「インフルエンサー採用枠」がネットで賛否 オンデーズ社長に真意を聞く
オンデーズ社長の田中修治氏

メガネ製造販売のオンデーズは、新たに「インフルエンサー採用枠」を設け、SNSによる発信力の高い個人を自社スタッフとして直接雇用することに決定したが、ネット上では賛否両論を呼んだ。主要SNSの個人アカウントのフォロワー数が1,500名以上であることを採用の基準に設定、フォロワーの状況や発信内容の審査を通過した応募者は、社長面接へと進み、一般枠とは別に優遇された条件で採用する。

「インフルエンサー採用枠」を決定した真意や背景はどこにあるのか、また、ネット上での意見についてどう考えているのか、同社社長の田中修治氏に話を聞いた。


社員のSNS活用を推進 フォロワー1,500人以上で手当月5万円


――「インフルエンサー採用枠」を実施する前に社内でのSNS活用を推奨されていました。
田中修治(以下、田中)  オンデーズでは個人アカウントのフォロワー数が1,500人以上であれば、基本給とは別に月5万円の手当を支給する取組みを2017年10月から開始しました。InstagramやTwitterなどのSNSが対象で、フォロワー数が多い「インフルエンサー社員」を優遇する制度です。
理由は、これからオンデーズでは特に「スタッフ個人の力や魅力で販売していくような会社」にしていきたいからです。昔はスタッフ個人が消費者に対して直接アピールすることのできる場が少なかったのですが、昨今、SNSの台頭により、スタッフ個人の魅力を発揮できるような環境が整ってきたこと事を受けて、推奨するようになりました。
多くのチェーン店は、スタッフ個人のSNS投稿を禁止しているところもありますが、オンデーズでは個人の発信力に強く期待をしています。
ただし、強制はしていません。あくまでも「やりたい人がやる。会社はそれを否定しないし応援する」という姿勢です。


――みなさんどのSNSを活用されているのでしょうか。
田中 Facebook、Instagram、Twitterの3つが多数を占めていますね。もちろん、個人情報等もあるので、投稿・発信に際しては一定のルールはキチンと設けています。
そのルールにのっとっていれば、基本的にはどのように発信するのも自由です。
商品やサービス、人事制度に関することや職場での様子、今日のお昼ご飯まで、スタッフ皆んな自由に発言、アップしています。会社としては、働くスタッフ達の生の声に触れていただく機会を増やして、より広く消費者の方にオンデーズに関する認知や理解を深めていただける事を期待しています。
「インフルエンサー採用枠」がネットで賛否 オンデーズ社長に真意を聞く
オンデーズ社員によるSNS投稿例

――ネットとリアルの融合での小売販売手法は思いもよりませんでした。
田中 おじさん世代はネットとリアルを分けて考えていますよね。反面、SNSネイティブな世代は、SNSやネット上の空間とリアルな世界の自分に境目がなく、それは友達や人間関係でも消費行動でも同様に垣根がありません。

小売業も次世代の在り方を考えた時、単なるマーケティングに留まらず、あらゆる場面でネットとリアルの垣根を越えた存在の仕方を考える必要があります。そのためには、ネットとリアルの間に壁を作らず、一つに繋がった世界の中で自由に生きている人たちをより多く採用したいなと思いました。ただ、そのままだとなんだかうまく伝わらないので、もっとシンプルにエッジが立って分かりやすい表現はないかな?と考えた末に出てきたのが「インフルエンサー採用枠」というものでした。

ちなみにインフルエンサー採用枠には、中高生からも応募があったそうだ。

オンデーズとしては、発信力の高い個人を直接雇用することによって、自社に関する多様な情報が「生の声」としてリアルに消費者へと届けられ、ブランドへの理解と認知がより深まることを期待しているという。
今やSNSは社会基盤の有力なツール。
消費者の購買動機や、就職・転職活動など、企業活動に伴うあらゆる場面において、SNSに寄せられた情報が多大な影響を及ぼしていると田中氏は言う。


