就職売り手市場の中、2018年卒の初任給を高めた企業があったことが調査で分かっている。果たして、全体としてはどのような状況なのか、キャリアコンサルタントに聞いた。
2017年(平成29年)の新卒者初任給の振り返り
近年、初任給は年々、徐々に上がっている。厚生労働省が2017年11月15日に発表した「平成29年賃金構造基本統計調査(初任給)」によると、次の結果になっている。
どの学歴においても、前年を上回った。
(男女計)
大学院修士課程修了 23万3,400円
大学卒 20万6,100円
高専・短大卒 17万9,200円
高校卒 16万2,100円
企業別の初任給のランキング結果(東洋経済オンライン・会社四季報による調査)を見ると、1位は日本商業開発の50.0万円、2位はGCAの37.5万円、3位がグリーンランドリゾートの34.0万円となっていた。1位を抜かせば30万円台がいわゆる「初任給の高い」企業といえそうだ。
2018年卒の初任給
今年卒業・入社する2018年卒の初任給はどうなったのか。やはり今年も引き上げの傾向がみられる。
リクルートワークス研究所の調査では、2018年卒対象の新卒採用において、大学院卒と大卒の初任給を前年より高めると答えた企業は7.6%となった。業種別で他の業種に比べて高かったのは「流通業(8.7%)」や「建設業(7.9%)」だった。
また、さらに詳しい分類で見ると、「精密機械器具(14.6%)」、「コンピュータ・通信機器・OA機器関連(11.1%、回答社数が少なく参考値)」、「医療・福祉(10.1%)」などが他業種と比べて前年より初任給を高めた。
この2018年卒の初任給の結果に対して、キャリアコンサルタントの橋谷恵氏は次のように話す。
「『人手不足業種』ほど、初任給を高くしないと希望の人材が集まりにくい状況にあるといえます。起業という手段はあるものの、新卒就職を希望する学生はまだまだ多く、会社側は限られた新卒者の中で、必要な採用数を確保しなければならないというところがあります。待遇面などはもちろんですが、それに加えて給与も見直さないと人が集まらないところまで来ていると思われます。
人手不足で、採用した人を教える余裕がない企業ほど、即戦力になれるような人材を希望する傾向がありますが、それは新卒も同じです。『未経験者を育てて一人前にして働き続けてもらう終身雇用』が崩れた今、最初から適正な人数を採用し、早い段階で戦力になることを企業は新卒にも求めます。このことから、2018年卒の初任給が高くなったのは、希望人材確保の競争が過熱した結果だとみています」
実際のところ、2018年の初任給は高かったのか
では、現場感としてはどうか。橋谷氏が新卒者にアドバイスをする中で、やはり初任給は高い傾向があったのか。
「初任給が高くなったという印象は、実感としてあまり感じられませんでした。上がっている企業もあるなという感じです。確かに初任給を上げている企業もありますが、あくまでも『会社としては初任給が上がった』ということです。初任給が大きく上がった業界があったわけでもないので、初任給を上げる個々の企業が目につくようになり、統計を取ってみると全体では初任給が上がっていたということではないでしょうか」
むしろ、実感としては初任給よりも他の面のほうが目立っていたところもあったようだ。
「初任給がアップしたといっても、それほど大幅にアップした企業が目立つわけではないです。どちらかというと、初任給は上げたものの、働きやすさや福利厚生といった賃金以外の待遇面や、仕事内容から将来のキャリアビジョンといった面を強く打ち出している感じを受けます。初任給アップには限度があり、上げられない企業もあるので、企業側も優秀な学生に選んでもらうために苦戦しており、あの手この手で策を打ち出しているという印象です。学生と話す中でも、賃金を重視するのは、東京で一人暮らしを希望する学生や、奨学金返済がある学生くらいで、一般的には待遇面を重視する傾向があります」
2019年卒の初任給見通し
橋谷氏に、2019年の初任給についての見通しを聞いた。
「2019年初任給は大幅に上がるとは思わないですが、上げてくる企業は増えると私は考えています。
取材協力
キャリアコンサルティング研究所
キャリアコンサルタント 橋谷恵さん
新卒から定年退職を迎える方まで、30,000人近い方々と幅広く就職転職支援や副業を含めたキャリアデザインといったキャリアコンサルティングに携わる。人生100年時代の働き方を見据えて、今だけでなく将来までを考えたアドバイスを信条としている。
(石原亜香利)