平昌五輪でも発覚したドーピング違反 薬を使わない不正行為ははるか昔から存在

アメリカのミレニアル世代が「新しい情報をアップデートする」という意味で使う「Woke」をタイトルの一部に組み込んだ本コラムでは、ミレニアル世代に知ってもらいたいこと、議論してもらいたいことなどをテーマに選び、国内外の様々なニュースを紹介する。今週はスポーツの世界大会で繰り返し発覚するドーピング違反と、各国で過去に行われてきたスポーツにおけるドーピング以外の「インチキ行為」を紹介したいと思う。
はるか昔からルールをやぶってでも優勝したい、記録を更新したいといった思いは世界各国に存在したようだが、それは欲望に負けてしまう競技者が昔から途絶えることなく常に存在していた証でもある。


カーリング選手がドーピング検査で陽性
メルドニウムはテニスのスター選手も過去に使用


平昌五輪でも発覚したドーピング違反 薬を使わない不正行為ははるか昔から存在

2週間に渡って行われてきた平昌五輪。大会では様々な競技で新たなドラマや記録が生まれたが、今大会でも残念なことにドーピング検査で陽性となったアスリートが、日本人選手を含めて数名出ている。様々な競技で何らかの形でドーピングは存在するという指摘もあるが、大会序盤に行われたカーリング混合ダブルスで銅メダルを獲得したロシア人選手が、試合後のドーピング検査で陽性となり、メダルを剥奪されたニュースは世界中で驚きを持って伝えられた。この選手は2回目の検査でも陽性となったが、ロシアのオリンピック協会関係者は(今大会はロシア人選手は個人として出場)、メダルを剥奪された選手が故意に何度も禁止薬物を摂取した可能性は低いという見解を示している。

カーリングでのパフォーマンス向上に薬物が効果的なのか否かは不明だが、ロシア人選手が摂取したとされるメルドニウムという薬物は、テニスのスター選手として知られるマリア・シャラポワが2016年に長期の出場停止処分を科せられた原因としてクローズアップされたものだ。メルドニウムは旧ソ連諸国で製造・販売されている薬で、動脈拡張効果があるため、スタミナを持続させる目的で使用するアスリートも存在するとされる。
1980年代にはアフガニスタンに軍事侵攻していた当時のソ連軍部隊が、高地で戦う兵士にメルドニウムを支給していたというエピソードもあるが、カーリング選手が意図的に使用したのかは不明だ。

オリンピックなどの世界大会でドーピング違反が出るたびに、メディアは「ショッキングな事件」としてドーピング違反を伝えがちだが、このような行為ははるか昔から存在する。古代ローマで絶大な人気を誇った「戦車競走(馬車を使ったもの)」では、騎手がレース前に興奮作用のあるハーブの抽出液を口にしていたという記録も残っている。現代スポーツ史における事件に目を向けると、1904年にアメリカ中西部のセントルイスで行われた夏季オリンピックでは、男子マラソンで優勝したフレッド・ローツが区間の約17キロを車で移動していたことが発覚。まもなく金メダルをはく奪されている。

マラソンでは、1980年のボストンマラソンでも前代未聞のスキャンダルが。
女子の部で大会新記録を出して優勝したロジー・ルイスが、実際にはほとんどのコースを実際に走ることなく、ゴール地点からそれほど離れていない場所で観衆に紛れ込んで待機し、レース終盤に突如現れてそのままゴール地点まで走って優勝してしまったのだ。マラソンを観戦していた複数の市民の証言や、ルイス自身がゴール後に全く披露していなかったこと、マラソンコースの風景などについて答えることができなかったため、レースから約1週間後にマラソンを主催したボストン体育協会はルイスの優勝を剥奪している(ルイス自身は現在も、不正行為は存在しなかったと主張)。

フェンシングでは、旧ソ連の代表チームが当時としてはハイテクともいえる不正行為を行い、それが発覚したためにチーム全体が失格処分を受けける事態に。ウクライナ出身のボリス・オニスチェンコは、1968年のメキシコ大会と1972年のミュンヘン大会で個人・団体で金メダルと銀メダルを獲得したが、1976年のモントリオール大会で剣の柄に隠しボタンが取り付けられていたことが発覚。相手に突きが決まらなくても、ボタンによって自由自在にポイントを獲得できる仕組みになっていた。電気式の得点システムを利用した、当時としては「最先端」の不正行為であった。




空気圧までが不正行為に使用?
アメリカで大騒ぎとなったデフレイトゲイト騒動


アメリカンフットボールのNFLでは、数年前に「デフレートゲート」という、聞きなれない名前のスキャンダルがファンの間で話題となった。デフレートには日本語で「空気を抜く」という意味がある。ゲートは、疑惑やスキャンダルで頻繁に使われる接尾辞で、ウォーターゲート事件以降のスキャンダルでジャンルを問わず頻繁に使用されている。クリントン元大統領の不倫スキャンダルは、不倫相手の名前から「モニカゲート」と呼ばれ、2014年に有名人のプライベート写真が流出した際には「セレブゲート」という呼び名が付いた。

デフレートゲート・スキャンダルは2015年1月18日に行われた試合のあとで、疑惑として浮上し、NFLも調査を実施した。この試合はNFLの2つのカンファレンスの1つであるアメリカン・カンファレンスの優勝決定戦で、トップクラスのクォーターバックを抱えるニューイングランド・ペイトリオッツがホームにインディアナポリス・コルツを迎えて行われた。
試合前は接戦が予想されたものの、結果はペイトリオッツの大勝。ブレイディの活躍が際立った試合展開となった。

NFLでは2005年まで、ホームチームが試合のボールを用意するルールであったが、2006年にルールが改正され、オフェンスチームが使うボールは双方が用意することになった。NFLはボールの空気圧に関する規定を設けているが、ルール改正後はボールの空気圧を各チームが既定の範囲内でコントロールすることが可能となり、ペイトリオッツのスタッフはボールの空気圧を規定値よりもはるかに低くし、ブレイディのボールコントロールを有利にさせたという疑惑が対戦相手から指摘されたのだ。

NFL側は2015年5月、調査結果をもとに不正行為は存在したという見解を発表。ブレイディに対して、新シーズン開幕から4試合の出場停止処分を科したが、ブレイディは逆にNFLに対して訴訟を起こし、9月に裁判所は出場停止を無効とする判決を下している。
極めてクロに近いという見方が一般的だが、真相は不明のままだ。

はるか昔から、スポーツにおける不正行為には様々な理由が存在した。名声を得るためであったり、国家やスポンサー企業から多額の経済的な援助を受けるためといった理由もあった。また、冷戦時代には旧共産圏の国々で国家主導のドーピングが行われ、引退後に薬の副作用が原因とみられる死を遂げたアスリートもいた。これからも、何らかの形で不正行為は行われるだろう。薬物だけではなく、電子機器やボールの空気圧までもが不正行為に使用されたきた中で、次はどういったものが使われるのだろうか。