ネット上の批判は「意味がわからない」


ネット上では、「単なるサクラを増やすだけでは」「フォロワーの数が人間の価値なんて決めない。本気でこんなこと考える経営者がいるとしたら、そんな会社やめた方がいい。」などの批判もあった。

――ネット上の批判についてはどう思われますか。
田中 批判されている意味がよく分からないのですけど、「生の声」と宣伝が混合するといっても、別に全部宣伝でいいと思います。オンデーズは営利目的の企業で、宣伝しなければ意味がありません。
企業が商品を販売している以上、それにまつわる行為は、すべて広義で見れば宣伝業務に当たってしまうだろうし。ただ、社員にSNSを使った個人名での宣伝を強要していません。強制されてやっても楽しくないし、大事なのは「楽しみながら個人を発信してお客様と良い関係性を築いていくことなので」その辺はブログに書いてある通りです。

田中氏は、ネット上での批判を受け、ブログで真意を説明した。
いずれ、自分の発信力によって、年収1千万の靴屋の店員さんとか、スーツ屋の店員さんとかが出現してもおかしくないと思う。
そして、ここが大事なポイントなのだが、必ずしもそういう発信力の高い魅力的な人が、全員「独立して起業したり、個人事業主になりたい」とは思わないということだ。

その中の一つの試みとして、ソーシャルメディアの使い方の上手い人や、熱心な人を集めてみて、「店頭で働く個人が、自ら自由に発信してOWNDAYSの企業価値を上げていけるか? 売上を上げていけるか? そしてその発信力が、店長や管理職などの縦方向だけの出世を目指すだけでなく、もう一つ、横軸でのキャリアアップの可能性を広げていくことができるのか検証してみよう。


――このブログにも反論がありましたがどう思われますか?
田中 世の中には批判することで、さしてエネルギーを使わず、まるで自分が同じ土俵に立ち、あるいはその対象者を超えたと思って悦に入る人が多いので、特にいちいち気にしないですよ。そんなこと全部気にしていたらキリがないですし。投稿すれば、「オンデーズ応援しています」「ファンです」という言葉をたくさんいただける反面、的外れに批判される言葉もごく稀にいただけます。
多くのチェーン店や大企業はこの「ごく稀な批判」への対応が面倒だから、スタッフ個人の発信を全て止めてしまうのでしょう。それに伴いSNSが産み出す多くのプラスの側面もカットしてしまうというのは、各経営者の判断なので僕が口出すことではないですが、僕は好意的な反応が多くいただけるのであれば、リスクはとってでも続けるべきと判断しています。
スタッフ個人のSNSへの自由な投稿は、プラスマイナスで見た場合、マイナスの投稿が多ければ問題がありますが、オンデーズは、モチベーションの高い子が多く、プラスの投稿ばかりで、かつ経営者としても、特に会社内の事で何かバラされて困るような後ろめたさもないので、何も気にせず自由にどんどんやりなさいと推奨しています。
「インフルエンサー採用枠」がネットで賛否 オンデーズ社長に真意を聞く
オンデーズ社員によるSNS投稿例

――社員の投稿に対してどんなことを期待していますか?
田中 基本的なルールにさえのっとっていれば、後は好きに書いてもらっていいと思っています。人によって個人的な意見があり、言論統制しても仕方がないですし。オンデーズは小さなベンチャー企業なので、自由に小回りが効く良さを活かして、スタッフ1人1人の魅力に惹きつけられて、お客様がたくさん来店されるような状況を作りたいなと思っています。
オンデーズを辞めた時に、オンデーズで作ったお客様との関係を個人の資産としてそのまま次の仕事にも持っていけるような、関係性を深めるステキな発信をたくさんしてほしいなと思っています。

――ありがとうございました。
(長井雄一朗)