かこさとしの作品といえば、「だるまちゃん」「からすのパンやさん」シリーズといったオリジナルのキャラクターが活躍する絵本のほか、川の流れを源流から海に出るまでたどった『かわ』をはじめとする科学絵本など、子供のころ愛読した人も多いだろう。私も、小学生のときに読んだ科学絵本『宇宙』や、年中行事や記念日、偉人の誕生日などをとりあげた『こどものカレンダー』、古今東西の科学者たちの小伝集である『科学者の目』など、彼の著作から少なからぬ影響を受けている。
それでもかこは生涯に600冊以上もの作品を残しており、未読の作品も多い。ちょうど彼について調べる機会があり、最近いくつか作品を手に取ったのだが、なかでも初めて読んだ『ならの大仏さま』(福音館書店、1985年/復刻版:ブッキング、2006年)は、ならの大仏がつくられる過程を歴史、宗教、技術などさまざまな観点から描いており、たくさんのことを教えられた。

ちなみにタイトルが『ならの大仏さま』と、奈良がひらがな表記なのは子供向けだからかと思いきや、そうではなかった。冒頭の文章では「奈良」という地名に注釈がつき、次のように説明されている。
《平らな所の意味とか、あるいは楢の木が生えていたためにつけられた地名といわれている「ナラ」に、諾楽・寧楽・平城・奈羅・那羅・乃楽・奈良の字があてられてきましたが、この本では大仏をさす場合には、ならの大仏と記すことにしました》