公式サイトやポスターには「大事なところ、枯れてませんか?」のキャッチコピー。
それぞれの萎えた夫婦関係が、不倫をきっかけに変わっていく。大人たちの群像劇だ。

視聴者の心を掴んだ中谷美紀のモノローグ
真弓「その日は、私たち夫婦の13回目の結婚記念日で、街には春の花が咲き、メンチカツはカラリと揚がり、夫は、他所(よそ)の女を抱いていた」
冒頭、夫の帰りを楽しそうに待ちながら料理をする佐藤真弓(中谷美紀)のモノローグ。ホテルの一室で電気をつける余裕もなく抱き合う佐藤秀明(玉木宏)と茄子田綾子(木村多江)の姿。その2つが繰り返し映る。
日常と後ろ暗さのコントラストで「誰しもが落ちる可能性がある不倫という穴」を見せつけていた。この冒頭で心を掴まれた。
真弓は結婚13年目の主婦。夫の秀明には、些細なことでつい文句を言ってしまう。娘の麗奈(桜田ひより)が中学校に入学し手を離れたことで、改めて自分の生き方を考え職場復帰をする。
住宅販売会社の営業マンとして働く秀明は、仕事の成績もあまり良くなく、家に帰っても叱られるばかりで、居場所のなさを感じていた。住宅展示場で茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)、綾子夫妻と出会い、真弓と正反対の楚々とした綾子に惹かれていく。
原作から変わった点とドラマ制作の丁寧な仕事
原作は、直木賞作家である山本文緒が1994年に発表した同名小説。著者本人は“だって書いたの25年前ですよ。 25年って四半世紀ですよ。”(山本文緒のnote「あなたには帰る家がある、ドラマ化」より)と、月日が経ってのドラマ化に驚いている。

四半世紀も経っているということもあり、今作は、2018年版として原作からアレンジされている部分も多い。
原作の真弓は、商社に勤めたのち結婚し、そのあと新しい仕事として保険のセールス業を選ぶ。ドラマ版では、旅行代理店に職場復帰という形になっている。
これは、25年前よりは女性の職場復帰がしやすくなっていることなどが関係しているだろう。商社に勤めていた女性がわざわざ経歴を活かさず再就職するとなると、見ていてモヤッとする可能性がある。実態に合わず、真弓が必要以上の無鉄砲に見えてしまうだろう。
また、佐藤家、茄子田家のこどもたちの年齢も違う。原作ではまだ1歳の麗奈は、ドラマ版では13歳の中学生。茄子田家には2人いた息子たちはドラマ版では慎吾(萩原利久)1人になり、年齢も小学4年生から高校2年生に上がっている。
1歳のこどもをどこかに預けて働くとなると、本筋とはまた別の問題が生じる。麗奈の年齢は、それを避けての変更かもしれない。そして、自分の意見が言える年齢のこどもがいると、家族という1つのコミュニティ内や、真弓らを取り巻く人たちの意思に新たな層が生まれる。
現に1話では、秀明と喧嘩した真弓に対して、秀明の心遣いを見ていた麗奈が「パパ優しいよ。だから、怒ったらかわいそう」と仲直りのきっかけを与えていた。これによって夫婦が1度仲直りし、そこからの不倫という急転直下を生む大事な役割だった。
反対に、原作からアイデアを拾って活かしている部分もある。
1話の終盤で、助手席に綾子を乗せた秀明が、綾子の「私、幸せです。でも、さみしい」という吐露をきっかけにウインカーを消したシーン。原作に同じシーンはないが、綾子への思いに迷ったときに、秀明がこんなことを考えている。
だが、気持ちのアクセルを踏み込んでいいのか、ブレーキをかけるべきなのかは判断しかねるところだった。お互いに家族がいる身だ。
(山本文緒『あなたには帰る家がある』角川文庫 p.170)
まるで心臓の鼓動のように車内にウインカーの音が響くシーンは、この秀明の惑いを踏襲したのだろう。ドラマ版の秀明はウインカーを消し、綾子を乗せてホテルへ向けアクセルを踏んでしまった。
過去の作品を現代に合わせてアレンジする際、ときには原作ファンから反発が上がったり中途半端な改変で違和感が表れてしまったりすることがある。
しかし今作は、時代性を盛り込みつつも、ドラマで描きたいテーマがぶれないようにピースを揃えている。また、散りばめられた原作へのリスペクトも感じた。これが丁寧な仕事というものか。
人の心を上手に刺すドラマ
初回の視聴率は9.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)だったが、SNSの反応を見ると期待の声が多い。今後の伸びもまだ期待できそう。
反面、「つらくて見ていられない」という感想もあった。これは内容がリアルで身につまされてしまうせいだ。
不倫をしている知人に薦めたところ、ある男性は「自分の罪を見せつけられたようでゾッとした」と言っていた。
不倫の恋にうっとりする暇など与えない。人の痛いところをグサグサと上手に刺してくるドラマだ。
第2話は、今夜10時から放送予定。
(むらたえりか)
【配信サイト】
・TBSオンデマンド
・Paravi
・TVer
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)