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(C)永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会
今回は現代的に生まれ変わったロボットの数々や、登場人物たちの人間模様、さらに未来に向けての意気込み(?)まで深掘り。
『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』家族の映画だったのだ!?
マジンガーの技術を民間転用しないわけがない
──今回の映画にはマジンガーをはじめ、ボスボロットやビューナスAといったお馴染みのロボットから、新規のロボットまで沢山出てきますが、特に気になったのが「イチナナ式」です。
小沢 あれだけリアルロボット路線のデザインなんですよね。量産型を出すというのは最初から決めていたんですよ。これだけの技術があるのに民間転用しないわけないだろうと。だからイチナナ式は戦闘に限らず、工事現場など色んな場面で使っているという設定です。

──マジンガーZの大きな特徴として、武器が身体に内蔵されているというのがありますけど、イチナナ式の武器は手持ちですよね。
小沢 銃を持たせたいとは思っていましたけど、後はメカニックデザイナーの柳瀬敬之さんのアイデアじゃないかな。
金丸 マジンガーZを元に作られてはいるけど武器や盾は手持ちで、作業用のイチナナ式から、翼などの換装パーツを付けて武器を持たせるだけで戦闘用に変えられるんですよ。
──この「イチナナ式」という名前にはどういう意味があるんですか?
小沢 「量産型」じゃ締まらないから、何か名前が欲しいとは思ってたんですけど……。本当は映画の公開が17年の予定だったんですよね(笑)。
──間に合わなかった!
小沢 永井豪先生の画業50周年も2017年だったので、そのお祝いという気持ちもあります。まあ、自衛隊の戦車とかも年度で型式をつけたりするじゃないですか。
金丸 公開は17年度なので、永井豪先生の画業50周年記念作品として製作できました。

「ポッピンQ](宮原直樹監督)のプロデュースも
──一方、機械獣は相変わらずのデザインで。
小沢 相変わらずですよね!
この奇抜なカラーリングがどうCGになるのかと思ってましたけど……。もっと彩度を落としたりして背景と馴染ませるのかなと思ったらそのままでした(笑)。
金丸 そこはどうリアルにしても機械獣らしさが失われちゃうんです。
柳瀬さんも「機械獣その個性のまま、CGで動かせるようにリファインした方がいい」と言っていました。柳瀬さんの他に、海老川兼武さんやフヂロウさんにも機械獣デザインでご協力頂きました。
──リアルな背景の中で、あの奇抜な色の機械獣が暴れ回っているのはとにかくインパクトがすごかったです。
小沢 戦闘シーンに関しては僕の方から指示することは少なかったんですけど、外からビルの中をのぞく機械獣っていうのは絶対にやりたかったですね。
世界征服なんて絶対に面倒くさい
──敵のボスがDr.ヘルだというのも最初から決めてたんですか?
小沢 当初、永井豪先生のアイディアでは「ゴラーゴン」っていう敵がいたんですよ。ゴラーゴン軍団が宇宙から攻めてきて、最初は火星辺りで戦ってるんだけど、押されてきて月で戦って、最終的に地球まで追い詰められてくるというアイディア。
金丸 でも、宇宙戦をやっちゃうとマジンガーZらしさがなくなってしまう。
小沢 久しぶりのマジンガーZなのに光子力研究所が出てこないのもさびしいし、ビル群を壊すシーンも欲しいし、宇宙だと重力の問題もあるし。
──真空じゃホバーパイルダーも飛べなそうですしね。
金丸 結局、ダイナミック企画さんとも「マジンガーZはやっぱり地上に立って戦わなくちゃね」という話になって。「ゴラーゴン」という言葉は残しておきつつ、それを自然現象にするか敵にするかで悩んでいたところ、小沢さんが「じゃあDr.ヘルを出せばいい」って。
小沢 設定上は、光子力の集中利用の影響で時空が歪んだ影響でうんぬん……とか理由があるんですけど、もともと部下を蘇らせたりしている人なんで、自分もいけるだろうと、そこはあえて多く語らないように気をつけました。ヘルが出てくると一気にマジンガーZらしくなるんですよね。
──確かに!
小沢 尺が90分ってカッチリ決まっていたので、その中でゲストヒロインも出したい、あれもやりたいって考えていくと情報が多すぎるんですよ。せめて敵くらいは説明がいらないようにしないと、何の話だか分からないまま終わるっちゃうんで。ヘル軍団だったら出てきた瞬間に「はい、この顔色ね」ってなるじゃないですか。

