「ファッションに興味はない」と言っている人だって、日々何かしら服を着て暮らしていることだろう。毎日“使って”いるものに全然こだわりがないというのも少々奇妙な話と言えるのかもしれない……。
ファッション業界では、あまりにもユーザーが置いてけぼりになってしまっている。日常生活で求められる機能を追求して服作りをしているオールユアーズの代表取締役・木村昌史氏が考える、ファッション業界が抱える問題とは?

ユーザビリティが疎かになっているファッション業界


「ファッション嫌い」に勧めたいブランド? オールユアーズは“問題解決型の服”を追求する

――木村さんは、「服というものは、身体から一番近いはずなのに、一番遠くにいってしまった」と主張されていますね。消費者が置いてけぼりになっているということでしょうか?

「簡単に言うと、昔は“メディア都合”だったんですよ。昔は、ファッション雑誌で情報を受け取るしかなかったから、みんな同じものがほしい時代でした。でもインターネットがメディアをぶっ壊したから、雑誌が情報統制できなくなって、スタイルがどんどん多様化していったんです。その裏で、何を基準に服を選んでいいのかわからない人が増えていきました」

――単純に「ファッションに興味がない」というだけでなく、ファッション業界に不信感を持っている人もいる印象です。メディアに踊らされたくない、というか……。

「ファッションって結局、希少性だったんです。『欲しくても着られない人が多い服は、かっこいい』みたいな。手に入らないものが欲しくなる人間の心理を利用して商売していたけど、インターネットでいろんな情報を受け取るようになったら、みんな手に入らないものはそんなに欲しくなくなっちゃった。だって、別にお金を使えばいいものを知っているから。時代が全然違っているのに、アパレルは昔と同じことをしているから、情報を真正面から受け止めてくれる人がすごく少なっているのを感じます」

――昔に比べて、デザインがオシャレで安価な服も増えました。

「昔は、流行のデザインがハイブランドから安価なブランドまで伝わるのに、3年くらいかかったんですよ。
今はそのタイムラグがほとんどゼロになって、むやみに最先端を追いかける必要がなくなりました。むしろ『一時の流行なら、安いものでいいや』と考える人が多くなってしまいました。昔は流行を回して煽るように商売していたのに、皮肉なものですよね。ファッション業界は、売り手が独りよがりになっていて、ユーザビリティが疎かになっているように感じます」

――木村さんは昔、大手アパレルチェーンで働いていたそうですね。

「いっぱい作って、いっぱい売るみたいな商売をしていたんですけど、正直ゴミばっかり作っているような気持ちになってきたんですよ。『これが流行のスタイルです』って言っても、『なんでそれが流行なの?』と聞かれたところで、情報のソース元がないわけですし。そういう不確かなものを作るのがつらくなり、もっと確かなものを作りたくなって立ち上げたのが、オールユアーズです」

私服で働く社会人に向けた、新たなワークウェア


――オールユアーズの製品は、他のアパレルとは一味違っていますよね。「コットン100%に見えるのに、洗濯して3時間で100%乾くジャケット」とか、「色んな匂いが気にならなくなるコットン100%のポケT」とか、「水を弾くコットンパーカー」とか、「温かそうに見えないのに、実は布団の綿を使っているので温かいパンツ」とか、他にもいろいろ。シンプルなデザインで高機能な服をいろいろ発表されています。

「問題解決型の服を作ろうと思ったんです。雨が降っても大丈夫、汗をかいても大丈夫とか。今まではTPOで服を選ぶっていうと『冠婚葬祭だから、こんな服を。デートだからこんな服を』みたいな感じでしたが、もっと人間が生理的に困る問題ってあるでしょう? 生活シーンに寄り添う服を作れば、人間の生き方や働き方も変わっていくんじゃないでしょうか」

――ファッションの枠を超えたところを見据えているんですね。


「僕らは、インターネット時代のワークウェアを作っていきます。昔はみんな働くときはスーツだったから、カジュアルウェアは週2で着るものでした。でも今は私服で働くスタイルも一般的になって、カジュアルウェアは週7で着るものになってきています。ライターさんもスーツ、着ないでしょ?」

――まったく着ませんね(笑)。

「それほど頻繁に着る服となったら、洗濯が大変だったり、着心地が悪いものは嫌じゃないですか。オールユアーズでは、週7でカジュアルウェアを着る人に向けた服の提案をしているつもりです」

――一番人気の服はどれですか?

