第15週「すがりたい!」第90回 7月14日(土)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗
90話はこんな話
結婚することにした鈴愛(永野芽郁)と涼次(間宮祥太朗)は岐阜の鈴愛の実家に挨拶に行く。
弦楽器のような声
涼次が居候している部屋を訪ねた鈴愛は、その部屋の主・元住吉(斎藤工)と一瞬険悪に。
鈴愛は、元住吉と涼次はゲイで、自分との結婚はその目くらましではないかと妄想全開、なぜそんなに「自己評価低いの」と涼次は唖然となる。
鈴愛がそんなになったわけは、律(佐藤健)だった。
「28年思い続けた律に裏切られた」と話を「都合のいいように捻じ曲げ」て(Byナレーション)語る鈴愛。
こういうことは世にありがちといえばありがちで、優等生じゃない主人公を好ましく思う視聴者も少なくない気がする反面、こういう人がとてもいやだと感じる視聴者もいるのも確か。鈴愛のような人に迷惑をかけられた経験があると過剰に反応してしまいそう。
律の声を「弦楽器 チェロのような声」と言う鈴愛。85話のレビューで弦楽器の話が出てきて、私はこう書いた。
“店が珍しく忙しくなった時、涼次は鈴愛の耳が聞こえないことに気づいた。
気を使う涼次に「美しい弦楽器のような通る声でしゃべってくれれば聞こえます」と鈴愛は言う。
そこで、佐藤健がいつもうっとりするような声音でしゃべっていたわけがわかった。“
90話を見て、やはり佐藤健はそういう音を意識してしゃべっていたのだろうと感じた。「夏虫色だよ」とかの心地よさはまさにそれだ。モノローグだが「鈴愛の夢を盗んだ」とかも。
涼次はお人好しなのか鈴愛の主観に満ち満ちた話を真に受け、鈴愛を一生愛すると誓う。
「愛とは決して後悔しないこと」と言う涼次。こういうタイトルのドラマが96年に放送されている(元ネタは映画)。
その受け売りだろうか。彼が受け売りくんだとわかるのが、そのあと。
すったもんだあって、涼次が手帳にはさんでいた詩は、元住吉の映画のナレーションだった。
鈴愛も恋は盲目、涼次の詩でなかったにもかかわらず、それを言わなかった涼次が「かわいい」と言う。
なんか、なんかなあ(By「べっぴんさん」)と言いたくなるような鈴愛と涼次カップル。
涼次は、光江(キムラ緑子)に結婚を報告、亡くなった母(繭ちゃん)が残した通帳を受け取る。当面、お金もなんとかなりそうだ。
斎藤工がおもしろい
7月15日(日)、SNSでは斎藤工が豪雨で被災した土地にボランティアに来ていたという話題でもちきりになっていた。
公式に発表されているわけではないので詳しいことはわからないが立派だなあと思う。
そんな斎藤工は、イケメンとして認識されているが、顔はキレイだけどなんかちょっと「ヘン」という役が似合う。
ブレイクした「昼顔〜平日午後三時の恋人たち」も昆虫に夢中なオタクぽい人物だった。映画「影虎」も真面目にやればやるほど面白かった。サンシャイン池崎のネタの完コピや、深夜ドラマ「MASKMEN」
のずっとマスクをかぶっていて誰だかわからない仮面芸人を演じるなど、この人は流れに身を任せると輝く。
「半分、青い。」の元住吉も、なんだか“ヘン”なクリエーターが似合ってる。

かっこつけていたが、耐えきれず、
元住吉「ごゆっくりしてきなさって」
鈴愛「何語?」
涼次「武士?」
と部屋を出ようとし、
「温度調整すればいいさ」とエアコンのリモコンを渡す。
その後、「少しいじわるな感じがあったら申し訳なかった」と急に低姿勢になり、
そこから「わたしは少しさみしかったのかもしれない。わたしは弱虫だったのかもしれない」と言い出す。
そこで鈴愛が感動した詩のフレーズを思い出す寸法。
自分の寂しさや弱さをみつめ作品に投影したいのだろうけれど、なんかやばいっぽい。
変人だけど可愛げがあって憎めないキャラといえば豊川悦司が演じた秋風がいる。斎藤工はキャリアからして豊川ほど圧倒的ではないが、かなりいい線いっている。勝手に職場を抜けてしまう田辺役の嶋田久作も勝手だけど憎めないグループにカテゴライズされるだろう。
長らく疑問なのは、鈴愛をお山の大将キャラにして、得する人はいるのかということだ。
@岐阜
草太(上村海成)も自分の結婚を姉に相談しようとしたが、鈴愛はそれどころではない。
仙吉(中村雅俊)には鈴愛の結婚のあとのほうがいいと説得される。
草太の想い人・ひかりさんという名の10歳上の女性は、岐阜柳ケ瀬のバーのママで、仙吉は内心、草太はだまされているのでないかと心配していた。
確かになんか舞い上がっちゃったのかなあという気がする。
北川悦吏子は、ロマンチックなところはとことんロマンチックだが、下世話なところはとことん下世話。
恋や夢とかキレイなものが描かれた少女漫画と、スキャンダルが満載の女性週刊誌が並んだ病院の待合室みたいだ。
そしてついに涼次が挨拶にやってくる。
岐阜の方言「ちんちん」と岐阜中津川の名物・栗きんとん(9月から1月くらいに限定販売される素朴な和菓子。個人的には中津川に本店がある「すや」の品がおすすめ)が紹介され、
涼次の挨拶になると、緊張がマックスになって逆に笑いだしてしまう。
前途多難で、16週につづく。
(木俣冬)