「銚子電鉄」と言えばぬれ煎餅のイメージだが、苦境を救ってくれた“奇跡のぬれ煎餅”が不振だという。

そこで銚子電鉄が次の一手として打ち出したのがスナック菓子、その名も「まずい棒」。
なぜこのようなネーミングにしたのだろうか……? 型にはまらない鉄道会社の新たな試みを取材した。
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?
銚子電鉄:竹本勝紀社長


まずい棒が生まれた経緯


ユニークな商品が生まれた経緯について、「まずい棒」企画者である、怪談蒐集家の寺井広樹さんに話を聞いた。
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?
怪談蒐集家:寺井広樹氏


寺井さんは2016年から怪談蒐集家として、毎年銚子電鉄「お化け屋敷電車」の企画・演出を担当している。これまで銚子電鉄は“日本一のエンタメ鉄道”を目指し「イルミネーション電車」や「お化け屋敷電車」、社長自らDJとなり電車を運転、UFO召喚イベントなど、他ではないさまざまな取り組みをしてきた。
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?
名物のぬれ煎餅


しかし経営状況はなかなか厳しい。銚子電鉄は収入の約7割がぬれ煎餅の売り上げによるものだそうだが、その売れ行きも不振で赤字に転落してしまう。さらに国からの補助金も減少するという境地に陥った。


このままでは“まずい……”ということで、廃線危機を乗り越えるべく「ぬれ煎餅に続くヒット商品を」と寺井さんが銚子電鉄の竹本社長に発案。「経営状況がまずい」にちなんで商品を「まずい棒」と命名。ユニークさで少しでも話題になって、銚子電鉄を応援してくれる人が増えたらという狙いだという。

ホラー漫画家の巨匠がパッケージを手掛ける


まずい棒のパッケージにいるのは“まずえもん(魔図衛門)”というキャラクター。「まずい……」という言葉に反応して魔界からやってくる異星人だそう。
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この絵を描いたのは『蔵六の奇病』『地獄の子守唄』などで知られる、ホラー漫画界の巨匠・日野日出志先生。なんと描きおろしイラストだ。


当初、赤字経営ということで目が血走ったキャラクターのラフ画を描いた寺井さん。しかし、目が血走って目玉が飛び出ているイラストは、日野日出志先生の漫画のキャラにしか見えなかったそう。

そこで、せっかくなら先生ご本人に描いていただけないかと自ら依頼。日野先生は「経営がまずいから『まずい棒』」という自虐ネタに苦笑いされていたそうだが、ご自身も『恐怖列車』という作品を描くほどの鉄道マニアということもあり、「銚子電鉄の何かお役に立てるなら」と快諾した。

そこから紆余曲折あり、パッケージに載せる「まずえもん」は目が血走らないキャラクターとなった。日野日出志先生のおどろおどろしいタッチとは異なり、かわいらしい雰囲気にも見える。
Tシャツなどの「まずえもんグッズ」も販売予定らしく、さすが銚子電鉄。抜け目がない。
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?


気になるまずい棒の味は……?


「まずい棒」の価格は15本セットで600円。1本50円でバラ売りも予定している。まだ発売前なので味のチェックができないのが残念だが、気になるのが「まずい棒」の味。

寺井さん曰く「普通においしいです」とのこと。ちょっと安心した。
詳しい味の感想を聞いてみたのだが「食べてみてのお楽しみにしたいので……」と寺井さん。ぜひ実際に味わってみてほしい。第一弾としてはコーンポタージュ味を販売し、第二弾で「ぬれ煎餅味」などを作るべく模索中だそう。

ちなみにいつまで販売するのか気になるところだが、竹本社長曰く「まずは経営状況がまずくなくなるまで販売します」とのこと。
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?

銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?


まずは「お化け屋敷電車」で販売


「まずい棒」は8月3日(金)から開催される「お化け屋敷電車」で発売される。夏の銚子電鉄の風物詩となった「お化け屋敷電車」は、走る電車がお化け屋敷になるという斬新な企画。ホラ活(ホラー活動)を推奨する寺井さんがプロデュースし、お化け屋敷制作の老舗・丸山工芸社が制作協力する本格的なものだ。

銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?

銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?


4年目となり、毎年新しいシナリオで運行する「お化け屋敷電車」。2018年のテーマは『傀儡子(くぐつ)の呪い人形』で、ただ怖いだけでなく、ラストは笑ったり、ジーンとしたり、「鳥肌が忙しい」演出が用意されているという。

まずくても頑張る銚子電鉄の魅力


最後に寺井さんに銚子電鉄の魅力を聞いた。

「経営危機に陥っても、地元の方や鉄道ファンの方々に支援いただいて生き残っていく生命力の強さに惹かれます。最近では大正ロマン薫るレトロ風電車の走行を開始したり、台湾のローカル鉄道と姉妹提携して鉄道を通じた国際交流を行ったり、常に新しいことにチャレンジしていく姿勢にも刺激を受けます。

『まずい棒』をきっかけに銚子電鉄に興味を持って、台湾から銚子に来る観光客も増えてくれたら嬉しいです」(寺井さん)
銚子電鉄が「まずい棒」を売り出すワケ ぬれ煎餅に続くヒット商品になる?


「まずい棒」は、銚子電鉄の仲ノ町駅、外川駅、ぬれせんべい駅など銚子の駅を中心に販売を開始。
8月10日頃からはネット販売も開始する予定だという。“まずい”状況でも諦めない、銚子電鉄の新しい試み。ピンチのときこそ美味しく味わえるかもしれない。

まずい棒
https://choden-mazuibou.com/

お化け屋敷電車
https://choden-horakatsu.com/

(篠崎夏美/イベニア)