第8週「助けたい!」第47回5月25日(金)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗
47話はこんな話
秋風(豊川悦司)が癌を患っているのではないかと知った鈴愛(永野芽郁)は心配して、みんなで助け合おうとする。
誤解があっちゃいけないわ
「再発したんだわ」と泣く菱本(井川遥)の方に手を回し慰める律(佐藤健)の姿を目撃してしまう鈴愛。
「律になにかされたのか?」と心配する鈴愛に「あなたがたに誤解があっちゃいけないわ」と気にかける菱本。
菱本も律と鈴愛の特別感に気づいているようだ。45話の秋風も、中庭で律と話していて鈴愛が来たら、ふたりきりにして席を外していた。ほんとうに、周囲は全員わかっているのに当人たちだけが気づいてないという状況なのだなあと微笑ましく見た。
漫画展開
秋風が癌と聞いて鈴愛が癌に関する本を手持ちのお金で買おうとすると、裕子(清野菜名)とボクテ(志尊淳)が図書館のほうがいいと助言。当時はネット検索できなかったというナレーション(風吹ジュン)が入るのだが、以前、鈴愛は23話で、京大のノーベル賞受賞者が多いことを学校の図書館で調べていたから、何かあったら図書館で調べる習慣はあったのではないかと思うのも野暮。このドラマをツッコむのは野暮。ただただ話しの流れに波に身を任せていればどこかにたどり着かせてくれるはず。ゆったり楽しむのが吉。
これまでずっと鈴愛の漫画の中の人が注目されてきたが、47話は(事情通とされる)ボクテの漫画がフィーチャーされた(作画はNHKアートのスタッフ。すごく巧いのにお名前が出なくてもったいない。いつか名前が出るお仕事をされるときがありますように)。その漫画で、菱本若菜の過去(出版社勤務で編集長と不倫してこっぴどく捨てられて秋風の元で働くことになった)が説明される。
土曜の夜と日曜のあなたがほしいやつ
菱本が不倫していたことを知り、「うちのお母ちゃんが憧れとったやつや」と鈴愛。
「いつだって不倫は主婦の憧れです あっ 朝から失言」とナレーション。
「土曜の夜と日曜のあなたがほしいやつ」というのは「金曜日の妻たちへ」(83〜85年 パート3まで作られた TBS)のパート3「金曜日の妻たちへ3(ローマ字)恋におちて」の主題歌(唄:小林明子)。なぜか途中から英語の歌詞になり不倫が素敵なものの雰囲気を盛り上げる。「ダイアル回して手を止めた」という電話時代特有の歌詞もチェックポイントだ。
それっぽいドラマを劇中で再現したスタッフの方々、おつかれさまです。
不倫と朝ドラについては、拙著「みんなの朝ドラ」でも重要な考察テーマのひとつだった。現在夕方再放送が大相撲で休止中の「カーネーション」(11年)では、妻のいる男と恋してしまったヒロイン糸子のことを非難する視聴者も現れたため、以後、朝ドラでは不倫描写は自粛気味で、「花子とアン」(14年)のヒロインのモデルはやっぱり妻がいる男と恋をしているのだが、そこをドラマでは妻が亡くなってからと段取りを踏ませている。「あさが来た」や「わろてんか」では夫のモデルの人物たちは妾がいたり女遊びなどもしたりしているがドラマでは一切描かれていない。
だが「半分、青い。」は不倫をその時代の“トレンド”としてけろっと描いた。
ちなみに89年の朝ドラ「青春家族」では母と娘がW ヒロインで、母(金妻に出ていたいしだあゆみ)のほうが娘の元婚約者とキスする展開が女性週刊誌などで話題になっていた。父は父で不倫しているというドロドロ展開で、視聴者の心は大きく揺さぶられた。平均視聴率は37.8%、最高は44.2%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。

けろっといえば、秋風の癌再発問題。
もっとも秋風羽織だっておもしろ名前だと思うが。
コミュニティや継承
何かと自重しがちな世の中で、不倫も病気もエンターテインメントとして描く「半分、青い。」。いまどき、ふたりの登場人物を同時に同じ台詞を語らせることもあまりないが、律と菱本が「つくし食堂に?」と声を合わせていたことにも、やりたきゃなんでもやっちゃいます精神を感じる。
だが、あっけらかんと朝ドラマを遊んでいるかと思えば、意外と押さえるとこを押さえてもいて。
それは「コミュニティ」と「継承」である。
秋風のデリケートな問題が一気に、鈴愛というネットワークを通じて広がって、みんなで知恵を出しあっていい方法(みんなで支える みんなで闘う)を考えようとすること。いま、日本が必要としているコミュニティーの確立である。
そして、こどものいない秋風が、作品だけ残すのではなく自分のノウハウを後進の者に伝えたいと願うところ。これは朝ドラが常に描いている祖父母、父母、こども・・・と世代を越えてつながり先祖代々の精神を伝えていくことだ。秋風は鈴愛の家で、父の好んだ正統派少年漫画を読んで育ったことが鈴愛にいい影響をもたらしているのではと感じる。それも「継承」だ。
鈴愛と律
鈴愛が担う「コミュニティー」がもたらすものは、和子(原田知世)や仙吉(中村雅俊)などがすすめる漢方薬で、律はそれに対する是非はともかくとしてたくさんの人にぺらぺら話していいものかと意見する。だが鈴愛はみんなで力を出し合うことが得策と譲らない。
ふたりの対立を聞いて思ったのが、やっぱりこのふたりは補い合っているということだ。
鈴愛がやたらと声を張り上げて元気な分、律が柔らかで穏やかでバランスをとる。律がおとなしすぎるときは、鈴愛の強さが引っ張る。足して2で割るとちょうどいい感じを永野芽郁と佐藤健は巧いこと作り上げていると思う。永野芽郁は、鈴愛が反射的に激しく反応してしまうところが視聴者にはノイズに聞こえてしまうことも厭わず全力でやりきり役に奉仕する俳優魂を見せ、佐藤は決して全力で跳ね返さずにやんわりと意見しながら理性と知性は感じさせるというテクニックを発揮している。
(木俣冬)