5月11日(金)放送の金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系列)5話。
ついに、茄子田の妻・綾子(木村多江)と秀明(玉木宏)の不倫が、茄子田の知るところとなってしまった。

妻の話を聞かない夫、健在
秀明と森永桃(高橋メアリージュン)は、家を建てる契約のために茄子田家を訪れた。その帰り、茄子田の母・千恵(梅沢昌代)に声をかけられる。
千恵「私を重病人扱いして、乗っ取ったんだよ。庭も台所も。あの女は相当なもんだよ」
「あの女」とは、もちろん綾子のこと。それを聞いた森永も「わかるなあ。一番、手ぇ出しちゃいけないタイプですよねー」と共感するが、秀明は戸惑う。
綾子が真弓の会社に乗り込んできた報告を聞いたときも、秀明はぼんやりとしていた。「あの女、相当ヤバいよ!」という真弓の話を聞きながら「話、盛ってないか?」と疑う。
儚げな綾子の姿だけを見てきたから、仕方ないのかもしれない。けれど、秀明が他でもない妻の話を信じないのであれば、真弓が浮気した夫を信じられる日が来るのは遠いということをわかっていない。
真弓「なんで男ってああいう女にコロッと騙されるのかなあ。なんで見抜けないかなあ。ああいう女が、一番たちが悪いんだよ」
「男って~」と一般化する言い方は賛否分かれるところ。でも、この真弓の台詞にはついつい「それな!」と共感してしまう。女性100人への調査が活きた「あるある」ポイントだ。
真弓、千恵、森永の3人から指摘されても、綾子がヤバい女だということを信じられなかった秀明。女性の意見を大げさだと軽視し、自分が危険な目に遭う(=自分の目で見る)までまともに聞かない男性の姿はSNSなどでもよく見かける。
改心すると言っても根本的なことを何もわかっていない秀明を見ていると、未来に希望が持てない。旅行から帰宅したときの真弓の虚無に包まれた瞳が、その絶望を物語っている。
原作と違うこどもの年齢とその意義
1話のレビューでも紹介したが、佐藤家と茄子田家のこどもたちの年齢が原作から変更されている。その意義がわかってきた。
佐藤家の娘・麗奈(桜田ひより)は原作では1歳の赤ちゃんだが、ドラマでは中学1年生だ。茄子田家のこどもは、原作では小学校4年生と2年生の男の子2人。
慎吾は、3話で麗奈に「もう関わらないほうが良いよ。うち、普通の家じゃないから」と忠告していた。5話では、綾子にも「もう、そういうのやめたら」と苦言を呈している。千恵と同様に、綾子による茄子田家の異常性に気付いているのだ。
そんな慎吾を慕う麗奈もまた、真弓と秀明の仲が不自然なことに気付きはじめる。それでも、純粋で素直な性格のため親のごまかしを信じてくれた。
原作と年齢が違う意義の1つは、こうしてこどもたちが自分の意見、意思を持って家庭に参加できているということだ。
不倫・浮気で一度崩壊した夫婦がこどもとどう向き合うか。こどもが赤ちゃんのうちに再構築してしまえば、あとは隠し通せばいい。しかし、すでに家庭の一員として自分の意思を持っている麗奈に対しては、伝えるか嘘を吐き通すか悩む。家族の形をどう作り直すのか、両親は選択を迫られるときが来る。
そして、もう1つの意義。
茄子田や綾子が麗奈に接触しようとしている言動があった。相手が赤ちゃんであれば、わざわざ父の不倫を匂わせることはしないだろう。麗奈は中学生で、両親が大好きであり傷付く心を持っている。だからこそ、茄子田や綾子の発想の怖さを感じる。
不倫・浮気を夫婦の問題に留めておくことは難しく、どう抗おうともこどもに影響してしまう事実を、だいぶ過激に見せつけている。
こどもが傷付く描写は、フィクションでも見ていてつらい。大人たちの勝手で麗奈が傷付かないように、慎吾がこれ以上傷付かないようにと祈りたい。
歩くメッセージ性・綾子と、男らしくなる真弓
茄子田「理不尽だよな。裏切られたほうが、疑って、悩んで、夜も眠れずに心を痛めて、真実を知って心えぐられて、それでもなお、こどものために家族のために受け入れて、歯を食いしばって許さなきゃいけない。裏切られたほうが。裏切ったほうはそんな痛み考えもしない。
そのとおりです、としか言えない茄子田の長台詞(ここに書いた2倍くらいの量を喋っていた!)。このとき茄子田は、綾子が浮気していないことをまだ信じていたのだ。でも、真弓の態度で裏切りを確信してしまう。
そのあと登場した綾子の服装がまた怖かった!
秀明がこどもみたいな顔で話してくれたという映画(おそらく『蝶の舌』)に登場する「白い小さなお花」があった。その白い小さなお花モチーフが散りばめられたワンピースを着ていたのだ。執着と圧が強すぎる。真弓の職場に差し入れしたメンチカツ(=秀明の好物)といい、歩くメッセージ性かよ。
5話では他にも、秀明が弱くなり、真弓や森永がいわゆる「男らしさ」のようなものを引き受けていた場面も気になった。
真弓は、秀明の「真弓を守る」という言葉を突っぱねたし、カレー屋での会計時は2人分をサッと支払った。森永は、上司の竹田(藤本敏史)が秀明に言った「パパ、頑張って稼いできてね」という応援に「稼いできま~す」と軽く返事する。
少しずつパワーバランスが変わっていく様子を、気付くかどうかのレベルで日常に差し込んでくる。
第6話は、今夜10時から放送予定。
(むらたえりか)
【配信サイト】
・TBSオンデマンド
・Paravi
・TVer
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)