連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第8週「助けたい!」第48回5月26日(土)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗

48話はこんな話


秋風(豊川悦司)の病気再発は思い過ごしで、再び鈴愛(永野芽郁)たちを漫画家として鍛え始める。
それと平行して鈴愛は正人(中村倫也)に心ときめいてしまう。


私は無神経なとこがある


喫茶おもかげでバイトをはじめた正人。悩む鈴愛の話を優しく聞いてあげる姿がバーテンダーにしか見えない。
夜の、大人の、ニオイがする・・・。この感じでたくさんの女の子とつきあっちゃうんだろうなあという説得力が抜群だった(褒めています)。

否定しないで聞いてくれる正人には、素直に「私は無神経なとこがある」と反省を語ることができる鈴愛。
自分の欠点をわかっているが「いいとこと悪いとこはセットになっとる」とここでも前向き。頭では悪いとわかっていてもつい突発的にしゃべったり動いたりしてしまう人、いるいる。
「半分、青い。」とは、そんな鈴愛が今後いろんな失敗を繰り返して、最終的にはオープニングのようなさわやかな女性に成長するというお話なのだろうか。

定期検診を受けようキャンペーンか


菱本(井川遥)に説得され、付き添われて病院で検査をすると、再発も転移もしていなかった。
早く検査を受けたことが良かったと医者(山寺宏一)が言い、定期検診をしていれば早期発見で完治の可能性も大きい、ということをさりげなく全国の視聴者に伝えてくれた。

菱本がそっと秋風の手に触れるところが気になる。このふたりの関係ってどうなってるんだ? と思うが、それよりGジャンに乙女チックなワンピースの組み合わせ、あったあった。

内視鏡治療は無事に終わり、再びクロッキー教室。若者たちに報告する秋風。

「よかったです~」と正人が言うのでじろっとみる律(佐藤健)がおかしい。まさかまた「鈴愛の口は羽根より軽いか」!と思ったに違いない。

「創作という魂の饗宴の中で私はしばし病を忘れる」


秋風が熱弁。
「創作という魂の饗宴の中で私はしばし病を忘れる」
「私は思うのです。人間にとって創作とは神の恵みではないかと」
ところが、その途中鈴愛がふくろう町のみんなに報告しようと席を立ってしまう。
「魂の饗宴! なんやそれ?」ととぼける鈴愛。ブッチャーにまで八坂神社のお守りをもらってもらおうと連絡していたことも判明。北野天満宮のお守りもらった親戚はもう用済みか。
この場面は本来なら感動シーンなのだろうけれど、感動シーンにしないことで従来の“いいドラマ“を脱構築を図っているのだろうか。そこに病を用いることは、それこそ神をも怖れぬ大胆な所業な気もしないでない。

あなたが私の王子様


秋風の漫画修業は熱を帯び「話が上っ面なんだって」「こんなセリフ 生きてて人が言うか」「なんのために生きてるんだ 漫画のためだろう」などと厳しい言葉が飛ぶ。
落ち込んだ鈴愛は、おもかげで正人に、はじめて作ったというパフェをプレゼントされ「正人くん あなたが私の王子様」と自分のセリフを口にする。秋風にばかにされたそのセリフを口にしてみると意外や心を動かして・・・。
「ドキドキが止まらなくなってしまいました」(ナレーション・風吹ジュン)。

劇伴は「東京ラブストーリー」ふう。東京ラブストーリーは91年にドラマ化されて大ヒットする。ヒロインは「わろてんか」でお母さん役だった鈴木保奈美。テーマ曲「ラブストーリーは突然に」は小田和正で、北川悦吏子は彼の大ファン。
劇伴は日向敏文。
「半分、青い。」48話「あなたが私の王子様」ラブストーリーは突然に
「東京ラブストーリー」ポニーキャニオン

それにしても「半分、青い。」のポップなノリは、よる11時くらいにやっているような低予算で実験的なことをやるドラマのような風情すらある。“朝ドラ”というそこそこ予算があって日本を代表する番組であえてそれを「やってまった」という印象で、いろいろ笑いもまぶしつつ、「朝ドラを楽しむ」ことを大事にした「あまちゃん」よりも破壊的だ。
従来の朝ドラ視聴者の好む、病も仕事も恋愛も大切に丁寧にやさしい視点をもって描くことからあえて背を向け、笑いに転じる。
池井戸潤原作の日曜劇場的なものが日本人に好まれるいま、朝ドラでこういう変わったことを試す意図がわからないが、いつも同じ感じのものばかりやっていても停滞するので、たまにこういうことをやるのもいいのだろう。これを深夜でやったら10%満たないだろうが、もともともってる20%の視聴者にぶつけてくるのだからすごい(やや呆れつつ褒めています)。

すべてを茶化しているように見えるなか、ただひとつ「生きたセリフ」ではないと師匠に否定されたセリフを口に出したらリアリティーを帯びたというところに、これまで脚本家として生きてきた北川悦吏子の仕事のリアルを感じて面白かった(ここは本気で褒めています)。

文字に書かれた言葉を目で見たり頭で読んだりした印象と、口に出して音となったときの印象は違うものと、脚本家だからこそわかるのだろう。どんなセリフでも俳優のちからで生きたセリフにできる、という事実もある。たとえば、48話では、中村倫也。「元気だしてのプレゼント」のセリフを「元気だして〜」と少し伸ばすところの技を見た。

何にせよ、ドラマで描かれる仕事や病や恋愛や家族をていねいに優しく真摯に描いたものというのは、しょせんは理想の世界であり、実際はそんなに美しくなくむしろなりふり構っていられないものなのだと、最も理想の恋愛世界を描いてきた北川悦吏子ドラマに思わせてもらえるとは。それこそ時代は変わったとしか言いようがない。
ドラマは最終的にどこに向かうのかまだわからないので、ベテラン脚本家として最後にどういう世界を選択するか、最終回を見てからどんなレビューが書けるか、いまからこんなに楽しみな朝ドラもない。やたらとひとの気持ちをかき乱すドラマなのだ。それは大事なことだと思う。
(木俣冬)
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