フリーランスに向いているのはどんな人 「フリーランス研究家」に聞いてみた

フリーランスで働く人は2017年の時点で1100万人を超え、年々増え続けています。フリーランスの働き方とはどんなものなのか? 会社員とは何が違うのか? 経営者の「壁打ち相手」であるディスカッションパートナーや、フリーランス同士の互助組織「FreelanceNow」、議論でメシを食っていく人のサロン「議論メシ」など様々な取り組みを行う、フリーランス研究家の黒田悠介さんにお話を伺いました。


会社員とフリーランスの違い


――会社員とフリーランスでは働き方や日々の生活にどのような違いがあるのでしょうか?

黒田:いちばんの違いは意思決定がぜんぶ自分の手元にあることですね。朝何時に起きてもいい。何時から仕事を始めてもいい。仕事をやる日、やらない日も自分で決めていい。あるクライアントと仕事をするかどうかも決めていいし、価格も本人次第。あらゆることを自分で決められるのがすごく良いところです。

――フリーランスの難しさはどんなところでしょうか?

黒田:個人的には上司がいないことのインパクトが大きいと感じました。
上司というのは時に無茶振りもしますが、基本的には自分の成長を考えてくれるひとです。部下が育つことで上司自身や企業にとってもメリットがあるからです。一方でフリーランスを育てるメリットは企業にありません。使ってみて駄目だったら別のフリーランスに頼めばいい。なのでフリーランスは、成長する機会を自ら作り、自分で自分を成長させなければいけません。それができないと、フリーランスになっても長続きしないし、「会社にいたほうが成長できていたな」ということになってしまいます。


――なるほど。上司というのは利害の一致の上で自分の成長を促してくれる存在ですものね。

黒田:あともうひとつ。会社の中ではチームチームで物事を進め、経理や営業も分業されていますが、フリーランスは基本的にそれらをすべて自分でやらなければいけません。仲間同士でチームランスのようなものを組んでみたり、テクノロジーや外部サービスに委託してみるなど、そういう知恵を使わないどんどん雑務に追われ、本業にも力を入れられず営業もできなくてジリ貧になってしまう。フリーランスは自由な働き方ですが、すべてを切り捨てた自由ではなく、すべてを抱え込んだ上での自由であるといえます。


フリーランスにはふたつのタイプがいる


――フリーランスに向いている人というのはどのような人でしょうか。

黒田:時間を守る、締切りを守る、言葉遣いをちゃんとするなど、そういった社会人の基本はフリーランスでも必要です。また「フリーランスになると会社の中での人間関係がなくなって楽なのではないか」という人もいますが、実はフリーランスになる方が人と話すことは増えることが多いです。なのである程度のコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。また、フリーランスを二種類に大別すると、縦に深い能力が求められるプロフェッショナルタイプと、横に広げていくプロデューサータイプとに分けられます。このふたつも必要な資質がそれぞれ違っています。

――まずプロフェッショナルタイプについて教えてください。


黒田:プロフェッショナルタイプは、手を動かしてソースコードを描いたり、デザインをやったり、文章を書いたり、いわゆる納品物がちゃんとある人たち。こういう人たちの場合は、スキルやノウハウがあることはもちろん、最初に要件を定義して自分のやりやすい環境を作れることが大事です。

――プロデューサータイプの場合は。

黒田:プロデューサータイプは、人やアイディアを繋いでいくことが仕事。ひとつの専門性に特化するのではなく、デザイナーともエンジニアとも経営者とも話ができますよと。そういう意味で越境人材という呼び方もできるでしょう。
必要なのは常にその人の視点に立って考えられることや、プロフェッショナルタイプに対する尊敬、そして組織の内外にあるいろいろなものを混ぜ合わせてひとつのプロジェクトに仕上げていくような能力ですね。
フリーランスに向いているのはどんな人 「フリーランス研究家」に聞いてみた


自分の働きぶりを知る人を社外に多く作る


――現在会社に勤めている人がフリーランスを目指す場合、どんなことから始めればいいのでしょうか?

黒田:人間が持てる資本には3つあるといわれています。まず一般的な金融資本、自分のスキルやノウハウを指す人的資本、人との繋がりや信頼性を指す社会資本です。この3つをある程度貯めておくとフリーランスを始めやすいですね。金融資本については、フリーランスの仕事は最初のうちはお金にならないこともあるので、2カ月ぐらいは無収入でも生活できるぐらいの費用は貯めておいた方が良いですね。そうでないと目先の生活費のためにジリ貧で安い仕事ばかり受けて、自転車操業のような始まり方になってしまいがちです。

――しっかりと準備をして、いくらかの余裕を持った状態で始めた方が良いんですね。


黒田:次に人的資本。もともと傭兵を表す言葉だった「フリーランス」ですが、「ランス」は英語で槍という意味です。槍を持っていない人はただのフリーな人なので、自分にとっての槍、つまり武器になるスキルやノウハウをきちんと身につけること。そしてそれが何なのかを言語化して他者に伝えられる状態にしておくことが大切です。社会資本は信頼残高や人との繋がりのことですね。会社員のうちからできることとしては、自分の仕事ぶりを知っているひとを社外にできるだけ増やすことなどがあります。逆に所属している部署や会社内の人だけしか自分の仕事ぶりを知らない状態というのは、フリーランスを目指す場合に限らずリスクが高くて、その状態だと会社がなくなった時はもちろん、会社を辞めたくなった時の選択肢が非常に狭くなります。そういう観点では副業などをやって、人材市場などの社外に自分の働きを知ってもらうう機会を増やすのも良いですね。


「この借りはいつか必ず返すぜ」というひとを多く作る


――信頼残高の話が出ましたが、フリーランスが信頼を高めるためにできることは何があるでしょうか。

黒田:信頼残高の貯め方が仮にあるとすると、多くギブすることですね。たとえば「500円あげるから500円分の仕事をする」というのは当たり前のギブアンドテイクですが、それをやるだけでは信頼関係はなかなか生まれません。仮にお金が発生する仕事だとしても、もらったお金よりも多めにギブしてしまう。例えば1万円もらって、1万5千円分の仕事をやっておいて、差額の5000円はプレゼントということにしておくと、相手は「今回ちょっともらいすぎちゃったな。後で何かお返しをしなきゃ」と、次の仕事や新しい仕事を紹介してくれたりします。あげすぎちゃうぐらいがちょうど良いと思いますね。

――少年漫画風にいうなら「貸し」を作っておく。

黒田:そうですね。「この借りはいつか必ず返すぜ」というひとを多く作っておくと、いつの間にか信頼残高が貯まっていたりします。一方でやりすぎると今度は搾取に取り込まれるということもゼロではないので、ギブする相手とかは考えなきゃいけません。

――大きい組織になればなるほど、利害関係や効率が重視されて、人間的な信頼関係は後回しにされやすいものですけど、フリーランスの場合はそういった信頼関係の重要性が高いように感じます。

黒田:フリーランスには四半期決算などがなく、ライフタイムで物事を考えられるのがすごく良いところですね。ただしジリ貧になってしまい「来月食べていけるだろうか」というような心理状態になると、今度は全然長期的に考えられなくなり、むしろ短期視点になって自転車操業に陥りがちにもなります。いかに視点を遠く、5年後とか10年後とか人生単位で考えて未来に向けたタネまきができるかというのは重要ですね。

(辺川 銀)