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──今回の映画では、Dr.ヘルの世界征服に対する考え方を新しく定義していたのが印象的でした。
小沢 その点は、基本的な流れとしてはブレていないんだけど、ずっとセリフに悩んでいましたね。
僕、普段から「決めゼリフ」とだけ書いてセリフを空けたままシナリオを進めたりするんですけど、今回もヘルの「人類の最大の弱点はなんだか分かるか?」というセリフの後をずっと空けておいて……。
「弱点って何だろう……多様性だ!」って思いついて、しっくりきました。
──昔からスーパーロボット系の敵キャラが何かと「世界征服だ!」というのには疑問があったんですか?
小沢 どう考えても面倒くさいじゃないですか。
──正義側の「地球を守る」というモチベーションは分かりやすいですけどね。
金丸 永井豪先生が最初の漫画版でやったのは、「マジンガーさえ倒しちゃえばこの世界を自分たちの好きに出来る」という表現で敵が襲ってくるという方法だったんです。
でも10年間で平和も常態化しちゃってマジンガーZもいない。人口過多にもなってて……そういう世界を悪者はどうしたいんだと。そこで小沢さんが「多様性」とか「共存共栄」というセリフを考えついて、一気に敵らしくなりました。
小沢 ヘルに「共存共栄」って言わせたのは僕も気に入っています。また、あの声(CV:石塚運昇)で言ってもらえたという説得力ね!
妊娠したお腹がつかえてフットペダルが踏めない!
──味方側の話で言うと、兜甲児と剣鉄也のプライベートも興味深かったです。
小沢 プライベートの方は鉄也とジュンに背負わした部分が大きいかな。本当は、さやかが妊娠している予定だったんですけど。……それがダイナミック企画さんに止められた唯一のことですね。「ヒロインなんで妊娠しているというのはちょっと」って。
──さやかもいい歳なんで妊娠していてもおかしくはないですけどね。

(C)永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会

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小沢 そこはゲストヒロインのリサの位置づけにも関わってくる部分で、さやかが妊娠している最中に、甲児がリサと浮気しているような関係に見えて……みたいな昼ドラ的な展開も考えていたんですけど(笑)。まあ、おっしゃることももっともだなと。
でも、ジュンを妊娠させたことによって、「お腹がつかえてフットペダルが踏めない」というシーンが書けたのはよかったですね。とても気に入っているところです。
金丸 色んなことがそこに凝縮されていますよね。マジンガーの世界って全部コクピットが狭いんですよ。なぜならもともと子どもが乗るように作られていたので。そんな発想が出てくる小沢さんはすごいなと。
──ゲストヒロインのリサも印象的な子でしたね。
金丸 リサ役の声優を決めるオーディションをやった時に、選択肢が2つあったんです。明るい芝居か、しめっぽい芝居か。

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最後は家族や絆の物語となるので、「子どもに託せる」という希望を持たせたくて明るい演技の方を選びました。しめっぽくなっちゃうと今生の別れみたいになってしまうので。
結果的に上坂すみれさんの芝居がすごくハマッたのでよかったなと。リサが物語の中心になってくれましたね。
小沢 ゲストヒロインって不幸になりがちじゃないですか。僕はもともと映画ごとにゲストヒロインを出したりすることに否定的なんですよ、ちょっと出てきて去って行くキャラクターなんていらないでしょ。
でも、出す以上はちゃんとキャラクターを立たせたいなと。そういう意味では、さやかの妊娠中の浮気相手みたいな設定だったらアリかなと思っていたんですが、結果的に「娘ポジション」という落ち着かせ方ができてよかったですね。
──全体的にファミリーのニオイがするお話しになっているのは、小沢さん自身が子育てをしているからでしょうか。
小沢 それはすごいあるでしょうね。後付けではありますけど、観てくれる人たちの中にも、子ども時代にマジンガーを観ていて、今は子育てをしているという人も沢山いるだろうし。
金丸 試写会にはご夫婦でいらっしゃる方も多かったですよ。
──永井豪先生からの感想って聞かれましたか?
金丸 「当時、僕の頭の中で考えていたスーパーロボットのアクションが表現できるところまで来たね」って。あとは「とにかくお話しが面白い」とおっしゃっていたと人づてにお聞きしました。
小沢 それは嬉しい言葉ですねー!
──リアルな感想ですね!
歯みがきのチューブを最後まで出し切りました
──『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』には映画版、前日譚である漫画『マジンガーZインターバルピース』(小沢高広が原作を担当)、さらに小説版『マジンガーZ / INFINITY』まで出ていますが、これも小沢さんが書かれたんですよね。「小説版」第1章無料試し読み、2/13まで

