。
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