第5週「東京、行きたい!」第30回5月5日(土)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平
連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」30話はこんな話
いよいよ受験の日がやってきた律(佐藤健)。ところが、受験用のファイルと鈴愛(永野芽郁)のファイルとを間違えたうえ、仙吉(中村雅俊)が突然倒れるなどアクシデントに巻き込まれてしまう。
入れ替わってる〜
1990年、1月。
お正月、鈴愛は振り袖を着て、ふくろう商店街を駆け、律の家に新年の挨拶。
89年の夏はプリプリを歌いながらふくろう商店街を駆けていた。四季折々。
鈴愛は、律のために、大吉のおみくじやら北野天満宮のお守りやらを贈る。
ふたりは同じ〈ぎふサンバランドのクリアファイル〉を使っていて、それが運のつき。
取り違えてしまったのだ。
ファイルの取り違え事件、これはまさか、同じく岐阜を舞台にした大ヒットアニメーション映画「君の名は。」の「入れ替わってる〜!」をやりたかったのか。
律と鈴愛の場合は、中身が入れ替わったわけじゃないんだが。

入れ替わってる〜 でおなじみのヒット作の小説版。この映画の舞台になったことから岐阜がにわかに注目を浴びた。
ちなみに、北川悦吏子先生はかつて角川書店の看板作家のひとりだったが、最近は文春を窓口にされていて、「半分、青い。」のノベライズも文春文庫から発売されている
センター試験当日、ファイルが鈴愛のものだったことを知る律。
「やってまった・・・」
このときの佐藤健の芝居は、お腹の底からショックの感情が伝わってくる。呼吸が感情を伝えてくれるのだ。
体で演技している。
ファイルには「91年オープン予定」と書いてあり、それはもうかなわないと思うと虚しい。そもそも、こんな不吉なものを使っていることが良くなかったのではないか。大吉や菅原道真(お守り)をもってしても、この不吉な建築計画には勝てなかったのだ、きっと。
おじいちゃんが倒れる
ファイルの取り違いに気づいたのは、朝6時過ぎだったから、まだ余裕で間に合うと、律が鈴愛の家に取りに行くと、仙吉が、お正月に12時間ぶっ続けでやる時代劇「宮本武蔵」(北大路欣也主演)の話などしたあと、倒れてしまう。
店の中に入ってしまった律から見て、わかるように、窓ガラスに手を当てて倒れる演出が、ゾンビやパンデミック映画みたいだった。
晴(松雪泰子)と律に付き添われて、病院に担ぎ込まれる仙吉。
こんなときに宇太郎(滝藤賢一)と草太のいない理由は晴が説明台詞。
律が食堂に戻ってくると、“なぜか”店に置いてあったクリアファイルが“なぜか”ない。
鈴愛がそれをもって出かけてしまったのだ。
おじいちゃんが倒れたのに、なぜ彼女には知らないのか。
そしてまた、蕎麦屋の出前の間違い電話を受け取ってしまったりする(鈴愛のデートのときも蕎麦屋の間違い電話受けていた)。
鈴愛はバスの中でクリアファイルの取り違いに気づいて(きっかけは「イカ天ライブ」)、バスを止めてもらうが・・・。
クリアファイルは4辺中2辺が空いているので、立体的なものを入れるとすぐに外に滑り出てしまう。鈴愛のようながさつな人間はそれこそファイルを雑にもってお守りが飛び出ることもありそう。でも、中身を間違えたものを持ってきてしまうという経験は誰しもあるもの、ここはそういう残念エピソードであると思えば済む。
それよりも重要なのは、律は大事なときになぜ手をこまねいてしまうのかということである。
「ガラスのハート」とナレーション(風吹ジュン)もされているように、打って出られない性格なのではないか。何かを理由にして、勝負に出ることから逃げているのでは。
そういう意味では、どんな不利な状況もねじ伏せて、がんがん勝負に出ていく鈴愛とは正反対。月と太陽。
そこは運命と諦めて、今後も役割を粛々と全うしていっていただきたい。
5月7日からの第6週「叫びたい!」から鈴愛は東京で力試しをはじめる。律はどうなるのか。
(木俣冬)