小沢 そうですよ。普通、アニメの脚本家が漫画原作をやったり、ノベライズまでやったりしないらしいじゃないですか。僕はそういうもんだと思ってたから全部引き受けちゃって(笑)。
金丸 それが出来るのは小沢さんならではですよ。普通、アニメーションの脚本家がコミカライズの原作を担当しても、漫画家さんとコミュニケーションを取るノウハウがないのでお任せになることもありますが、あそこまで強度の強い漫画にはならないですから。初挑戦だった小説をあそこまで完成度の高いものにできるというのも、小沢さんの柔軟性のなせる業だと思います。
──小説版は映画版を元にしつつもさらに内容が濃くなっていますが、小沢さんの構想だと最初からこのくらいのボリュームだったんですか?
小沢 ここまでではなかったですけど、もう少し長かったですね。
金丸 アニメーション映画でいうとあと30分くらい長くなるような脚本でした。
小沢 アニメの人は原稿用紙の枚数で尺が分かるって言うんですけど、僕は分からないんですよ。漫画のページ数換算だと分かるんですけどね。
──削ったポイントはどんなところですか?
小沢 入らなかったシーンでいうと、ボスとリサと甲児が旧・光子力研究所をのぞきにいく……みたいなのもありましたね。全体的にリサをもっと書き込んでいました。
あとは、最初のグレートマジンガーの戦闘がかなり変わりましたね。ボクの脚本の段階では、グレートがボコボコに負けていたんですよ。武装がもっと制限されていて、悲しい戦いになる予定だったんです。ただ、志水淳児監督はアクションでバンバン行きたいという意向だったので。
金丸 テレビシリーズのグレートマジンガーってメチャメチャ強いんですよ、まずそれを見せたかったんです。

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小沢 僕としては、学生時代に活躍した人が会社に入ったら、営業としてのテクニックがまったくなくって落ち込んでいく……みたいなことと重ねたかったんですけど(笑)。でも監督は格好いいスポーツ選手のまんま営業もやって欲しいという方向性でしたね。
──それはそれで観たかったですねー。
小沢 そういった、時間の関係で映画版ではカットしなくてはならなかったシーンを復活させた上に、映画版の戦闘シーンのイメージをフィードバックさせたのが小説版ですね。
──これだけの量なんで、小説の執筆も、脚本と同時進行していたのかなと思ったんですが……。
小沢 そんな進行じゃなかったんですよ!
小説はホントに1ヵ月くらいで書き上げましたから!
小説を書いたのもはじめてだったんで知らなかったですけど、こんなスピード感で終わるものじゃなかったんですね。
──いくらストーリーが出来上がっているとはいえ。
小沢 でも書いていてすっごく面白かったです。歯磨きのチューブを最後まで全部出し切ってスッキリしたような気持ちになれました。
──色々と大変だったと思いますが、もしもまたアニメ脚本の仕事が来たら受けますか?
小沢 ああ、やりますやります!
漫画ってね、どんなにがんばっても絵が動いてくれないんですよ(笑) だから絵が動くのは単純に面白いなって。
普段、妹尾朝子(うめの作画担当)が「メカは苦手だから描きたくない」って言っているので、そういう漫画が描けないんですが、僕はメカメカしいのも嫌いではないので、そっちをやってみたいですね。
金丸 小沢さんに頼んでよかったなと思っているのは、アニメの脚本って通常はフォーマットが決まっていたり、脚本家さんのオリジナリティというよりは、アニメーション表現として演出家さんがどう料理するかっていう手法なんですけど、今回は小沢さんの作ったセリフや色、オリジナリティを強く残したままアニメーションに出来たのかなって。
なので、次お願いする時も小沢さんのオリジナリティを発揮したロボットアニメを作ってもらえれば!
──もう次の話が!
(北村ヂン)

●「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」公開中
森久保祥太郎 茅野愛衣
上坂すみれ 関 俊彦 小清水亜美 花江夏樹 高木 渉 山口勝平 菊池正美
森田順平 島田 敏 塩屋浩三 田所あずさ 伊藤美来 朴ろ美 藤原啓治 石塚運昇
石丸博也 松島みのり /おかずクラブ(オカリナ・ゆいP)/ 宮迫博之
原作:永井 豪 監督:志水淳児
脚本:小沢高広(うめ) キャラクターデザイン:飯島弘也 メカニックデザイン:柳瀬敬之 美術監督:氏家 誠(GREEN)
CGディレクター:中沢大樹 井野元英二(オレンジ) 助監督:なかの★陽 川崎弘二 音楽:渡辺俊幸
オープニングテーマ「マジンガーZ」水木一郎
エンディングテーマ「The Last Letter」吉川晃司
アニメーション制作:東映アニメーション 配給:東映
(C)永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会