返本が断裁処分される様子に悲嘆の声 背景に「委託販売」と「再販制度」
画像はイメージ

出版社は本を出すだけではない。倉庫や工場には大量の在庫と返本があふれ、日々大量の不良本が処分されている。知識としては知っていても、実際の現場を知るものは少ない。Twitter上で天井に届くほど積まれた書籍やマンガがスクラップにされる様子が画像とともに伝えられると、多くの悲嘆の声が上がっている。

「出版関係者は一度見るべき光景」


あるユーザーがTwitterにアップした、出版社が管理する工場で返本や不良本が断裁処分される様子の画像が話題になった。画像には、大量の書籍がバラバラに断裁され、一カ所にまとめられる様子が写されている。この状況を実際に目の当たりにしたという投稿者は、「返品や不良品と化した単行本たちが容赦なく裁断される恐るべき場所」と表現。そして「けたたましい轟音と共に作家の魂とも言える単行本たちはバラバラにされ、ひとまとめにされ、再利用としてトイレットペーパーになる運命にある」と悲しみを滲ませた。



実は投稿者はマンガ家で、工場内で自身の作品を見つけたらしい。そんな事情もあってか「さすがに精神にくるものがありました」「作家や出版関係の方々は自分の目で一度見るべき光景だと思いました」と続けた。

出版業界が適用する“委託販売”と“再販制度”


売れなかった本が断裁される様に、同ツイートには「もったいない」「辛い現実ですね」と悲嘆の声が多く寄せられている。大量の書籍が“ムダ”になってしまう背景には、大量に印刷するものの「店舗には限りがあるから受け入れられない、または初動が悪い商品は返却」される現状がある。

書籍の流通は書店による買い切りではなく、委託での販売がほとんど。つまり、小売り側は出版物を“預かり”、実際に売れた分だけ出版社に支払いをする。店舗が売れないと判断した書籍は、リスクなく返品ができる仕組みになっている。そのため、どうしても仕入れと実売が一致せず、返本が生じてしまうのだ。

なかには「低価格で販売を継続すれば?」との提案も見られるが、出版業界では再販制度(定価販売制度)をとっている。再販制度とは、出版物の価格は出版社が決定し、小売り側は決められた価格で販売するという制度だ。そのため、小売り側が勝手に値下げを行うことができない。一方で、再販制度のおかげで流通が公平かつスムーズになっているというメリットもある。

作者の思いが込められた出版物がバラバラに切り刻まれてしまう光景は、作者はもちろん、作品に携わった編集者や読者も胸が痛む。再販制度も含め、出版業界全体でこの問題を改善する必要があるのではないだろうか。

(上西幸江)
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