『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、和歌でいう本歌取りのような映画である。前作『ジュラシック・ワールド』からの続く新作ではあるが、それと同時にオリジナルの『ジュラシック・パーク』シリーズからの引用に彩られた、シリーズへのリスペクトに満ちた映画だった。

「ジュラシック・パーク/炎の王国」スピルバーグを研究し倒したジュラシック本歌取り、リスペクト!

やめときゃいいのに火山の島に恐竜救出へ! ウー博士も再登場だ!


『炎の王国』の舞台は、前作『ジュラシック・ワールド』の3年後。開業して観光客が来まくっていたジュラシック・ワールドが、人工恐竜インドミナス・レックスの暴走で壊滅した事件の後である。ジュラシック・ワールドがあったイスラ・ヌブラル島は放棄され、恐竜たちはそこで自由に生活していた。が、火山活動が活発になり、人間によって復活させられた恐竜たちは二度目の絶滅の危機に瀕することに。

ジュラシック・ワールドの元運営責任者であり、崩壊したワールドから脱出したクレア・ディグリングは恐竜保全のための団体を作り、火山の噴火から恐竜たちを保護しようと活動していた。クレアは初代ジュラシック・パーク創設者であるジョン・ハモンドのビジネスパートナーだった資産家ベンジャミン・ロックウッドからの協力を取り付け、またロックウッド財団の経営者イーライ・ミルズからの依頼もあって、ワールド崩壊を生き延びたはずのヴェロキラプトル「ブルー」を捜索することに。そのために再度駆り出されたのが、クレアと共にワールドから逃げ出した元ラプトル飼育員のタフガイ、オーウェン・グレイディだった。

「崩壊した元パークに恐竜を探しに行く」というあらすじは、シリーズ2作目の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を思い出させる。実際『炎の王国』にも「もう恐竜に関しては懲りているけど、いろいろあって再度島に足を踏み入れる主人公」「恐竜を狙う悪い傭兵たち」というような『ロスト・ワールド』的要素は散りばめられている。が、状況は『ロスト・ワールド』よりずっと深刻。なんせイスラ・ヌブラル島では火山が爆発して溶岩がドロドロ流れてくるのである。

この火山と恐竜の合わせ技での大騒動は、ディザスター映画としてさすがの出来栄え。おれが『ロスト・ワールド』で大好きだった「絶対恐竜を捕まえる車」みたいなぶっとんだガジェットは出てこなかったが、それでも「グニャグニャになりながら溶岩から逃げるクリス・プラット」「めちゃくちゃビビるメガネのオタク」「映画の冒頭で土砂降りの中酷い目に遭う人」など、『ジュラシック・パーク』直撃世代も納得のジュラシック感が大変嬉しい。


直撃世代的な嬉しさでいえば、今回もヘンリー・ウー博士が登場していることもあげられる。ウー博士は恐竜クローン製造に携わった遺伝学者で、『ジュラシック・パーク』ではグラント博士らが島に到着してから研究所を見学したりするシーンに登場していた人である。その時はちょろっと出てきただけだったけど、なんと前作『ジュラシック・ワールド』では大出世して再登場。ハイブリット種のインドミナス・レックス製造に関与し、ワールド崩壊後は免許を剥奪され研究資格を失うも行方をくらませる……というシリーズ屈指のマッドサイエンティストに成長したのである。まさかあのちょい役の博士が、ここまで重要人物になるとは……!

そんなおれたちのウー博士が、『炎の王国』でも元気に暗躍。初代ジュラシック・パークの事故から『炎の王国』までの間、劇中時間では25年が経過している。その間反省する機会もいろいろあっただろうに、我らがウー博士は全く懲りることなく、今回も例によってカジュアルに超攻撃的な新種の恐竜「インドラプトル」を生み出す! アンタいい加減やめとけよ、もう! 「今度こそイケるはず→失敗して大惨事」の流れのジュラシック具合は、もはや様式美の領域である。

密室ホラー的要素だって、『ジュラシック・パーク』の一部だったのだ


そんなインドラプトルも大暴れするのが映画の後半戦。だが、『炎の王国』は前半と後半で大きくトーンを変化させる。一種の密室ものというか、ゴシックホラー的なモンスター映画に変わるのだ。てっきり火山が爆発する島を舞台にしたアドベンチャー的な要素の濃い映画だと思っていたので、正直これにはかなり驚いた。

スピルバーグが作った『ジュラシック・パーク』は、多様な方法で観客をビビらせようとした映画である。
雨の降る夜で視界の効かない中襲いかかってくるT.レックスや、なかなか立ち去らないと思ったらいきなり毒液を吐きかけてくるディロフォサウルスみたいな攻撃と焦らしが絶妙に混ざったシーンには、公開当時小学生だったおれは死ぬほどビビった。また、「牛がジャングルの奥に吊るされていき、悲鳴があがった後に牛を吊っていた袋だけがボロボロになって戻ってくる」「水が入ったコップに波紋が立つ」というような、気配だけでビビらせるシーンも印象的である。

それと同じくらい強烈だったのが、ヴェロキラプトルによる密室芸的な攻撃シーンだ。あのビジターセンターの厨房で子供2人を襲撃するシーンは言うに及ばず、発電所内でアーノルドの腕だけが出てくるシーンも怖かった。また、ラプトルはジャングルでマルドゥーンさん(マルドゥーンさんには絶対「さん」をつけなくてはならないのである)に接近戦をしかけ、歴戦のハンティングガイドであるマルドゥーンさんをして「囮だったか!」と言わせている。『ジュラシック・パーク』シリーズにおいて怪獣映画的な怖さの要素を代表するのがT.レックスだとするなら、『エイリアン』のような密室ホラー要素を担うのが、ヴェロキラプトルなのだ。

『炎の王国』は、『ジュラシック・パーク』が持つ密室ホラー要素にフォーカスした作品である。特に前述のビジターセンターでのラプトルVS子供2人のシーンを見てから『炎の王国』を見ると、膝を打つシーンが多いはずだ。ディザスター映画だと思って見に行ったのでビックリしたものの、スピルバーグが仕上げた仕事を解体し、J・A・バヨナ監督の持ち味を活かす方向に持っていったとすれば合点が行く。有名な古歌の句を部分的に取り入れて新しく歌を詠むという、本歌取りと同じ手法と言っていい。

巨大恐竜が暴れまわる開放的なスペクタクルではなく、胃がキリキリするような密室ホラーの怖さを存分に味わえる作品なので、正直『炎の王国』は人によって好みは分かれると思う。しかし、「狭いところに恐竜と閉じ込められたらイヤだ!」という恐怖感も、『ジュラシック・パーク』の持ち味だったことは間違いない。
その意味で、『炎の王国』はオリジナルを研究し、シリーズの新しい方向性を真面目に追求した作品と言える。何より、新シリーズ三部作の最終作に向けて大きく物語が動く作品だ。リアルタイムで観ておかないという手はないのである。
(しげる)

【作品データ】
「ジュラシック・ワールド/炎の王国」公式サイト
監督 J・A・バヨナ
出演 クリス・プラット ブライス・ダラス・ハワード ジャスティス・スミス ダニエラ・ピネダ ジェームズ・クロムウェル レイフ・スポール ほか
7月13日より全国ロードショー

STORY
ジュラシック・ワールドの事件から3年後。放棄されたワールド内で自由に暮らしていた恐竜たちだったが、イスラ・ヌブラル島の火山活動が活発になったことで危機が迫る。そんな中、かつてワールドに勤めていたオーウェンは恐竜保護活動をしているクレアと共に再び島に赴くことになる
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