先週放送された第8話「美のカリスマ」編のターゲットは、美容事業を幅広く手がけるカリスマ女性・美濃部ミカ(りょう)。華々しい経歴を持つが、激昂しやすく、数多くの社員を鬱に追い込んできたパワハラ暴言社長だ。
ミカが痛快にやりこめられるお話かと思ったが……実は『逃げるは恥だが役に立つ』でも語られた女性の「呪い」をテーマにしたエピソードだった。

イラスト/まつもとりえこ
ひどすぎる暴言 ブー! ブー! ブッブッブー!
今回、ダー子たちに話を持ち込んできたのはいつも冷静沈着なリチャード。彼が通っていた個人経営のエステ「ほのかスパ」のエステティシャン、ほのか(堀川杏美)が美濃部ミカの経営するMIKAサロンに就職したのだが、ミカから暴言を1年近くにわたって浴び続けて心を病み、退職してしまったのだ。
ミカの暴言の内容は、「痩せなさい」「なぜ痩せないの?」「痩せてない!」というもの。ほのかはたしかにぽっちゃりしていた。
暴言は続く。「見れば見るほど醜いわね!」「こっちから見たら醜いブタなのよ!」「このブタ!」「今日からブタ田ブー子って呼ぶから」「お返事は? 返事はブー! でしょうが!」「ブー! ブー! ブッブッブー!」……。ボクちゃんが「聞くにたえない!」と顔をしかめるのも無理はない(ダー子は笑いをこらえるのに必死だった)。容姿について指摘するだけでハラスメントにあたる(パーソナルハラスメントと呼ぶ)。それを「ブタ田ブー子」だなんて……。
般若のような表情で「ブッブッブー!」とシャウトする、りょうの鬼気迫る演技がすさまじい。
ほのかを演じる堀川杏美は、エイベックスのアイドルグループChubbiness(チャビネス)で活動中。キャッチフレーズは「日本初! 痩せたらクビ! 太りすぎてもクビ! エリートぷに子集団!!」で、プロフィール欄にはメンバー全員の体重が明記されていた。なんとも複雑な気分になるコンセプトだ。
「たわごとなのよ、心の美しさだの、自分らしさだの」
ほのかはミカの暴言を録音していた。彼女は週刊誌に持ち込もうとしていたが、リチャードは「それは下品なやり方だな」と諭し、自分に預けるように言う。そしてダー子とボクちゃんに詐欺の話を持ち込むのだが……。
無神経なダー子に「男って、年とるとポッチャリムッチリしたのが好きになるのよ。ちょいブスぐらいのほうが安心できるのよね~」と言われて激昂したリチャードは、ボクちゃんとだけ組むことに。リチャードが怒ったのは、下心を詮索されたこともあるが、何より「男って」と一括りにされたことに対してだろう。
ボクちゃんは韓国アイドル(くずれ)に扮してミカに接近するも、あっさり失敗。ミカはメンズコスメの儲け話にまったく興味を示さなかった。ミカ曰く「男性は中身を磨けばいいの。
ダー子はフランスの高級ブランドの関係者に化けてミカに近付こうとするも、通りすがりの女の子の髪を直すミカを見かけて作戦を撤回する。いぶかしむリチャードとボクちゃんに向けて、ダー子は語りはじめる。
「やっぱり心がきれいでもブスはイヤなんじゃない。リチャードもそうでしょ? たわごとなのよ、心の美しさだの、自分らしさだの。みんな知っているのに真実のふりして生きている。あやうくボクちゃんと同じ過ちをおかすところだった。私もわかってなかったわ、美濃部ミカの本質……」
アホな世の中の「呪い」と心中する生き方
美濃部ミカの本質とは、「女は美しくあらねばならない」というこの世を支配する「呪い」と心中する生き方だった。
「女はね、生まれたときから、きれいであることを義務付けられる。女にとって美は、逃れたくても逃れられない“呪い”みたいなもの。アホみたいな世の中だけど、それが現実。その現実と心中する覚悟を決めた女、それが美濃部ミカ」
『逃げ恥』の最終回で石田ゆり子演じる百合ちゃんが言った「私たちの周りにはたくさんの呪いがあるの。自分で自分に呪いをかけないで」というセリフは大きな反響を巻き起こした。
ミカの母親は、明るく聡明な女性だったが、あるとき顔に大きな火傷を負ってしまい、人前に出られなくなってしまった。ミカの父親は浮気をして家を出ていき、母親は仕事もまともに得ることがでないまま、苦労に苦労を重ねて生涯を終えた。見た目を損ねただけで、みじめな人生を送ることになった母の姿を見て、ミカは自分の生き方を決めたという。
ミカの身の上話を聞いて、つきものが落ちたような顔をしているボクちゃんとリチャード。彼らは「女性は心の美しさが大事」と揃って口にしていたが、それは女性を覆い尽くしている「呪い」から目を背けることであり、結果的に「呪い」に加担していることに他ならない。そのことに気づいたからこそ、呆然としていたのだろう。それにしてもパワハラと暴言はダメだけどね。
今夜のターゲットは某IT企業社長……?
結局、ミカはダー子たちの仕掛けに引っかかって大金を支払う前に失脚する。ほのかが音声データを週刊誌に売り込んだのだ。週刊誌から謝礼の50万円をもらい、ミカから慰謝料も100万円支払われると知ってホクホク顔のほのか。
半年後、ミカは団地で子どもたちと暮らしていた。それでも、敷地に生えているヨモギを摘んで、周囲のママたちに美容に良いと薦めていた。まだまだミカの美への執念、いや、女性を美しくしたいという執念は衰えていなかった。それを見て、ダー子とリチャードとボクちゃんは本当にうれしそうな笑顔を浮かべる。
思えば、世の中の呪いから自由になっている人は、コンフィデンスマンたちの相手にはならない。世の中の常識にとらわれているターゲットだから、常識を利用した嘘にひっかかる。
詐欺という嘘をつかって、世の中を覆う欺瞞を、告発調ではなく、さりげなく炙り出す『コンフィデンスマンJP』。ちょっと頭を使うドラマだけれど、やっぱり面白いなぁ。今夜放送の第9話は「スポーツ編」。いくつものプロスポーツクラブを運営するIT企業の社長がターゲットだ。
(大山くまお)