「あなたには会社を辞める権利があります」
『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』(→公式)がおもしろい!
日本テレビ系の土曜ドラマ22:00から。
今日、第二話放送だ。


中心人物は、人事コンサルタント、椿眞子。
演じるのは、菜々緒。
徹底した冷徹さで、「Missデビル」の異名を持つ女性だ。
高すぎるヒール。長過ぎる美脚。凄すぎるスタイル。
超人的な美しさで、この特異なキャラクターを支える。

Missデビルは、開口一番、こう言う。
「みなさんには、これから会社に働くうえでとても有意義なことをやっていただきます。それは、退職願を書くことです」
ざわつく新入社員。
「現在、何者でもないあなたがたですが、唯一にして最大の権利を持っています」
それが、「自らの意志で会社を辞めること」だという。
その権利を確保することで、会社と対等になれるというのだ。


たしかに、そのとおりだ。
「こんなイカれた会社、はやく逃げたほうがいいわよ」
というセリフがあったが、その逃げ先がちゃんと獲得されるならば、である。
双方が了解しあって、雇用関係が結ばれるのが理想だ。
だが、現実はそうではない。
雇う側が力を持ち、雇われる側が言いなりになる状況が多い。
だから、簡単に人はクビにされないよう、ひどいことを強いられないように、制度として守られている。
菜々緒「Missデビル」ブラック研修VS「陸王」的家族経営の対立の緊迫感
『厚生労働 平成30年4月号』菜々緒インタビュー記事も

斉藤博史(Sexy Zoneの佐藤勝利)は、逃げ先を持たない新入社員だ。
無名の地方大学から、大手の共亜火災保険に奇跡の入社である。
しかも、父親は倒れ、車椅子に乗っている。
「がんばるよ。何があっても、この会社でやっていくよ。だから安心していて」と、車椅子の父に電話で話す。

この父も、何やらMissデビルとつながっていることが暗示されて、今後何が起こるのか不穏な空気が流れる。一筋縄ではいかないドラマだ。

Missデビルは、「50人の新入社員を10人にしぼる」と言い出す。
その振り落としに、土嚢を運ばせたり、匍匐前進させたり、他の人の欠点を書かせたり、穴を掘ったり、掘った穴を埋めたりのスパルタ特訓を開始。
完全に違法だろう。

非現実的だと言いたいが、そういうことを行ってる「ブラックな企業はある」という話も聞く。

次々と辞めていく新入社員。
だが、斉藤博史は辞めず、Missデビルと対立する道を選ぶ。

Missデビルと対立する二人目は、人事部長の伊東千紘(木村佳乃)。
人事部長は、Missデビルに問う。
「非人間的な研修を強要している。何のためにそんなことを?」
Missデビルは、正確な数字を次々とあげながら、こう答える。

適正と考えられる人件費から計算して、二十億円規模の削減が必要。
しかも、この五年、粉飾決算していることを指摘する。
業績を正確に反映させれば、適正な新入社員は10人だ、と。
人事部長が反論する。
「それは、あなたが数字しか見てないからよ。ただ機械的に切り捨てればいいというわけじゃない。社員こそが会社の原動力よ」
この図式が興味深い。
人事部長の主張は、過去のドラマであれば、「正義」側のものだ。
たとえば、ドラマ『陸王』は、ノスタルジックな演出を使って、家族的経営を中心に「社員こそが会社の原動力」を感動的に描いた。

おそらくこのドラマでは、Missデビルという劇薬を使って、このノスタルジックな人の絆だけであらゆることを乗り越える構図に無理がきていることを描いていくのではないか。

さらに今後の対立を予感させる人物が、大沢社長(船越英一郎)。
Missデビルに完全に一任することで、自分に責任が及ばない構図を維持しながら、「劇薬」としてMissデビルを取り込んでいる。

何か大きな問題が起こったときに、大沢社長は、トカゲの尻尾切りとしてMissデビルを排除しようとするだろう。
そのタイミングで、大きな対立が生じるはずだ。

いくつもの対立を予感させ、緊迫感を張り巡らせたドラマだ。
そのなかで、希望となるキーは、会長の喜田村(西田敏行)だろう。
会社経営から外れて、素敵な別宅でガーデニングしながらのんびりしている。
「話を聞くことだけは、わたしできますから」と語る。
家庭的な会社のあり方と、機械的合理性を目指す会社のあり方。
どちらも極端な姿で自閉していては立ち行かなくなる。
戯画的にその対立を描いているときに救いとなるのは、組織の外にいながら、組織と大きく関われるゆるやかな立場にいる人物だ。

巧みな人物配置の構図を使って、悪魔的なキャラクターを生み出した。しかも、それを演じるのが人間ばなれしたスタイルの菜々緒さん。
美悪魔なキャラクターが大活躍する大エンタテインメントなドラマになりそうな予感である。

また、初々しい新人社員を演じるSexy Zoneの佐藤勝利くんが上手い。視聴者がドラマに感情移入する扉の役割をしっかりとはたしている。
続きが楽しみだ。(テキスト/米光一成

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『厚生労働 平成30年4月号』表紙が菜々緒さん。インタビュー記事も!
Huluにて配信中
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