
カレーが好きな人、多いですよね? 筆者もカレーは大好き。特に野菜などをじっくり煮込んだこってりしたカレーが大好きです。
実はカレーに使うスパイスに漢方を使っているというお店があるんです。漢方とカレー…。不思議な組み合わせに感じますが。
今回は、このカレーに使う漢方を配合したという薬剤師の方にお話を聞くことができました。漢方とカレーの意外な組み合わせはどうやって生まれたのでしょうか。
「もうやんカレー」のカレーは薬膳?
この漢方を配合した特別なスパイスを使っているのが、新宿を中心に都内や名古屋でチェーン展開をしている「もうやんカレー」です。

カレーの味の秘密を知る前に、お店に訪れてみました。今回は歌舞伎町の中にある新宿東店へ。ここは場所柄深夜までオープンしているのが特徴。お店の看板に描かれているイラストと、独特な書き文字が目印です。

入口に、「漢方スパイス」の看板がありました。

店内にはデカデカともうやんカレーの説明書きが。ここのカレーは、グルテンフリー。つまり小麦粉を一切使っておらず、大量の野菜と、質の良い油と水、そして25種類以上の漢方熟成スパイスで2週間という時間をかけて作られた、非常に手間のかかったカレーなのです。

席には、「漢方スパイス」と書かれた粉が。これがもうやんカレー独自の配合をした追加スパイスなのです。もちろんカレーの中にも入っていますが、これはトッピング用として作られています。

早速カレーを食べてみます。今回はランチの時間で、全部のせカレーの仏盛り(ご飯が半分で、100円引き)を注文。じっくり煮込まれた牛肉と、豚バラ肉、そして鶏肉の味噌炒めがトッピング。仏盛りでも十分なボリュームです。

カレーは、トロトロ。小麦粉は使っていないのに。

最後に、「漢方スパイス」を一振りしてみました。程よくスパイシーになって、味に深みが増します。このクセになりそうなもうやんカレー独特のスパイスにはどんな秘密があるのでしょうか。
実は「スパイス=漢方」

「もうやんカレー」で使われている「漢方スパイス」を配合したのが、新宿にある漢方薬局「漢方の氣生(きお)」の久保田佳代(くぼたかよ)さんです。
なんでカレーに漢方なんですか? 意外な組み合わせに感じるのですが。
久保田「私たちが『漢方』と言っているものは、実は多くが『スパイス』なんですよ」
ええ!漢方はスパイスと同じなんですか?
久保田「そうなんです。例えば、カレーによく使われるウコンは漢方では鬱金と書きますし、シナモンは桂皮と書きます。スパイスと言われているものは、漢方の生薬に置き換えることができるんです。そう言われると、カレーに漢方が入ってても違和感がないでしょう?(笑)『薬膳』とかよく言いますけど、つまりはスパイスなんです。
もうやんの「漢方スパイス」には8種類生薬が入っている
そう言われてみると、納得です。でも、なぜ「もうやんカレー」の「漢方スパイス」を作ることになったのですか?

久保田「もうやんのオーナーに頼まれたからです(笑)実は、今使われている漢方スパイスは2代目なんです。以前の配合の方がもっと漢方っぽかったですね。今回はもうやんカレーの店主の希望で、かなりカレー寄りにした配合です」
その「漢方スパイス」というトッピング用のスパイスは、何種類の生薬が入っているのですか?

久保田「今使っているスパイスには8種類の生薬を使っています。小豆蒄(カルダモン)、花椒(サンショウ)、丁子(クローブ)、陳皮(オレンジピール)、生姜(ジンジャー)、五加参(エゾウコギ)、枸杞子(クコノミ)、薄荷(ミント)です。漢字で書くとわからないですけど、カタカナ表記にするとどれも知っているでしょう?(笑)スパイスはつまりは効能のある薬とも言えるのです。

