2018年一月場所からAbemaTVで大相撲中継(大相撲LIVE )がスタートした。これまでもネット配信の大相撲中継はあった(Ustream、スポナビライブなど)。
しかし視聴料金が高かったり、定点カメラの粗い画像の流しっぱなしだったりして評判はあまりよくなかったのだ。

それでもネット配信が成り立っていた理由は、テレビ中継の放送時間によるところが大きい。本場所中の取組みが基本的に朝8時半から行われているのに対して、NHK総合の中継は15時から。BSに加入していれば13時から見られるが、大きなニュースや国会中継延長などで頻繁に短縮される。会場に行く以外で早い時間の取組みを見る方法がそれしかなかったのである。

そこに参入したのがAbemaTVだ。早朝から結びの一番までを余すことなく放送。これまで解説には日替わりで芝田山(元横綱大乃国)や鳴戸(元大関琴欧洲)といったNHKでもおなじみの現役親方が登場。さらに把瑠都、KONISHIKIなどの協会途中引退組に加えて、増位山、黒姫山など懐かしの協会定年組も起用されており、古参の相撲ファンを歓喜させている。
趣向を凝らした演出とカメラワークも新鮮だ。視聴は無料。見逃し視聴も無料。


ゲストはアイドルや芸人が多い


「わー!このお相撲さん、ワキ毛が全然なーい!うらやましいです!わたし永久脱毛中なので!……この人の名前は何ですか!?」

先場所(五月)の放送で印象的だったのが三日目(5月15日)。ゲストは鈴木奈々。
NHKの大相撲中継には毎場所、芸能人や文化人がゲストで登場する日がある。そのゲストが相撲にあまり詳しくない人物だった場合、ネットや会場の一部相撲ファンに叩かれるということがよくある。「知識もないくせに放送席に座るな」とのことらしい。

「阿部さんがいますよ!」

六日目(5月18日)のゲストは元サッカー選手の丸山桂里奈。客席に阿部寛を発見した彼女は誰もが気付きながら決して口にしなかった事実を素直に公言。「『テルマエ・ロマエ』は面白かった」との持論も展開した。
客席前列にしばしば映る林家ペー・パー夫妻に。高須医院長に。オリンピックおじさんに。解説者やアナウンサーも確実に気づいているはずなのだ。でもそれは「言ってはいけないこと」だと、NHKしか知らない我々は信じて疑わなかった。


長くNHKの専売特許だった大相撲中継の伝統をAbemaTVは壊しにきた。ド素人ゲストを投入してきた。よくみると名前テロップの下に「相撲ビギナー」とある。そもそもNHKの大相撲中継は素人にとってハードルが高いのである。当たり前みたいに四股名や決まり手など連呼されても分からない。だから興味も持てない。AbemaTVがそこに勝機を見出したのは明白である。

2013年にはわずか一誌だった大相撲の専門誌も、ここ数年のブームにより復刊、創刊が相次いでいる。中でも雑誌「相撲ファン」はスージョ(相撲ファンの女性)やビギナー目線の誌面づくりで他誌との差別化に成功。部数を伸ばしている。
衝撃のAbemaTV大相撲中継「わー!このお相撲さん、ワキ毛が全然なーい!」名古屋場所明日から

大空出版「相撲ファン」

ビギナーには「とっつきやすい」、ベテランには「小ネタがきいてる」


番組は全体的に格闘ゲームっぽい演出がなされている。ヒップホップのようなロックのようなノリノリの音楽をバックに、取組み前には力士の強さをレーダーチャートで表示。
例えば横綱白鵬だと「力」「技」「体力」「優勝」「速」の各項目がほぼ均等な五角形で、総合値はカードゲームふうに「SSS」ランクとある。ただし項目は力士によって異なり、「忍耐」「分析」といった取り口を表すものから、「おやつ」「手芸」「毛」など力士の趣味や特徴を感じさせるものまで様々だ。

他にも、力士のプロフィールが詳細に、現在の勝ち星なども画面に常に表示されている。倍速の設定が細かくできる。初歩的なことも毎回説明するなど、初心者や若年層に優しいつくり。コメント機能もついている。もちろん表示をオフにすることが可能。

「志布志のファイナルウエポン」
「柳川が生んだガブリ職人」
「進撃のイチン」

これらは取組み前に表示される「力士の紹介」テロップである(上から千代丸、琴奨菊、逸ノ城)。
AbemaTVの中継は、字幕に作り手のこだわりがうかがえる。力士をあだ名で表記したり、勝手にキャッチフレーズをつけたり、謎の情報をねじこんできたり(「西内まりやに一目惚れした」「取組みに負けた日は気持ちを絵で表現して反省する」など)。これは遊び心を超越した「オフザケ心」というべきか。

明日(7月8日)から名古屋場所がはじまる。

5日には横綱稀勢の里が8場所連続となる休場を発表。これでますます世間の注目は先場所で大関に昇進した栃ノ心に向けられることになった。観戦チケットは一部平日の升席を除いてほぼ完売している。

AbemaTVでは独自に「推し力士」を設定していて、解説では若干「ひいき」されている。今場所は鶴竜、白鵬、稀勢の里、豪栄道、高安、栃ノ心、逸ノ城、御嶽海、玉鷲、貴景勝、嘉風、遠藤、千代丸、阿武咲、石浦、北勝富士の16人。メディアが特定の力士を応援するなど、これまでになかったことである。

家のテレビで大相撲を観ることを、会場前方の「桟敷(さじき)席」になぞらえて俗に「テレビ桟敷」と言ったりする。桟敷席よりもテレビのほうが結局見やすい、という意味も含まれている。「ネット桟敷」はそこに「いつでもどこでもスマホで見れる」というメリットも加わった。
(亀沢郁奈)

大相撲名古屋場所(ドルフィンズアリーナ/愛知県体育館)
7月8日(日)〜7月22日(日)
AbemaTV大相撲LIVE
AbemaTV大相撲ダイジェスト
※日によって放送時間に若干変動あり。8:30〜18:00の全取組は全日網羅。
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