「汗などの水分を素早く吸い込んで乾燥する『FAST PASS』の機能がついた、ジャケットとパンツのセットアップは、毎週10件くらい問い合わせがあります。『CAMPFIRE(キャンプファイヤー)』でクラウドファンディングを立ち上げたときは、1800万円を超える支援がありました。普段はTシャツで仕事しているけど、打ち合わせのときくらいはジャケットを着たいって人にオススメのデザインなんですよ。本職のジャケット屋さんからすると、結構怒りそうな作り方しているんですけど(笑)。でも、“Tシャツに合うジャケット”の需要って絶対高いと思ったんです」

服を通して、人々のチャレンジを促進させる


――「CAMPFIRE」では、24カ月連続、隔月でクラウドファンディングを立ち上げるプロジェクトを実施されていますよね。今募集しているひとつが「服に使い捨てではなく、アップデートしていく選択肢を。新しいあたりまえを作りたい!」で、これもすでに目標金額の100万円を突破しています。

「これは、みなさんの持っているお気に入りの服を僕らに送ってもらったら、希望の加工を施して“アップデート”して、お返しするという企画です。
選べる加工は、水や汚れを弾いて、汗染みも出にくくする“ONE SWING(ワンスウィング)”、汗の匂いを気にならなくする“CATCHER(キャッチャー)”、色褪せた服や帽子など、布製品を真っ黒に染めなおすものの、3種類です」

――こういう機能を持った服を着ていたら、自然と活動的になれそうですよね。これまでだったら「汗かいちゃうから止めよう」となっていた場面で、1歩踏み出せるようになるというか。

「服のせいで活動が制限されるようなことをなくしたいんです。僕は、人がチャレンジする世界を作りたい。だから、オールユアーズの服を着た人が何かチャレンジしてくれたら嬉しいですし、僕ら自身も24カ月連続、隔月クラウドファンディングという企画を通して、チャレンジする姿勢を見せていきます」

――今後何かやっていきたいことのアイデアはありますか?

「〇〇専用でモノを作ることへの違和感があるんですよね。たとえば、ゴルフウェアとか。ゴルフ用のパンツが普通のパンツと何が違うかって、ピンを差す場所があったり、ポケットが1個多い程度の話なんですよ。純粋な動きやすさだけで考えたら、はっきり言って、ゴルフ用のパンツよりも、オールユアーズのパンツの方が上だったりするんです。変な話でしょう?」

――まったく知りませんでした! それだけの違いなのか……。

「そうそう。細分化されているマーケットの中で、『それってこっちの問題解決にも役立つよね?』と感じるものがあって。たとえば1週間に1、2回しかお風呂に入れない高齢者のための匂わない服とかがメディカル用として流通しているんですが、その機能って、誰でも気になるじゃないですか。
セグメントされすぎているマーケット同士を、上手くつなげていきたいと思っています」

流行をチェックするのに空しさを感じる消費者へ


正直、筆者自身も「服なんて着られたらいいだろう」という気持ちはゼロではない。オシャレ自体は嫌いではないけれど、ファッション雑誌を読んで流行をチェックすることに一抹の空しさを感じたりもする。そういった消費者の気持ちに向き合ったオールユアーズは、ある意味、“ファッション嫌い”にこそ勧めたいアパレル会社かもしれない。

(原田イチボ@HEW)
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