
アフガンへの第一陣はグリーンベレーの最精鋭、その数たったの12人!
2001年9月11日、同時多発テロの直後から、アメリカはこの前代未聞の事件の犯人探しを始める。判明したのは、当時タリバン政権が支配していたアフガニスタンに潜伏するテロ組織アルカイダ。アメリカはアルカイダの引き渡しを要求したが突っぱねられ、同年10月からアフガニスタンへの侵攻を開始する。
『ホース・ソルジャー』が扱うのは、このアフガニスタンでの一連の戦争の最序盤。まだ大規模な一般部隊が展開する前の戦いを描いた映画である。アフガニスタンでの戦争は、公式に発表されている中では「一般部隊より先に特殊部隊が展開した唯一の戦争」であり、始まり方からしていささか変わっていた。
主人公はミッチ・ネルソン大尉。アメリカ陸軍特殊部隊に所属していたが、家族と共に過ごすため前線に出ない内勤を希望していた。しかし、同時多発テロ以降は本人の強い希望で前線復帰。12人の仲間と共にアフガニスタンへの第一陣部隊に選抜される。現地に着いたネルソンは上官と面談。ネルソンはこの地での戦闘が米軍が経験した他のどの戦争とも異なることを見抜き、その知見からアフガニスタン北部での実戦任務に参加することになる。
ネルソンら12人のチームが命令されたのは、重要都市であるマザーリシャリーフの攻略だった。
劇中はっきりと説明されるわけではないが、ネルソンらが所属するのはアメリカ陸軍の第5特殊部隊グループ。いわゆるグリーンベレーの中でも、中東への展開を割り当てられた部隊である。彼らはアフガニスタンに派遣された空軍や陸軍などの混成チームである「タスクフォース・ダガー」に編入され、作戦に当たる。普段は同じ会社の別部署で仕事をしている社員たちだけど、大型プロジェクトが発足したから部署を超えて仕事ができる奴が集められ、まとめてアフガンに送られた……という感じである。
グリーンべレーが一発目に送り込まれたのにも理由がある。グリーンベレーの兵士は確かに個々の戦闘能力が高いのだが、彼らの仕事は戦闘それ自体に止まらない。グリーンベレー最大の任務は少数のチームで敵地に乗り込み、現地の人々や武装勢力を味方に引き入れて訓練することなのだ。だからグリーンベレーの衛生兵は現地住民の治療もするし、中には獣医資格を持っていて家畜の世話ができる隊員もいる。語学も必要不可欠だし、現地のボスと渡り合う胆力も必要。
しかしアフガンの気象と地形は厳しい。まもなく冬が到来するので、作戦に使える期間は3週間のみ。おまけにヘリで現地まで行くのも一苦労で、7000mの高度を飛ばなくてはいけない。吹きっさらしのヘリのキャビンで、低酸素症でゲーゲー言いながら飛ぶネルソン大尉と仲間たち。グリーンベレーだって吐くときは吐く。そしてヘロヘロになりながら現地に着いた彼らを待っていたのが、馬だったのである。
異文化VS特殊部隊、おまけにタリバンもついてくる!
この映画を製作したのはジェリー・ブラッカイマー。軍事オタクなら最低150回ほどは見ているであろう大名作『ブラックホーク・ダウン』を製作した人である。思えば『ブラックホーク・ダウン』も、最新装備に身を固めたアメリカ兵たちが、全然事情がわからない土地でひどい目に遭う映画だった。
『ホース・ソルジャー』でも、やっぱりアメリカ兵が現地の事情でひどい目に遭う。
アフガニスタンの戦闘は一事が万事この調子である。敵と無線で会話し、罵り合いながら戦う現地の武装勢力。「呉越同舟」みたいな概念がなく、同じタリバンと戦っているのに対抗意識むき出しの軍閥たち。「ここから爆撃機を誘導しろ」と言われた地点は目標を狙うのに遠すぎるし、アメリカ兵の警護についているのは子供(しかもアメリカ兵が死ぬと一族全員皆殺しにされる)だし、何もかもが米軍の流儀と異なるのだ。
当然ネルソンたち一行は戸惑う。そもそも、ドスタム将軍が米軍に協力しているのは「爆弾を落として自分の敵であるタリバンをやっつけてくれるから」である。同時多発テロなど彼からすれば知ったことではないし、状況が変われば見捨てられる可能性もある。『ホース・ソルジャー』の根底にある「アメリカの最新鋭部隊VSアメリカ人の常識が通じないロケーション」というテーマは、驚くほど『ブラックホーク・ダウン』と通底しているのだ。まるで「戦う『世界ウルルン滞在記』」といった趣である。
アメリカ万歳映画っぽい雰囲気ではあるが、実際のところ『ホース・ソルジャー』は「異文化のど真ん中で体を張るとはどういうことか」に寄り添った映画だ。おれはグリーンベレーでもなければアメリカ人でもないので、「自分からすればアメリカ人も一部族にすぎない」と言い切るドスタム将軍に「よく言った!」と声をかけたくなった。
(しげる)
【作品データ】
「ホース・ソルジャー」公式サイト
監督 ニコライ・フルシー
出演 クリス・ヘムズワース マイケル・シャノン マイケル・ペーニャ ナヴィド・ネガーバン ほか
5月4日より全国ロードショー
STORY
2001年、同時多発テロへの報復としてアフガニスタンに送り込まれた12人の特殊部隊員。要地マザーリシャリーフ攻略を命じられた彼らは現地の武装勢力と合流しタリバン占領地へと向かうが、アフガニスタンの山地を移動するため乗馬を余儀なくされる