シンプルなストーリーと複雑な細部は、一級の娯楽作品の証
『犬ヶ島』のストーリーはシンプルだ。アタリ少年とスポッツの友情を軸に、5匹の犬たちとの冒険を描いた映画である。「犬ヶ島に送り込まれた飼い犬スポッツを探す」という目的がハッキリしており、それを妨害する悪役たちもちゃんといる。言ってしまえば、ひねりがない。今時珍しいくらい一本道のストーリーである。
しかしその中に、犬たちの悲哀もちゃんと織り込まれている。元々飼い犬だった犬たちは人間の勝手な都合で捨てられたにも関わらず、病に感染しながらも「主人がほしい」と口にし、アタリ少年が現れると大喜びで協力する。「主人を持たない犬の悲哀」「主人と目的を与えられた犬たちの献身」というテーマからは何やら押井守感(それも『ケルベロス・サーガ』感)が漂っている気もするが、基本的には人類の友である犬たちとの友情の物語だ。唯一元から野良犬であるチーフとアタリ少年の関係が変化していく様も、見ていて清々しい。最初はクセの強いデザインに見えた犬たちやアタリ少年も、このストーリーを見ているうちにどんどん可愛く見えてくるから不思議だ。
シンプルで王道な冒険物語に、過剰なまでに詰め込まれたディテールを組み合わせる……。おれはそういう映画が大好きだ。わかりやすいところで言えば、古典的冒険物語に完成度の高いデザインや使い込まれた宇宙船の汚さなどを組み合わせた『スター・ウォーズ』シリーズの『新たなる希望』なんかはモロにこれである。ストーリーはシンプルかつ力強く、そしてディテールは過剰かつ複雑に。古今の名作に匹敵する芯の強さと情報量を兼ね備えた『犬ヶ島』は、何度でも見たくなる作品なのだ。