一般的に、新卒で入社したばかりの社員は、4月から初めて経験するサラリーマン生活でとまどいも多く、自分の進むべき方向が見出せず悩みを抱えてしまうケースも多い。
コーチングの資質として、「人の可能性を信じ、簡単にジャッジを下さない」と語る同社人事部の三橋新 Employee Successチーム コーチと、実際に両制度での経験で成長を実感したとするSansan事業部営業部の井崎仰 エンタープライズ第三グループマネージャーに話を聞いた。

社員のポテンシャルを最大限発揮させるための制度
――まず、ブランチとはどういう制度なのでしょうか?
三橋新(以下 三橋) 私は、人事部に配属されて2年になりますが、社歴は8年あります。
「ブランチ」については新卒採用を始めた6年前から開始しました。経緯として新卒は学生時代学ぶことが目的であったのが、社会人になってからアウトプットを行うという目的に変わり、社会から求められることが変化します。環境の変化で戸惑うことも多いでしょう。
そこで、「ブラザー」(女性の場合は「シスター」)と名付けた先輩社員と「ランチ」に行くことで、ざっくばらんに相談ができる場を作る制度を設け、ブランチと名付けました。新卒入社の社員を対象にしたメンター制度などに近い内容の制度です。ブランチでは、話を聞く先輩社員は他部署から選ばれます。
――では、「コーチャ」はどういう制度ですか?
三橋 「コーチャ」については、「コーチングでの関わりを通じ、個人の伸び代(可能性)から成長のための課題を発見し、能動的に行動するための後押しをすること」を目的とした制度であることから、この制度名になりました。私は社内コーチを担当しており、ここ最近、「コーチャ」も浸透しつつあると感じます。
弊社の社員は現在、およそ350人。
――井崎さんは「ブランチ」と「コーチャ」の両方を経験していかがでしたか。
井崎仰(以下、井崎) 「コーチャ」は2015年11月に受けました。当時は営業部内での立ち位置が変わり、営業として、売上げの数字をさらに上げていきたいという意欲が強くなった時期であり、それには営業スキルだけでなく1人の人間やビジネスパーソンとして一皮むけないといけないとも感じていました。
「ブランチ」は、3年前に経験しました。当時は悩みというよりも他部門の方とのお話を通して、どういう気持ちや気概を持って働いているのかを知りたいと思っていました。担当してもらったブラザーは1人が法務担当、もう1人は開発エンジニア担当でした。
――営業だと、法務やエンジニアと接点が少ないと思いますが、ブラザーの話を聞いて何か変わりましたか?
井崎 専門職なので2人の業務内容まで正確に理解することができない部分も多かったのですが、どういう思いで働いているのか、また、周りから新卒社員や営業に何を期待されているかを知る機会になりました。

――古い体質の会社ですと、指導は「飲み会」になりますが、単なる説教に終わってしまうことが多いです。
三橋 難しいですね。問題は2つあります。
――「コーチャ」はコーチングの一種ですね。どんな効果があるのでしょうか。
三橋 「コーチャ」実施後のアンケートからわかった一番の効果は、「自分を知ること」です。目の前の業務に集中しますと視野が狭くなり、「私はなんでこの会社にいるんだろう」「私は本来何をしたかったのだろう」と迷う場合があるのです。そこで、コーチとして私が関わり問いかけることにより、自身に対しての深い内省を得るとともに、自身が抱える課題を発見する効果があると考えます。
井崎 気づきは大いにありました。実は、自分の中にすでに答えがあり、三橋が直接答えを言うのではなく、コーチングを通して自身に問いかけることで、答えに気づかせてもらうケースが多かったです。
価値観を押しつけず、問いかけ、フィードバックする
――ブラザーとして「ブランチ」を、コーチとして「コーチャ」を行うとき、どんな姿勢で臨まれていますか?
三橋 「ブランチ」では先輩社員の視点で「これが正しい」と思って話をする場合でも、自身がそこに到達していなくて、逆に気づきを得る場合もありました。
基本的には、私はアドバイスをしません。求められたら伝えることがあります。ただし、新卒や若年層は知らないことが多すぎるので、選択肢を増やす事を目的に「私はこう考えますよ」「私の時はこうでしたよ」と話します。相手の年齢層が高くなると、問うことが逆に多くなります。
井崎 私は自身がブラザーの側になり、新卒1年目のメンバーと「ブランチ」をやっていた時に、相手に気づきを与えることの難しさを一番感じました。経験で言えば、新卒4年目の私の方が多少ありますので、どうしても答えを示しがちです。結論だけ言ってしまうと相手が考える機会を失ってしまうので、自身で答えを導き出せるようにヒントを与えるような接し方を意識していました。
――新卒メンバーはともすれば、すぐ答えを求めがちな面もあるのではないでしょうか。
三橋 正解を求める新卒社員に対しては、「私たちはなにが正解か分からないことをやっているんだよ」と話します。私たちも考えて検証して、やってみて、はじめて正解か不正解かが分かるのだと伝えます。
――営業だと、直接的に売上げを伸ばす手法を質問されそうですね。
井崎 聞かれます。最低限の答えは伝えますが、それを満たした後は自分で方法を考えていくしかありません。さらなる高みを目指すうえでは、自分で方法を探しつつ、行き詰った時に前に進むヒントを「コーチャ」や「ブランチ」を通じて見つけてほしいですね。
――「コーチャ」や「ブランチ」には会社から補助が出ると聞きました。
三橋 「コーチャ」は実は外でやるケースが多いのです。始業前に行う場合もありますので、近隣のカフェなどを利用することが多いのですが、影響はすごく大きいです。気分が変わり、本音を話しやすいのです。その際の費用も会社が負担します。「ブランチ」も同様です。「ブランチ」の補助金は2人で2,000円までですね。
――飲み会にも補助金は出ますか?
三橋 「Know Me」(ノーミー)という制度があります。
井崎 Know Meは結構使っていますよ。普段、営業同士で話すことが多く、話題も顧客にどう提案するかなどアイディアをお互いに話すことがほとんどですが、開発や他部門と話すと、営業に対する期待や他部門での苦労などを聞くことができるので、その人達の努力や期待に応えようというモチベーションも生まれます。
三橋 同じメンバーで固まらないような仕組みにしています。組織の中で、それぞれの立場が果たすべき役割をあらためて共有できるところにも効果がありますね。
――人事として御社にどういう人材が欲しいですか。
三橋 一言で言えば、自走できる人材です。弊社として重要なバリューズである「考え、動き、形にする」というのがあり、企画、実行部隊がそれぞれ単独で存在するのではなく、自分で考えて、自分で形にすることを求めているのです。「コーチャ」や「ブランチ」は、自走するためのお手伝いかなと思っています。
――最近での取組みでここは紹介しておきたいことがありますか。
三橋 「コーチャチーム」という制度もここ最近、頻繁に利用されています。対象が個人ではなくチームになりますが、同様にパフォーマンスを最大化させるためにコーチングを実施する制度となり、内容は共通しています。会社のミッションを具現化するため、チームはなにをすべきかを話し合う研修の場であり、目線を合わせることでの効果があります。
――ありがとうございました。
(長井雄一朗)