漢方スパイスで使われているエゾウコギは、ロシアでは民間の薬として使われていて、抗ストレス効果があります。クコノミは血を元気にするし、目にもいい。それぞれにちゃんと効能があるんですよ。
前のスパイスのファンの方も結構いらっしゃって、クセになるパウダーだったのか、もうやんカレーで出しているタパス(小皿料理)にかけたり、ドリンクに入れたりする人もいましたし、「パウダー体にかけたいくらい!』なんていう女性もいました(笑)時々お店に『前の配合のスパイスが欲しい』と問い合わせがもあったりします」
カレーは究極の「薬食同源」
さきほど「スパイスと生薬は同じ」という話が出ましたが、そう考えると毎日スパイスがたっぷり入ったカレーを食べているインド人は毎日が漢方漬けという感じですね。
久保田「そういうことになりますよね。インドの 家庭には当たり前に数十種類のスパイスが置いてあって、それを使って毎日カレーを作ります。 そのスパイスの配合は家庭によっても違いますし、また家庭の中でもその日の体調によって変えたりしています。
インド人にとっては、スパイスはごく当たり前にあるもので、代々伝わってきているもの。

さっきもお話ししましたけど、「生薬=スパイス」なんですね。スパイスは香りと色を付けるものとして使われていますが、生薬の場合はそうじゃない。生薬は薬が始めなんです。でも、使い方が違うというだけで、元は同じなんです」
つまり、スパイスは生薬なので、インド人は意識せずに身体にいいものを毎日取り入れているということになりますよね。
久保田「そうです。『スパイス=生薬』と考えると、インド人は食事をとりながら、毎日毎日薬を飲んでいるんです。『薬食同源』が当たり前なんですね。彼らにとっては『お母さんが薬剤師』みたいな感じですね(笑)」
自分が欲しているスパイスを摂るのがいい
食事をとりながら健康になるというのはいいですね。
久保田「『薬食同源』ってとても大事なことだと思います。普段の食事から手軽に漢方を取り入れてほしいと常に思っていて、それで漢方を配合したパウダーとふりかけを作りました(笑)」

この「野汲粉(やくみこ)」と気香粉(きこうふん)と、「野汲(やくみ)ふりかけ」ですか?
久保田「実は、このパウダーとふりかけをつかったレシピ本も作ったんですよ。知り合いのシェフに頼んで、レシピを考えてもらいました。

たとえば、家庭のカレーなどに気軽に取り入れられる漢方のトッピングとかありますか?
久保田「うちの「野汲粉(やくみこ)」と気香粉(きこうふん)を使ってほしいです(笑)。何回もお話ししていますが、『スパイス=生薬』なので、市販で売られているパウダーで十分です。
どのパウダーを使うかは、香りを嗅いだ時に気になるものを選ぶのがいいです。気になった香りのスパイスが、自分の身体が一番欲しているものになるので。自分が好きだなと思うものは、身近に置いておくだけで薬食同源は叶います。」
ちなみに、私はこの 丁子 (ちょうじ、クローブ)の香りがとても気になったのですが…。
久保田「 丁子が気になるということは、胃が弱っているんじゃないでしょうか?(笑)」
え!本当ですか? じゃあ、今度から自分が気になる香りのスパイスを気にかけてみたいと思います(笑)
久保田「漢方はいわゆる予防医学なんです。だから、病気にならない身体を作るということで、日々意識して摂ってもらえたらいいですね。『スパイス=生薬』なので、スパイスの入った料理はおススメですよ。」

今回のインタビューでは「スパイス=生薬」という話が意外でしたが、なるほど!と思わせてくれて、目からうろこでした。ついつい漢方というとハードルが高く感じますが、実は非常に身近な存在だったのですね。
「カレーは究極の薬食同源」ということでしたが、できれば市販のカレールウではなく、スパイスと肉や牛乳やココナッツミルク、野菜の水分だけのカレーを作ってみてほしいとのこと。もし市販のカレーに入れるなら、自分が気になる香りのスパイスのパウダーを探して入れてみるといいかもしれませんね。
漢方の氣生(きお)
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目12-7小守ビル1F
電話番号:03-3353-8856
営業時間:月~金曜日/10時~19時、土曜日(漢方茶アドバイザー・マイスタースクール開講)
http://kiokio.net/
(西門香央里)